表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
608/1163

565話 ややこしくなってきた

シエルが開けた穴からそっと外を窺う。


「帰って来ないですね」


「大丈夫だ。それに出ていってから、まだ数分だぞ」


そうなんだけど、こういう時は時間がすごく長く感じる。


「ぷっぷぷ~」


「ソラは通常通りだな」


フィーシェさんが笑ってソラを抱き上げる。

いつの間にか、壁にへばりつく遊びは終わっていたようだ。


「さっきの遊びは、楽しいの?」


「ぷっぷぷ~」


楽しかったんだ。

伸びるのが?

それとも、伸びた状態で壁を登るのが?

……本当に楽しいの?

ソラを見て首を傾げると、フィーシェさんに笑われた。


「そんなに真剣に考えなくても」


フィーシェさんの指が私の眉間を突く。

どうやら、皺を寄せて考えていたらしい。

眉間を揉むと余計に笑われた。


「ソラたちを見ていると、スライムにもちゃんと意思がある事に気付かされるよ」


「えっ?」


「俺が見てきたスライムは、何を言っても突いても反応しない子が多かったからさ。なんて言うか、ただそこにいるだけというか。意思があるように見えなかった」


そうなんだ。

それは、なんか悲しいな。

皆には、それぞれ個性があるのに。


「あれはきっと、テイムした者が上手く関係を築けてなかったんだろうな。今ならそう思うよ。アイビーは、その子、その子の特徴を大事にするから、皆が個性的な子になるんだろうな」


フィーシェさんの腕の中で、プルプル楽しそうに揺れているソラを見る。

今のソラがあるのは、私だから?


「そうだったら、嬉しいです」


ポンと私の頭を撫でるフィーシェさん。

こんな時だけど、ちょっとホッとしてしまうな。


「おっ。戻って来たみたいだ」


フィーシェさんの視線を追うが、2人の姿はない。

目で見える場所にはいないようなので気配を探ると、少し遠い場所に馴染みのある気配が2つ確認できた。

ジナルさんもだけどフィーシェさんも、気配に敏感だよね。

やっぱり、経験の差だろうか?


「お帰りなさい。あれ? シエルは?」


しばらく待つと、2人の姿が確認できたが一緒に行っていたシエルの姿が無い。

それにお父さんもジナルさんもどこか表情が硬い。


「見回りに行っているよ」


お父さんの言葉に首を傾げる。

なんのために?


「問題があったな」


戻って来た2人の表情とシエルがいない事に、フィーシェさんが嫌そうに言う。

やっぱり、そういう事?


「何があったんだ?」


「冒険者の格好をした4人の死体を見つけた。死後硬直の状態から死後7、8時間だと思う。魔物の爪や牙の痕跡があったから、襲われたんだろう」


ここは森の奥だから、魔物に襲われる事はある。

それ自体は悲しいけれど、問題に感じる事は無い。

でも、問題を感じたという事は、何か見つけたのかな?


「何が問題なんだ?」


フィーシェさんが首を傾げると、ジナルさんはため息を吐いて手に持っていた物を差し出す。


「これを全員が持っていた」


ジナルさんの手の中には、魔除け。

魔除けは魔物を寄せ付けないマジックアイテムで、高額なものほど魔物には効く。


「かなり特別な魔除けに見えるな」


特別な魔除け?

ジナルさんの手の中の魔除けを注視する。

ただ、自分が持っている物も合わせて5個しか見た事がないため、目の前の魔除けの何が特別なのかが分からない。

かなり特別だと言っていたので、私の持っている魔除けと違う箇所があるはずなんだけど……。


「ここ。魔石が埋め込まれているだろう」


お父さんが指さすところに小さな石がはまっている。

小さかったので気付かなかったけど、確かに魔石だ。


「魔石のお陰で、ほとんどの魔物に効く魔除けになっているはずなんだ」


つまり、襲われるはずがないのに冒険者たちは襲われたという事?


「魔除けが効かない魔物がいるって事?」


お父さんを見ると肩を竦めた。


「森の最奥には魔除けが効かない魔物がいるが、この辺りでその魔物が出たなんて情報も噂もない」


お父さんの言葉にジナルさんが頷く。


「ここは森の奥ではあるが、最奥からはかなり離れているからな」


確かに、森の奥と言っても人が出入りできるくらいの奥だもんね。

シエルと森の最奥に行った事があるけど、こことは全く表情が違った。


「あと考えられるのは、暴走した魔物だな。魔除けが効きにくくなるらしいから」


フィーシェさんの言葉に、数日前の襲い掛かって来た魔物を思い出す。

冒険者たちが亡くなったのは昨日みたいだから、あれとは別に暴走している魔物がいるって事だよね。

気配も読みにくいし、魔除けも効かない魔物。

本当に厄介だ。


「それと、こっち側にもゴミが放置してあった」


また?

ジナルさんを見ると、苦笑された。

本当に何を考えてゴミを放置なんてしたんだろう。

オカンイ村の冒険者ギルドのギルマスは、これも放置するように言ったのかな?


「シエルが周辺を見回りしてくれている。何かあったら鳴くように言ってあるから」


ジナルさんが申し訳なさそうに、私を見る。


「分かりました。大丈夫です。シエルは強いので」


心配だけど、シエルは強いからね。

信用して待つしかない。


「ゴミの放置ねぇ。魔物に、この場所を守らせるつもりだったのか?」


フィーシェさんが嫌そうに言うが、それはあり得る事なんだろうか?

魔物に守らせるなんて……自分の首を絞める結果になりそうだけどな。


「それは、違うと思う。亡くなった4人は恐らくここの見張り役だ。死んだ場所は違法なゴミの捨て場。マジックバッグが落ちていた事や中にゴミが入っていた事から、ゴミをマジックバッグに入れている時に襲われたんだと思う」


「見張り役というのは間違いないのか? 4人がゴミを捨てに来た者たちだとは思わないのか?」


ジナルさんをじっと見るフィーシェさん。

確かに、フィーシェさんが言う状況もあり得るよね。

マジックバッグに入れているか出しているかなんて、見ただけでは判断できないだろうから。


「4人の格好が、軽装だったんだ。魔除けを持っているとはいえ、オカンイ村からここまで来る格好では無かった。それと服の汚れ方。森を歩くなら気を付けていても、土や葉っぱなどで汚れるものだ。それが、少なすぎた」


服装と汚れか。

ジナルさんの説明に、フィーシェさんも納得したみたい。


それにしても、変だよね。

麻薬を作っている組織を潰したいなら、ゴミを置くより冒険者ギルドに報告した方がいい。

でも、報告はせずにゴミを置いて魔物を暴走させた。

何のために?


「お父さん、ゴミの魔力で魔物が暴走するのは、絶対なの?」


「いや、絶対ではないな。半々ぐらいじゃないか?」


半々。

という事は、魔物を暴走させる気はなかった可能性もあるのかな?

いや、それなら森の奥にゴミを放置した理由が分からない。


「どうしたんだ?」


「ゴミを置いた人たちは何が目的なんだろうって思って」


麻薬を横取りするために魔物を暴走させた?

魔物が暴走していたら、ゴミを置いた人達だって森に入るのは危険だよね。

それとも、暴走した魔物を抑え込む確実な方法でもあるんだろうか?

もしあったとして……ジナルさんたちが知らないわけないか。


「アイビーが言うように、麻薬組織に痛手を負わせたいにしても、麻薬を横取りしたいにしても、ゴミを森に放置する意味が分からないな」


「そうでしょ? 麻薬組織を潰したいならどこかに報告したらいいし」


「あぁ、地元の冒険者ギルドや商業ギルドが信用できない場合は、他の村や町のギルドに報告したらいいからな」


「そうだよね。もしかして、連絡手段を絶たれているとか?」


「それは、あり得るな。はぁ、面倒くさい話になってきたな」


「うん」


本当に、なんでまたこんな事に巻き込まれているんだろう。

お父さんと視線が合うと、2人同時にため息を吐いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
隠してたってことは、バカ貴族が浅慮でなんかしたんかな?
[気になる点] そもそも麻薬穴とゴミと冒険者穴の両方とも入り口塞がれてなかったっけ? つまり、隠蔽した者が居る。
[一言] 大規模麻薬プラントの割に人員いないなと思ったらやられてたのか しかし麻薬プラントどうにかしたいからってゴミ放置で魔物を暴走させるって手間かかり過ぎだし確実性がない それに安全性にも欠けるし、…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ