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番外編 ジナルさんは防ぐ

‐ジナル視点‐


テントを出る前に、周りの気配を探る。

見張り役が1人なのを確認してから、テントを出る。

思った通りリーダーのホルがいた。


「お疲れさん、今日は疲れただろう?」


結構な大物を狩ってきたからな。


「いえ、大丈夫です」


焚火に照らされたホルの表情に戸惑いが見える。

それに気付かないふりをして、焚火の傍に座る。


「お茶を入れるが飲むか?」


「えっ、はい。お願いします」


チラリと盗み見ると、何かを考えている表情。

俺の目的が分からないからなんだろうな。

寝られないからお茶を飲みに来たとは、さすがに思わないか。


「はい。少し濃い目に入れてあるから」


お茶の入ったコップを渡す。

受け取ったコップの中身を見て、飲むか少し迷うそぶりを見せるホル。


「お茶以外の物は入ってないから、安心していいぞ」


自分のお茶を飲みながら、安全だと示す。

コップもホルの前で洗ったし、これで十分だろう。


「すみません。色々ありまして」


ホルの言葉に苦笑する。

立場は違うが、口にする物を警戒するのは俺も同じだ。

俺も、色々あるからな。


「濃すぎませんか?」


「そうか? そこにお湯があるから足したらいいぞ」


そんなに濃いか?

まぁ、茶葉は2倍だが。

もう一口飲む。


「濃くないだろう」


「濃いですよ」


ホルがコップにお湯を足すと味を確かめて頷いた。


「美味しいです。ありがとうございます」


「結構な量のお湯を入れたから、それは既に俺が入れたお茶ではないような気がするが」


俺の言葉に、笑うホル。

ちょっと納得できないが、警戒が薄れたのでいい事にするか。


「気付いているんでしょう?」


どう訊こうか迷っていると、ホルから話を振ってきた。

それに頷くとお茶を飲む。


「まぁ、気付きますよね。『風』のジナルともなれば」


それには肩を竦める。

俺だからと言いたいが、ドルイドも気付いていたからな。


「誰だと?」


「第3王子」


ホルから小さな笑い声が届く。

視線を向けると、無理して笑っているのが分かった。


「気付きますよね」


気付くかな?

馬車は質素でどこにでもある物だ。

倒れたり襲われない限り、その馬車が異様に頑丈だとは気付かない。

騎士たちはまぁ、少し違和感があるが荷物運びなら、少しは誤魔化せるだろう。

少し体格がよすぎる気もするが。


「目付きは駄目だな」


「ははっ。普段はあいつらもちゃんと出来るんですが。あの時は、駄目でしたね」


瀕死だったからな。

ある意味、あんな時でも演技ができた奴らが凄いのか。


「あの、確認したいのですが」


「なんだ?」


聞きたい事は分かるが、俺から言う事は無いな。


「ドルイドさんとアイビーさんは信用できるのでしょうか? 『風』のメンバーでは無いですよね?」


「メンバーでは無いが、彼らは問題ない。彼らは『風』にとって恩人なんだ」


「恩人?」


不思議そうなホルに頷く。


「詳しくは言えないが、恩人だ。彼らがいなかったら、どうなっていたか」


今、冷静になって考えても嫌な考えしか浮かばない。

間違いなく、俺たちは駄目になっていただろう。


「すみません。どうも、疑心暗鬼になっているようで」


ホルが疲れたようにため息を吐く。


「裏切り者か?」


「えっ?」


「剣の予備、6人分あるのに今は5人だ」


馬車から彼らの荷物を出す時に見えた、剣の予備は6人分。

なのに、ここには5人の騎士しかいない。

1人分を、余分に持って来ていたのか。

それとも、使う者が居なくなったのか。

他の荷物はどれも最低限に抑えられていた。

おそらく荷物を減らすために。

だから、使うか分からない物を持ってくるとは思えない。

たとえ剣1本だとしても。

となると、どうして1本多いのか。


「もしかして、最近まで第3王子と共にいたのか?」


裏切り者がいたのなら、王子がいる、いないははっきり敵に伝わっている。

そして王子がいないと分かっている囮を、わざわざ襲うような馬鹿はいない。

でも、襲われた。

つまり、襲う原因が傍にあったという事だ。

この場合は、第3王子。


「でも、本物か影かは騎士たちも知らないんだっけ?」


確か第3王子には数名の影がいると聞いた。

しかも本物がどれか、騎士たちも知らないとか。

そんな事があるのかと思ったが、第3王子は全てが秘匿だからな。

ありえそうだ。


「はぁ。失態だ」


ホルが頭を抱える。

それを見ながら、お茶を飲む。


「これだから、王都で名を馳せる上位冒険者とは関わらないように気を付けていたのに」


ご愁傷様です。


「全て憶測ですよ。本当のところは一切不明です」


でも、正解でしょ?

ホルを見ると、眉間に皺を寄せている。

思いは伝わったらしい。


「……いい性格してますね?」


知ってます。


「ははっ。そんな事ないよ。そういえば、逃がせたみたいだな」


ホル達の態度から、本物か影かは知らないが襲われる前に逃がせたんだろう。

まぁ、誰とは言わないが。

笑って言うと、すごい嫌な表情をされた。


「くそっ。本当に、良い性格だ」


ホルが小さく悪態をつく。


「……アイビーさんから話を聞き出そうとしたからですか?」


「さぁ?」


肩を竦めると、苦虫を嚙み潰したような表情になるホル。


「ただ、子供から情報を聞き出そうとするのは屑のする事だよな」


「くっ。すみませんでした」


ホルが頭を下げる。

その様子を見ながら、安堵する。

彼らがすぐに行動をしなくて良かった。

もし、不用意にアイビーから情報を聞き出そうとしたら、まず間違いなくドルイドが切れる。

奴だけでも厄介なのに、フィーシェまで加担しそうなんだよな。

ほんと、様子見している時に気付けて良かった。

ドルイドもフィーシェも気付いていたが、まだ見ているだけだったからな。


「もういいよ。それで何を聞きたかったんだ?」


俺で答えられる事なら答えるが?


「いえ、ドルイドさんがどんな人なのか訊きたくて」


まぁ、それもあるだろうが……それだけじゃないよな。


「ほかには?」


「……裏切ったあいつの仲間かどうか確かめたくて」


なるほど。

助けて恩を売っておこうとしたのではないかと、思ったわけか。


「確かにすごい瞬間に駆け付けたもんな。あと少し遅かったら死んでいる少し前なんて」


「はい」


「不安に感じるのも当然だ」


分からないでもない。

俺がホルの立場だったら、やっぱり怪しいと思うだろうからな。

だが、怪しむだけ無駄だ。

ドルイドの行動理由なんて「アイビーが」だからな。

今回は「アイビーが助けると言ったから」だろう。


「怪しむのは自由だが、無駄だぞ。アイビーに危害が及ばない限り、ドルイドは優しいお父さんだ」


アイビーのする事を1歩引いて見守るドルイドは、理想のお父さんだろうな。

俺は、口や手を出し過ぎて鬱陶しがられたからな。


「お互いを大切にしてますよね。アイビーさんの様子を見ていると、ドルイドさんが必ず傍で見守っていますし。アイビーさんもドルイドさんの健康面などを気にして料理していたし……羨ましいですよね」


ホルの言葉に、笑ってしまう。

そうなんだよな。

あの2人を見ていると、本当に羨ましく感じる。

俺と息子もあぁなれないかな?

……全く、なれる気がしない。

考えるのは止めよう。

傷つくだけだ。


「他に訊きたい事は?」


「いえ、無いです」


裏切り者と通じているかだけが気になったのか。


「そうか。何かあったら、訊いていいぞ」


「……ありがとう」


「さて、もう少し寝てくるよ。明日もかなり歩くことになるからな。お休み」


「お休みなさい」


テントに戻りながらホルの様子を窺うと、少しすっきりした表情をしている。

仲間の裏切りで、心にくすぶっていた不安や疑心が少し薄れたんだろう。


「大丈夫そうだな」


あとは、時間が必要だ。


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― 新着の感想 ―
ご愁傷様です。 「全て憶測ですよ。本当のところは一切不明です」 でも、正解でしょ? ホルを見ると、眉間に皺を寄せている。 思いは伝わったらしい。 「……いい性格してますね?」 知ってます。 -…
[気になる点] ジナルさんクズだって言ってますけど 自分だってアイビーに付き纏ってませんでした?
[一言] あの変な冒険者達が繋がるのかな。
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