59話 予定外と炎の剣
竹筒に水を補充しながら、周りの気配を探る。
暑さで思いのほか水の減りが早い。
竹筒が増えた事で少しはマシなのだが。
「ぷっぷぷ~」
私の周りを元気に飛び跳ねているソラ。
何だか今日は、朝からテンションが高い。
何か理由があるのだろうか?
……傷だらけの何かとかだけは、やめて欲しいな。
いや、ソラが傷好きとは……ちょこっとしか思ってないから。
そして、もう1つ予定外があった。
それが
「グルル」
アダンダラだ。
ラトメ村を離れて既に4日目。
村を離れた時から今日までずっと一緒に居る。
動物や魔物には縄張りがあると聞いたことがあるのだが、大丈夫なのだろうか?
アダンダラに視線を向けると、尻尾を振って私に頭をこすりつける。
ん~、本当にテイム出来ないのが残念だ。
アダンダラが一緒なので、村道は止めて森の中を進むことにした。
さすがに村道を堂々と歩くのは駄目だろう。
地図を購入しておいてよかった。
そうでなければ森で迷子になるところだ。
「行こうか」
ソラとアダンダラに声をかけて、地図を見ながら森の中を進む。
気配を探りながら不思議に思う。
ここ4日ぐらい、魔物も動物の気配もかなり遠いのだ。
歩いている森は、うっそうとしている場所もあるため、魔物がいてもおかしくないのだが。
チラッとアダンダラを見る。
アダンダラは、本に載っていた情報ではかなり上位の魔物とあった。
もしかして、アダンダラを怖がって近づいて来ないのだろうか?
私の視線に気が付いたのか、私を見てグルルと喉を鳴らす。
……可愛い。
動物や魔物が、警戒するような魔物には見えないな。
本の情報が間違っているとは考えられない。
やっぱりアダンダラではないのかな?
特徴はアダンダラまんまなんだけど。
森の中を進んでいると、少し離れた場所に気配を感じて立ち止まる。
ソラを呼んでバッグに入れる。
アダンダラは、気配のする方向へ視線を向けているが警戒しているようには見えない。
「この気配は冒険者だと思う。討伐されない様に隠れて」
「グルル」
喉を鳴らすと颯爽と森の何処かへと走りさる。
心配だが、大丈夫だと信じよう。
村道へ戻る方向を地図で確かめて、歩き出す。
冒険者だとは思うが、少し人数が多いような気がする。
気配が動いているので、遭遇しない様に気を付ける。
村道へ出て、冒険者たちの気配を探るが森の奥に行ったようだ。
よかった。
少しすると、また気配を感じた。
こちらも、気配の薄さから冒険者のようだ。
先ほどの冒険者の数はグループにしては多かった、そしてまた冒険者。
冒険者が同じ場所に居るという事は、討伐対象の動物か魔物が出た可能性が高い。
もしくは指名手配された者が、森に逃げ込んだか。
ゆっくり深呼吸をして、広めに気配を探る。
もう1つ、冒険者だと思われる気配を見つけることが出来た。
似たような気配の薄さ、どちらも冒険者だとすると、やはり森に何か問題がおきたのかもしれない。
……どうしよう、冒険者に聞くべきか?
でも、本当に冒険者かな?
もし、違ったら……。
また違う気配を感じた。
村道を歩いているようで、少しずつこちらに近づいてくる。
気配からわかる事は、4人という人数だけだ。
姿が確認できる場所まで行ってみよう、それから判断しても遅くないはず。
ただし、いつでも逃げられるようにしておこう。
しばらくすると、遠くに冒険者の格好をした4人の男性が見えた。
おそらくあちらからも私が見えているだろう。
感じる気配は薄く、広場で感じた冒険者たちと似たような気配で違和感はない。
大丈夫だろうか。
ドキドキしながら冒険者たちに近づく。
「坊主、1人か?」
どう声をかけようか迷っていると、向こうから声をかけてくれた。
少し警戒をにじませながら、小さく頷く。
「ハハハ、そう警戒しないでくれ」
男性4人は少し離れた場所で止まってくれた。
私を怖がらせないようにだろう。
「リーダーの顔が怖いからでしょ。大丈夫だよ、顔はこんなだけど優しいから」
「違いない」
「お前らな~」
悪い人達には見えないけど……。
とりあえず、話を聞いても大丈夫かな?
「あの、森に何かありましたか?」
「おっ、坊主すごいな。気が付いたのか?」
気がつく?
冒険者たちにか?
少し首を傾げてしまう。
「いつもと違う事に気が付くとは。まぁ集まった冒険者の数が多いからな」
いつもと違うかどうかは、初めて来た場所なので分からないが、冒険者が多いのはわかった。
森は広い、有名な洞窟でもない限り、短時間で何組もの冒険者グループに出会う事は少ない。
それは冒険者たちが、森の中では同業者に会わない様に避けているからだ。
同じ場所に冒険者が集まるときは、問題が出た場合だ。
「魔物だよ。ちょっと手ごわい魔物の情報が出て討伐依頼が出たんだ」
アダンダラだったらどうしよう。
「どんな魔物ですか?」
「オーガが数匹だ。もしかしたら10匹以上とも言われている」
オーガか、アダンダラではなかった。
よかった。
「あと少しで暗くなる。近くに冒険者たちが集まっている場所がある。夜は危ないから合流した方がいいぞ」
周りを見る、確かに日が落ちる時間に近づいている。
オーガはたしか、人食いのかなり危険な魔物だったはず。
合流させてもらった方が、いいかもしれないな。
アダンダラは大丈夫かな?
……大丈夫だと信じるしかないな。
「私が行っても、問題になりませんか?」
「大丈夫。魔物の討伐依頼が出た場合、若い冒険者や行商人たちを守る役目も俺達にはあるんだ」
……そう言えば、そんな話を聞いたことがあるな。
集まっている場所を聞くと、一緒に行ってくれるらしい。
大丈夫だよね?
「そうだ、俺達は炎の剣って言うグループなんだけど、知ってるか?」
「すみません。冒険者グループには詳しくなくて」
「そっか~。オトルワではちょっと有名なんだけど」
「オトルワ町には初めて行くので」
「あっ、それは知らなくて当たり前だ。ごめんね」
「いえ」
少し歩くと、開けた場所に出たのだが少し驚いた。
大型テントの数が15個以上ある。
かなり大がかりな討伐なのかもしれない。




