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580話 甘味と噂

トトムさんのお店を出て大通りを歩くと、さっき聞いたようなギルマスさんについての噂がちらほら聞こえてきた。


「やっぱり気付くよな。姿が見えなくなってから少し経つから」


お父さんの言葉に頷くと、女性たちが噂していた話を思い出す。


「トトムさんのお店で、『冒険者ギルドのギルマスさんは女性と逃げた』と言っている人がいたよ」


「あ~、いるんだよなぁ。ある程度名前が知られている者が、急に姿を隠したり、何も言わずに村や町から出たりしたら、恋愛に結び付けて噂する人達が」


名前が知られていると、色々大変なんだな。


「たまに、本当に女性と逃げる者がいるから、いつまでたってもその噂が無くならないんだよ」


たまに、いるんだ。

男の人も、女の人も色々大変なんだね。


「アイビーはいい恋愛しろよ。いや、俺が認めた奴しか駄目だからな」


私、恋愛できるかな?

チラリとお父さんを見る。

何かを決意したように頷いている。

……無理かも。


私より、お父さんは誰かと結婚しようと思わないのかな?

強いし、気配りだって出来るし、何より優しい。

顔だってかっこいいと思うし、お金も持ってる。

あれ?

理想の男性じゃない?

でも、一緒に旅をしていても女性から声を掛けられた事、無いよね。


「どうした?」


私が一緒だからかな?

もしかして、私がお父さんの出会いを邪魔してる?


「ん? 本当にどうしたんだ?」


私が「出会いの邪魔してない?」と聞いても、「邪魔じゃない」と言うよね。


「お父さんは、誰かと付き合おうと思ったりしないの」


「しないな」


迷いが無かった。

これは、全然付き合う気はないみたい。

まぁ、旅をしている最中だもんね。

旅が終わったら、お父さんも考えが変わるでしょ。


「あっ、そうだ。トトムから聞いたんだが、六の実を使った甘味がこの村の自慢らしい。食べに行かないか?」


「行く!」


甘味!

何かな、すごく楽しみ。


「お薦めの店は、聞いた道順からこの辺りのはずなんだが……あれだ!」


お父さんが指す方を見ると、こじんまりとした店が見えた。

看板に六の実が割れている絵が描かれている。

どんな甘味なんだろう?


「結構、並んでいるな。並んでいいか?」


お店の前には、20人ほどの人の列。

それだけ美味しいという事だよね。


「もちろん」


お父さんと最後尾に並ぶと、すぐに後ろに人が並んだ。

本当に人気店なんだ。

売り切れとか、大丈夫だよね?


「ギルマスが、誰かに襲われたらしいぞ」


あっ、ギルマスさんの噂だ。

後ろに並んでいるのは、20代後半くらいの男性2人。

体つきから冒険者や自警団ではないはず。


「その話は本当なのか? あのギルマスだぞ?」


「そうなんだよな。あのギルマスが、そんな簡単に襲われるか?」


あのギルマス?

もしかしてすごい有名な人なのかな?


「でも、最近は姿を見ないだろう?」


「あぁ、見てないな。でもさ、襲われたとしてもポーションがあるしさ。そんなに心配しなくてもいいんじゃないか?」


「そうだけど……あのさ」


あっ、声が小さくなった。


「どうしたんだ?」


「ちょっと見ちゃって」


「何を?」


「きょうか……補佐……だから、あや……」


あ~、聞こえなくなっちゃった。


「それ、本当か?」


「あぁ、やっぱり教……不気味だよな」


きょうかは、教会の事でいいよね。

補佐は、ギルマスさんの補佐の事かな?

重要な部分が全く聞こえなかった。

残念。

でも、教会は不気味というのは分かった。


「どれがいい?」


お父さんの言葉に、店の前に出ていたメニューを見る。


「一番人気の、六の香りかな? それにしても、名前からじゃどんな甘味なのか想像できないね」


なにこの赤い香りや緑の香りって……。


「香りを楽しむ甘味なのか?」


お父さんが首を傾げながら店の中を見る。


「ここまで来ると、甘味が見えるな。ほら、あれだ」


私達の前のお客が店の中に入って行くのを見ながら、甘味に視線を向ける。

正面に置いてあるケースに並んでいる、小さなカップ。

赤や緑以外にも、紫や青い色もあるらしい。


「次の方どうぞ。いらっしゃいませ」


順番が来たので、ケースの前に行くとほんのり優しい香りがした。


「一番人気は、六の香りですか?」


「はい、六の香りはかなり人気です。次が赤い香りです」


お店の人の説明に、人気の2つを見比べる。

どう違うのかな?


「おいしいと薦められたんですが、どんな味なんですか?」


「六の香りは優しい甘味で、赤の香りは少し酸味があるさっぱりとした味です」


さっぱりした甘味なんだ。

どっちも気になるな。


「六の香りと赤の香り、2個ずつ。他にもいるか?」


慌てて、首を横に振る。

2つとも欲しいと思っていたの、顔に出てたかな?


お店から出ると、お父さんが周りを見回す。


「あそこで食べないか?」


店と店の間に作られた休憩場所。

テーブルと椅子が置かれている。


「うん。味が凄く気になる」


「うまかったら、帰りにまた買ってもいいしな」


それはいいかもしれない。

休憩場所にはかなりの人がいた。


「空いてないね」


「そうだな。あっ、あそこにしよう」


お父さんが指したのは、賑わっている店の近くの場所。

きっとあそこは、人の出入りが激しい場所だからゆっくり出来ないのだろう。

人の声も聞こえやすいしね。


「あそこしか空いてないもんね」


お父さんと椅子に座って、買ってきた六の香りと赤の香りを出す。

どっちを食べよう。

ここは一番人気? 


「そんなに迷う事か? どっちも食べられるのに」


「そうなんだけど、迷う」


「ははっ。あっ、うまいな」


あれ?

もう食べてる。

ん~六の香りから!


「あっ、おいしい」


本当にほんのりとした優しい味だ。

うわ~、柔らかいけどちゃんと食感がある。

これ、おいしい。


「なぁ、昨日の夜さ」


「どうしたの?」


人が賑わう店と休憩場所の間には、少し高めの衝立がある。

そのせいで姿が見えないが、男性と女性の声が耳に届いた。


「この村を守っている塀があるだろう? その塀の一部が開いてたんだよ」


あっ、もしかして村に入るところを見られたのかな?


「はっ? 塀が開くって何よそれ、あるわけないでしょ?」


「やっぱりそうだよな? 夜だったから、見間違えたのかな?」


夜?

という事は、私達じゃないね。

良かった。


「なに? 気になるの? そもそも、塀が開いていたとしても、私達には関係ないでしょ?」


「そうなんだけど、その塀が開いた所から人が村に入って来てさ」


「そうなの? 不法侵入?」


女性の方が、少し警戒したような雰囲気で話す。


「分からない。とっさに隠れたんだけど。近くに来た時に、クスリの話をしてたんだよ」


「クスリ? それって危ないじゃない。ちゃんと隠れた? 見られてない?」


「それは大丈夫」


「そう、よかった。それにしてもクスリの話をする不法侵入者か。見間違いじゃなくて塀に隠し扉があったりしてね」


あります。

まぁ、それはいいとして。

麻薬組織の人達だとしたら、あの洞窟に行ってきたのかな?

大量のカリョが枯れているのを見たら、衝撃だろうな。


「さて、食べ終わったみたいだし、行くか」


「うん」


食べ終わってから長くいると怪しまれるからね。

荷物を抱えて、そっとその場を離れる。

お父さんを見ると、なにか考え込んでいる。


「どうしたの?」


「アイビー、さっきの2つはうまかったか?」


「もちろん! すごく美味しかったよ」


「よしっ! じゃ、帰りに全種類を買って行こう」


はっ?

お父さんを見上げると、楽しそうに笑みを見せる。

あっ、相当気に入ったんだ。

確かに、程よい甘さで何個でも入りそうだったもんね。


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― 新着の感想 ―
やっぱりいつかアイビーの恋愛も見たい!! くっラットルアさんがもっと少年だったら…!!
[一言] 旅と出会いは難しそうですよね。
[一言] まあ、こんな旅を続けてれば親子共々出会いは無さそうだけど… アイビーに恋愛云々はまだ早いんじゃないかな(^^;
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