583話 ジナルさん?
「教会といえば、一部の冒険者から不信感を持たれていたらしい」
不信感って事は信用できないって事だよね。
それは当たり前では?
……あっ、この村では教会は特別なんだった。
「そうなのか?」
お父さんが不思議そうに訊くとジナルさんが頷く。
ジナルさんが調べて分かったという事は裏の噂かな?
私達の方では、教会に対して不満や信用できないなんて言う人はいなかった……ん?
違う、いた。
「お父さん、教会の事を不気味だと言っている人がいたよね? 確かギルマスの姿が見えない事を話していて……よく聞こえなかったけど『補佐』がどうとか」
「いたな。確か何かを見たとも言っていたな」
「どんな背格好の者だった? 特徴はあったか?」
ジナルさんの勢いに、お父さんが少し驚いた表情を見せた。
「あっ、悪い。思ったより情報が少なくてさ」
珍しくジナルさんが焦っている?
いつも飄々としているのに。
「無駄に力が入ると、視野が狭くなるぞ」
お父さんの言葉に苦笑するジナルさん。
「どうしたんだ?」
心配そうなお父さんにジナルさんが首を傾げる。
「何がだ?」
ジナルさんの態度にお父さんの眉間に皺が寄る。
「ジナル、今日何かあったか?」
「はっ? 仲間と会って、クスリを盛られたと聞いて……」
不思議そうに、今日の行動を話したジナルさん。
特におかしなところはない。
でも、何だろう。ほんの少し何かが変に感じる。
いつものジナルさんなんだけど……。
「にゃうん」
「ぺふっ」
「えっ?」
ここで聞くはずのない声に、慌てて部屋の扉へ視線を向ける。
そこには、シエルと頭に乗ったソルの姿があった。
「にゃうん?」
「シエル? それにソル? どうしたの?」
今まで勝手に部屋から出た事は無いのに、どうしたんだろう。
もしかしてソラたちに何かあったのかな?
急いでシエルの下へ行こうとするが、その前に部屋に入ってきてしまう。
そしてそのまま、ジナルさんの傍に行く。
「どうしたんだ?」
不思議そうにシエルとソルを見るジナルさんに、プルプルと震えるソル。
何をしたいのかさっぱり分からない。
「ぺふっ」
シエルの頭の上にいたソルが、何を思ったのか勢いよくジナルさんの胸元に飛び込む。
「おっと。抱っこして欲しかったのか?」
そうなのかな?
ソルを見ると、ジナルさんの胸元に顔を埋めている。
そんなにジナルさんが好きなのだろうか?
「おい、ソル?」
首を傾げていると、お父さんが焦った声を出す。
ソルを見ると、なぜか微かに光を纏っている。
「えっ?」
ジナルさんが慌ててソルを手で持つと胸元から引き離す。
「なんだこれ」
ジナルさんが自分の胸元を見て、呆然としたのが分かった。
私の位置からではソルがいるため、胸元がよく見えない。
ちょっと体の位置を変えて見ると、ジナルさんとソルが細い黒い線で繋がっている。
「えっと、これは?」
ジナルさんが戸惑った表情で私を見るが、首を横に振る。
「ごめんなさい。こんな事は初めてで」
どうしていいのかわからず、そのままの状態で数分。
ジナルさんの方から黒い線が消えていく。
「もしかしてジナルからソルに、その黒い線が移動していたのか?」
ソルを見ると、なぜかとても満足そうに見える。
ソルがこういう表情をする時は、たいてい魔力を満足するまで食べた時だ。
「ソル、もしかしてその黒い線は魔力なの?」
「ぺふっ」
えっと、ジナルさんから魔力を奪ったという事?
……ジナルさんを見ると、首を傾げながら胸元をさすっている。
何か違和感でもあるんだろうか?
この場合、ソルをテイムしている私はどうしたらいいんだろう?
「魔力を奪ってごめんなさい」とか?
「魔力をありがとうございました」とか?
ちがう、ちがう。
無断で奪っておいて、お礼を言うのは駄目だよね。
いや待って、人から魔力を奪えるの?
「何かされてたのか?」
ジナルさんに視線を向けると、なぜか頭を抱えていた。
お父さんを見ると、首を横に振った。
「大丈夫か?」
「あぁ。ソル、ありがとう」
えっ?
お礼?
私とお父さんが不思議そうにジナルさんを見ていると、それに気付いたジナルさんが小さく笑った。
「やられたよ。どうやったのか分からないが、何かされていたようだ」
「何か?」
お父さんの言葉にジナルさんが少し情けない表情を見せる。
「あぁ、いつもだったら処理出来るのに、なんかこう……『何かしなくては』という焦りというか『そうしないと駄目になる』そんな気持ちにさせられていたみたいだ。ソルが黒い線の魔力なのか? それを取ってくれたあとは、そんな気持ちは綺麗さっぱり無くなっている」
「洗脳?」
お父さんがこぼした言葉にジナルさんが頷く。
「たぶん」
「それにしては、中途半端じゃないか?」
確かに、洗脳にしてはゆるい感じがする。
ジナルさんも、そう思っているようだ。
「でも、どうやって洗脳されたんだ? 今日の行動で何か思い当たる事は無いのか?」
「今日の行動といっても……仲間たちに会って情報を交換したぐらいしか……仲間か」
ジナルさんが、苦しそうな表情をした。
出会った人が仲間だけなら、結果的にそうなる。
でも、まだ違う可能性だってあるはず。
「ジナルさん、前に私たちが知らない間に魔法陣の影響を受けていたように、他の可能性もあります。仲間の人達だって、もしかしたら洗脳されている可能性だって」
あれ、仲間の人が洗脳されていたらもっと大変なんじゃ……。
「あぁ、そうだな。裏切ったと決めつけるのは早いな……調べる方法は……」
今のところソルだよね。
でも、ジナルさんの様子からソルにお願いする気はないみたい。
そういえば、私やお父さんがジナルさんの仲間と関わるのは嫌みたいだな。
どうしてだろう?
誰かに言ったりしないけどな。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅっりゅ~」
えっ?
ソラもフレムも来ちゃったの?
鳴きながら勢いよく部屋に入ってきた2匹を見る。
その後ろからシエル。
「シエルが、部屋から連れてきたのか、部屋の外で遊んでいた2匹を回収してきたのか、どっちだろうな」
お父さんの言葉に、ソラとフレムを見る。
かなり楽しそうに、プルプルと揺れている。
これは思う存分遊んできた後だろう。
「後者だな」
お父さんが笑いながらソラの頭を撫でる。
まぁ、そうなんだろうなと頷きフレムに視線を向けて固まってしまった。
「お父さん、ジナルさん。フレムがソルを食べてるんだけど……」
「えっ? うわっ」
お父さんの慌てた様子とジナルさんの絶句した表情が視界の隅に映る。
でも、目の前の光景を見たら当然だろうなと、なぜか冷静な部分の私が思う。
えっと、フレムの中にソルがいる。
しかもあの消化する時の泡がでてる。
えっと、ソラとシエルは?
「寝てる」
シエルはじっとフレムを見ているが、その隣のソラは既に寝ていた。
「ん? あぁ、ソラは寝てるな」
お父さんは戸惑った様子でソラとフレムを交互に見る。
「ソラがこの状態だから……ソルに何か起こる事は無いんじゃないか?」
そうだよね。
ソラが寝ているという事は、ソルが食べられているわけじゃない。
ぺっ。
「あっ、出てきた。ソル、大丈夫か?」
ジナルさんの言葉にむくりと起き上がったソルは、体をプルプルと震わせると大きな欠伸をした。
大丈夫みたいだ。
「てっりゅりゅ~」
ぺっ。
ころころころ。
魔石だ。
楕円形で透明な魔石を出したフレムが、ちょっと胸を張る。
これは「凄いだろう」という自慢したい時だよね。
「ありがとうフレム。綺麗な魔石だね」
傍に転がった魔石を手に取る。
私の手では収まりきらない大きさだ。
それにしても、すごい透明感。
「綺麗」




