表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
607/1157

564話 大量の根

「ここで最後みたいだな」


6ヶ所目のカリョの花畑の処理が終わった。

この空間にも隣に続く扉はあったが、カリョの花畑はなく乾燥した根が大量に積みあがっていた。

それを見たジナルさんとフィーシェさんの表情が一瞬で消え去ったのを見た瞬間、すごい寒気がした。


「関わった者たちに関する書類は、一切無かったよ。残念」


フィーシェさんが、箱の中に書類を見つけたので手がかりを探していたが何もないようだ。

少しぐらい、何かあるかと期待したんだけどな。

カリョの花畑に関わっている者たちは頭がいいのだろうか?


「見張りがいないのが気になるな」


あっ、それは私も気になっていた。

カリョの花畑がこれだけあるのに、見張りがいないなんてありえるのだろうか?

洞窟が時季外れで来る人が少ないとしても、これはおかしい。

お父さんの言葉にジナルさんも頷いているので、皆も同じ疑問があったのだろう。


「そうなんだよな。根のあった場所には人の居た気配があったのに」


人の居た気配?

そんなのあったんだ。

あの根があった空間は、変な臭いがしたからすぐにカリョの花畑の方に戻ったんだよね。

カリョの花の甘ったるい臭いとは違って、草を煮詰めて濃縮させてから酸っぱくしたような……。

なんとも、複雑なくさい臭いだった。

お父さんたちも、すぐに出るように言ったしね。

もしかしたら、カリョの根から抽出した麻薬の臭いだったのだろうか?


「根があった空間の隣に小さな部屋を見つけたが、そこももぬけの殻だった」


小さな部屋?

ジナルさんの言葉に、乾燥した根が置かれている空間に視線を向ける。


「生活をしていた形跡があるから、数名の見張りが確実にいる筈なんだが」


見張りは、やっぱりいるんだ。

でも、だったら今はどこにいるんだろう?


洞窟内は気配が読みにくい。

でも、全く読めないわけじゃないから、焦らず探せば見つけられる。

何よりジナルさんたちが、見逃すはずがない。


「ぎゃっ!」


土から這い出ているトロンを見る。

本当に、今回は助かった。

トロンがいない状態でカリョの花畑を見つけたら、途方に暮れていただろうな。


「トロン、ありがとうな」


ジナルさんが土から出てきたトロンを抱き上げる。


「ぎゃっ?」


あれ?

トロンの根が、ほんの少しだけど太くなってるような気がする。


「ありがとうな。本当に助かったよ。トロンがいなかったら、見なかった事にしてたかも」


ジナルさんの事だからそれは無いだろうけど、きっとものすごく大変だっただろうな。


「これから、どうする?」


お父さんが、ジナルさんに抱っこされているトロンの葉っぱを撫でる。


「そうだな。オカンイ村に行って様子を見てから冒険者ギルドに報告かな。誰がこの場所に関わっているのか分からない以上、報告した瞬間から命を狙われる可能性にも気を付けないとな」


その可能性があるのか。

失念してたな。


「それに、さっきの冒険者たちの話から、ギルマスも信用していいか疑問だ。報告せずに無視したいが、駄目だろうからな。あっ、その前に根を燃やさないとな」


確かに、ゴミを放置するよう指示したギルマスだもんね。

信用は出来ないかも。

でも、ジナルさんの言う通り、カリョの花畑を見つけた以上は報告は絶対に必要だよね。


「前に見つけたカリョの花畑は、教会が関わってたよね」


カリョの花畑を枯らした事で、教会に隙が出来てお姉ちゃんは逃げ出せたんだよね。


「そうだったな。……今回も?」


お父さんの言葉に首を傾げる。

それは、分からない。

でも、可能性はあるかもしれない。


「教会か。少し厄介かもしれないな」


「そうだな。このオカンイ村の者たちは、教会に心酔している者が多い」


フィーシェさんとジナルさんの言葉に、首を傾げる。

教会に心酔?

オカンイ村は王都に近いのに?


「今もか?」


「それは、分からない。ドルイドはこの村に来たことは?」


「ある。14年前に5日ほど。確かに、教会に対する態度は他とは違ったな」


ジナルさんが頷く。


「80年ほど前に、オカンイ村は暴走した魔物たちに襲われたんだ。村人の半分以上が被害に遭って、かなり大変だったらしい。その時に、教会の者たちが無償で傷の手当てや食料を配ったらしい。それから、この村では教会は特別な存在になったそうだ。そしてそれが今も続いている」


私の知っている教会とはかなり違うな。

80年前。

それって、本当の話なのかな?


「あっ。14年前に出会ったオカンイ村の者が、不思議な事を言っていたな。『祖父から聞いた教会はあれじゃない』えっと『本当の教会は別にある』だったかな。教会にいい感情が無かったから、聞き流してしまったが。確かに、そう言っていた」


祖父から聞いた教会と違う?

本当の教会?


「その噂なら、俺も聞いたことがあるな。ただ聞いたのは7年ぐらい前だが」


お父さんだけじゃなくジナルさんも聞いたんだ。

14年前にお父さんが聞いて、7年前にジナルさんたち。

あっ、お父さんは噂ではなく村の人から直接聞いたのか。

それが噂になって消えずに残ったという事は、そう思った人が多かったからかな?

それにしても、あれじゃないとか教会は別にあるとか、まるで今の教会が偽物みたいな言い方だな。


「ここで話していても、何も分からないな。今は見張りがいないが、これから来る可能性もある。カリョの処理も終わったし、根を全て持ってこの洞窟から出ようか。シエル、これからどうするんだ?」


ジナルさんがシエルを見ると、シエルが嬉しそうに尻尾を振る。

そして洞窟の壁によると、においを嗅いで何かを確かめるように壁沿いに移動する。

しばらく移動すると、立ち止まってこちらに視線を向けた。


「何をするつもりだ?」


首を傾げるジナルさんに、シエルが小さく鳴く。

そして……、

ばこっ。

今日だけで何回目だろうか、この音。

洞窟の壁の一部がシエルの尻尾の威力に負けて、ボロボロと崩れていく。

少し前に空けた空気の通り道より、はるかに大きい穴。

シエルが満足そうにしているので、希望通りの穴が空いたのだろう。


「さすが。あれ?」


「この臭い……」


ジナルさんとお父さんが、剣を持って穴の外を睨みつけた。

2人の様子に、邪魔にならない位置まで移動して様子を窺う。

穴から何かが入ってくる様子は無い。

ただ、微かに臭いがする。

これは……。


「間違いなく血の臭いだな」


「あぁ、嫌な感じだ」


やっぱり、血の臭いか。

ジナルさんとお父さんが、険しい表情で頷きあう。


「アイビーとフィーシェはここにいてくれ」


「分かった」


お父さんの言葉に、フィーシェさんと私が頷く。

それを確認してから、穴から外に出ていくお父さんとジナルさん。


「気を付けて」


何もないといいけど。


あれ?

隣に立っているフィーシェさんを見る。

じっと穴から外を見るフィーシェさんの態度に首を傾げる。

何だかいつもと違うような気がする。

私の視線に気付いたのか、苦笑するフィーシェさん。


「さっき、乾燥した根が大量にある部屋にいただろう?」


そう、フィーシェさんは書類を確かめるために、かなり長い時間あの空間にいた。


「そのせいで、少し体がだるいんだよ」


「えっ? 座ってください」


だるいのなら、立っているだけでも辛いだろう。

座るのにちょうどいい場所が無いか探す。

カリョの花畑が洞窟内を占めていて、ゆっくり座れる場所は少ない。


「大丈夫だから」


「でも……」


あの臭いが原因なのかな?

あれは麻薬の臭いだったのかな?


「あの臭いのせいですか?」


「そう。あれにはカリョの根に含まれている毒の成分が少し混ざっているんだよ」


毒の成分?


「麻薬ではなくて?」


「麻薬? あぁ、麻薬として使う場合は毒から麻薬成分を抽出しないと駄目だから。根を乾燥させたぐらいでは問題ないよ。いや、毒の成分は問題だけどな」


カリョって、花は臭いがきつくて、根には毒があって、抽出すると麻薬が出来て。

何だかすごい植物だな。


「あっ、毒があるのに燃やして大丈夫なんですか?」


「一気に燃やせば大丈夫。ゆっくり燃やすと駄目だけどな」


燃やすのにもコツが必要なんだ。

ちょっと面倒くさいかな。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
麻薬がキマりすぎて争ったのかな?
[気になる点] 根っこ(体の重要部位)ではなく、根っこ(ヒゲとかムダ毛的)だったのかな?それなら剪定してスッキリするのも納得…? そろそろシエルの食事風景が知りたいです きっとすごくかっこいい [一…
[気になる点] 報告した瞬間から命を狙われる可能性もから気を付けないとな」 でいいのですか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ