表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
619/1157

575話 まずは話を

「こちらです」


ガルスさんたちに案内されて、村に入るために塀に沿って歩く。

村の門からはどんどん遠くなっていくのを、不思議に思いながら周りを見渡す。


「どうした?」


「門を通らないと村には入れないと思っていたから、不思議で」


「まぁ、普通は使わないからな。非常事態の時だけ使う方法だよ」


お父さんの言葉に神妙に頷く。

今が非常事態なんだと、強く感じて緊張してしまう。

小さく深呼吸して前を見る。

ジナルさん達も騎士達も、微かに緊張しているのが分かる。

もう一度、息を深く吸って静かに吐く。


「大丈夫」


ギュッと握られた手に力を込めてお父さんを見て笑う。

うん、大丈夫。


「ここです」


ガルスさんが立ち止まったので塀を見るが、特に周りと違うところは無い。

扉も小さな目印さえ見つからない。

知らなかったら、決して見つける事が出来ないだろうな。


ガルスさんがその場にしゃがみ込む。

すぐに立ち上がり、塀の一部に手を突いた。


カコン。


小さな音が聞こえた次の瞬間、塀の一部が横にずれていた。

凄い。


「お待ちしてました。あれ?」


塀の向こう側にいた人がジナルさんを見て挨拶をするが、隣にいるホルさんを見て戸惑った表情を見せた。

まさか騎士達がいるとは思わなかったのだろう。

そう言えば、まだホルさんたちが騎士だと言っていないな。

……素性を確かめなかったけど、大丈夫なのかな?


「あっ」


ガルスさんが微かに焦った表情を見せた。

もしかして、忘れていたんだろうか?


「すみません。ジナルさん達が見つかった事に安心してしまって」


待っていた男性が苦笑を浮かべる。


「すみません。『風』のジナルさんとフィーシェさんは分かります。あと、ドルイドさんとアイビーさんの事も報告を受けています。あなた方は……あれっ、荷物運びの?」


男性はホルさんたちの事を覚えていたようだ。

かなり不思議そうな表情でホルさん達、騎士を見つめている。


「騙して申し訳ありません。我々は王族騎士団です」


ホルさんが何かを取り出し男性に見せると、男性が焦った表情をした。


「そうだったんですね。えっと、失礼しました」


男性の言葉に首を振るホルさん。

ガルスさんが隣でかなり驚いた表情をしている。

ホルさん達の行動を見ていると、荷物運びや冒険者にしては品があるけど、そこまで見る余裕はなかったんだろうな。


「こちらにどうぞ」


男性の案内で村に入り、近くにあった建物に入る。

建物の中はとても静かで人の気配を感じなかった。


「ここは両ギルマスが密かに用意していた隠れ家の1つです」


隠れ家?

ここが?

建物を見た時も思ったけど、かなり大きな建物だった。

中を見ても分かる。

玄関も廊下も広い。

なんでこんな大きな建物を必要としたんだろう?

それに男性は、隠れ家の1つだと言った。

それは隠れ家が何か所もあるという事だよね?


全員が建物に入り、扉を閉めると、男性が振り返った。


「初めまして。ギルマス代理をしているプラフです。オカンイ村の冒険者ギルドのギルマス、トルラフの息子です。『風』のジナルさんに、この村を助けて頂きたいのです。お願いします」


深々と頭を下げるプラフさんに、ジナルさんが微かに眉間にしわを寄せた。


「まずは、俺たちを内密にここに呼んだ理由が知りたい。すべてはそれからだ」


ジナルさんの言葉に、プラフさんが頷くと近くの部屋の扉を開けた。

中は机以外になにも無く、がらんとした印象を受ける。


「どうぞ」


プラフさんが部屋に入ると、ジナルさん達も次々に部屋に入っていく。

そっとソラの入っているバッグに触れる。

何も伝えてこないので、息を吐くとお父さんと一緒に部屋に入る。


「あの……」


プラフさんが私を見て、少し戸惑った表情を見せた。

たぶん、私が子供なので話を聞かせて良いのか迷っているのだろう。


「問題ない」


お父さんの言葉に無言で頷いたプラフさんは、ジナルさん達に座るよう促し自分はジナルさんの前に座った。


「ガルスたちはどうする?」


「……一緒に聞きます」


ガルスさんはエバスさんとアルスさんに視線を向け頷くと、プラフさんから少し離れた部屋の隅に座った。


「まず、森の中の不当なゴミについて、放置するように言ったのは俺です。すみません。まさか魔物がここまで暴走するとは思いませんでした。少し時間が稼げるぐらいに暴走してくれればと思ったんです。でも、今はそれが間違いだったと思います。ジナルさん達には迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません」


深く頭をさげるプラフさんに、ジナルさんが小さく息を吐くのが分かった。


「森の中にゴミが大量にあると知っていて、放置するのは犯罪になると分かっているのか?」


「はい」


「そうか。色々言いたい事はあるが、訳ありみたいだしな。話を全部聞いてから判断するよ。それと騎士たちも暴走した魔物に数回襲われたから」


プラフさんが驚いた表情でホルさんたちに視線を向ける。

そして、もう一度頭を下げた。


「すみませんでした」


顔を青くしているプラフさんは、なんだか見ていて可哀想になってきちゃうな。

でも、どうして騎士達が襲われた事を言ったんだろう?

後でも……後で小出しにされるより、ここですっきりした方がいいという事かな?


「我々の被害は最小限だったから気にするな」


ホルさん達、騎士は謝っているプラフさんに頷いた。


「ありがとうございます」


「それで? 時間稼ぎが必要だった訳は?」


姿勢を正したプラフさんがジナルさんを見る。


「2週間ほど前です、両ギルマスや補佐が血を流して倒れているのを発見したのは。ポーションでの治療はすぐに行われたのですが、血は止まるのに怪我が治らない。おかしいと思ったので、すぐに医者を呼びました。結果、父や一緒に倒れていた兄が中毒者だと言われました。他の者たちもです」


お父さんだけじゃなくて、お兄さんもいたんだ。


「両ギルドは、翌日の朝には事実を公表しようとしました。でも、どうしても信じられなくて数日待って欲しいとお願いしました」


そうだよね。

お父さんやお兄さんがクスリに手を出したなんて信じたくないよね。


「父たちを発見した翌日に、詳しく診察した医者は『おかしい』と。いつから麻薬を始めたのか不明だから、よく調べた方がいいと言ってくれたんです。でも、公表を急かす者たちがいて。そんな時に、森の中に大量のゴミが捨てられていると報告がありました。俺は父たちの問題より、まずはゴミの方を優先するように進言しました。放置すると暴走する魔物が現れるからと。そして使えると思いました。暴走した魔物が少しでも現れてくれたら、父たちの事を調べる時間が稼げると。まさか、大量の魔物が暴走するなんて思わなくて」


麻薬とお父さんの関係を調べる時間が欲しかったのか。


「ギルマスと麻薬の関係は分かったのか?」


ジナルさんの言葉にプラフさんが頷く。


「これを」


プラフさんが机の上に、オレンジの小さなメモ帳を置く。

男性が持つような物ではなく、女性が持つような花柄が入っている。


「父や兄の部屋を調べてもなにも出なくて、父の執務室からは麻薬が見つかったと報告がありました。

やはりクスリに手を出していたのかと思った時に、襲われた日の朝にした兄との会話を思い出したんです。兄が「母の遺品を処分するから」と。でも、母の遺品は1回整理されていて処分するものは無いはずなんです。気になって、母の遺品を調べたらこのメモ帳が見つかりました」


ジナルさんがメモ帳を手に取り、中を見る。


「それには、村にクスリが蔓延している事。怪しいと思われる人物。そして、大規模なクスリ製造場所がある可能性について書いてありました。最後のページには、情報提供者が見つかったと」


「それが敵の罠だった可能性が高いな」


最後のページを見たジナルさんがため息を吐く。


「はい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 誤字報告 見つかったメモ、メモ量じゃなくてメモ帳でしょうか? さあさあ事件だ事件だ( ˙꒳˙ ≡ ˙꒳˙ ) ハタカ村編大好きな私、でっかい事件に立ち向かうアイビー達全力待機
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ