584話 関わりたくないけど……
「で、これはどんな力がある魔石だと思う?」
ジナルさんが魔石を手に乗せ、お父さんを見る。
「たぶん、洗脳を解く魔石なんじゃないかな。今までも必要な魔石を生みだしてくれたから」
「てっりゅりゅ~」
お父さんを見て嬉しそうに鳴くフレム。
なんだか「分かってるね」と言っているようだ。
「正解だな」
「そうだな」
ジナルさんが手の中の魔石をじっと見つめる。
どうしたんだろう?
仲間の所へ行かなくていいのかな?
「これって、手に握らせればいいのか? それとも、体に押し付ければいいのか?」
あっ、使い方か。
どうだろう?
ジナルさんは胸のあたりから黒い線が出てたよね?
なら体に押し付けるのが正解?
「とりあえず手で握らせてみたらどうだ?」
「そうだな。無理なら胸に押し付けるか」
お父さんの言葉に頷くと、ジナルさんは私に視線を向けた。
「アイビー、この魔石を使わせてもらって構わないか?」
魔石の所有権は、魔石を生み出したフレムをテイムしている私にある。
なので、フレムが復活させたり生み出した魔石を使ったりする時は、私の許可がいる。
前に「ジナルさんなら、いつでも自由に使っていいですよ」と言ったが、「礼儀として必要だから」と言われてしまった。
毎回、訊く必要ないと思うんだけどな。
「もちろんです」
洗脳されているなら、早く解放してあげた方がいい。
「ずっと、ある事が気になっているんだが」
お父さんに視線を向けると、眉間に深い皺が刻まれている。
「ドルイドが気になっている事は、俺も気になってる」
えっ?
ジナルさんを見ると、ものすごく嫌そうな表情をしていた。
なんの事だろう?
「『いつ洗脳されたのか分からない』と、『記憶が無い』だよな」
お父さんの言葉に首を傾げる。
いつ洗脳されたのか分からない?
記憶が無い?
「「はぁ」」
うわっ。
2人とも、すごいため息。
そんなに面倒くさい事なのかな?
でも、何を面倒くさく感じるんだろう?
いつ掛かったのか、分からない……。
これって、魔法陣の術に掛かった時みたいだよね。
あの時もいつの間にか魔法陣の魔法で恐怖心を……魔法陣?
そうだ、魔法陣の影響で記憶が飛んだ事もあった。
……えっ、2人が気にしているのって魔法陣?
つまり、今回の事に……、
「魔法陣が関わっているの?」
お父さんとジナルさんのため息の理由は分かったけど、確認は大事だよね。
2人を見ると、正解だね。
露骨に嫌そうな表情をしている。
まぁ、確かに関わりたくない気持ちは分かる。
「確証はないけどな」
ジナルさんの言葉に苦笑が浮かぶ。
確証はないけど、たぶんそうだとジナルさんもお父さんも思ってる。
「はぁ~、調べずにこのまま村を出たいな」
あっ、お父さんの言葉に頷きそうになってしまった。
「それが出来たら苦労しないんだけどな」
「そうだな」
ジナルさんの諦めた笑いに、お父さんが肩を竦めた。
どういう事だろう?
ほっとけないという事かな?
「記憶の無い者がいると聞いてから、ずっと魔法陣について考えていた」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
「あぁ、俺もだ」
2人とも凄いな、私は記憶がない人の話を聞いても魔法陣は思い出さなかったな。
これが経験の差かな?
「あっ、フィーシェが帰ってきたな」
ジナルさんの言葉に玄関と、玄関周辺の気配を探る。
まだ少し玄関からは離れているが、知っている気配を感じた。
「仲間で試す前にフィーシェで確認が取れそうだ。あいつも今日、仲間に会ってるから」
「ただいま」
「お帰り」
そそくさと出ていくジナルさんに、慌ててお父さんと玄関へ向かう。
「どうしたんだ? 出迎えるなんて珍しいな」
「まぁな。とりあえず、これを握れ」
ジナルさんがフィーシェさんの前にフレムが作った魔石を出す。
それを不思議そうに見るフィーシェさん。
何の説明もないため、意味が分からないんだろうな。
「まぁ、いいけど」
いいんだ。
フィーシェさんが魔石を手に取ると、魔石がふわりと光りを放つ。
「えっ! えっ? なにこれ」
「魔石だな」
「見たら分かる! そうじゃなくて……ゲッ、なにこれ、なんか俺から出てきた。え~、おい、ジナル?」
やっぱり説明は必要だと思うな。
ジナルさんを見ると、感心したようにフィーシェさんの手を見ている。
「ジナル! なんなんだよ、説明!」
「悪い、そう怒るな。今出ている黒い線は魔力みたいだ。フィーシェには必要ないものだから出し切った方がいい。というか全部出すまで魔石を離すなよ」
「……はぁ、分かった。だいたいこの魔石、光ってから離れないし」
えっ?
フィーシェさんが魔石を持っている手を下に向け手を広げるが、魔石は落下しない。
本当に離れない。
「そうか。別に説明せずに魔石を握らせたらいいみたいだな。説明しても『問題ない』と言って拒否される可能性があったからな。あと、気分はどうだ?」
ジナルさんの質問に、一度ため息を吐いたフィーシェさん。
それで諦めたのか、それからはジナルさんの質問にどんどん答えている。
もしかしてフィーシェさんを実験台にしたのかな?
「あれは、慣れてるな」
お父さんがジナルさんとフィーシェさんのやり取りを見て、フィーシェさんに哀れんだ目を向けた。
「あっ、離れた」
フィーシェさんが魔石を持っていた手を開くと反対の手で魔石を持った。
役目を終えると、自然と手から離れるらしい。
ちょっとだけ、ずっとくっついていたらどうしようかと不安だったので、ホッとする。
「で、この魔石はどうしたんだ? それと俺から何が出てたんだ」
フィーシェさんがお父さんを見る。
「あの黒い線は魔力で、おそらく洗脳する何かだ」
首を傾げるフィーシェさんにお父さんが苦笑する。
「まだ、はっきり正体が分かっていないんだよ。実は……」
お父さんが、ジナルさんに起こった事、ソルの事、フレムの事を説明していく。
「なるほど。2人の予想は? あっ、その表情で分かった。魔法陣か?」
フィーシェさんがお父さんとジナルさんの表情を見て苦笑する。
「フィーシェの意見は?」
「俺も同じだな。特に知らない間に術を掛けるのは、魔法陣で経験済みだ。ジナルはこれからどうするんだ?」
「俺はこれから仲間の所へ行って来る。洗脳されているんだったら、解いてから話を聞く。もし、洗脳されていないのなら、裏切り者が誰なのか見極めないと駄目だからな」
「俺も行くよ。1人だと危険だ」
ジナルさんとフィーシェさんは、お互いに頷くとお父さんへと視線を向けた。
「俺はここで待機しておくよ」
「りゅっりゅ~、りゅ~、りゅ~。……ポン」
えっ?
部屋から聞こえた音に、お父さんと顔を見合わせる。
「今のって、フレムが魔石を生む時の音だよな?」
「うん。その透明の魔石の時は違ったけど、前の時はこんな音をさせてた」
急いで部屋へ戻ろうとすると、何かを咥えたシエルが出てきた。
そして、私の傍らを通り過ぎると玄関へ行き、ジナルさんの足元に咥えていた物を置いた。
「えっと、俺に?」
ジナルさんが魔石を拾うと、シエルは満足したのか部屋へと戻って行く。
役目を終えた?
というか、あの魔石は何?
「ジナルさん、見せてもらっていいですか?」
「もちろん。というか、これもアイビーの魔石だからな」
ジナルさんから、魔石を受け取り確認する。
透明の魔石で、フレムが生んだもう1つの魔石とほぼ同じ大きさで同じ形。
ただ、こちらの魔石は中心部分が青くなっている。
青は、傷を癒すポーションの色。
でも、この魔石がなんの傷を癒すのかは分からない。
試すとしても……。
「俺に渡したという事は、仲間にそっちの魔石が必要な者がいるという事なのかもな」
そうかもしれない。
「確かめてくるよ」
ジナルさんに魔石を渡すと、フィーシェさんと一緒に玄関から出ていく。
いい結果に繋がるといいけど……。




