表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
603/1157

560話 魔力と食欲

「旨そうだな」


ジナルさんが、サンドイッチに手を伸ばす。

4人の前には野菜と肉がごろごろ入ったピリ辛スープに、根野菜を湯がいてソースを絡めたサラダ。

そして、大量のサンドイッチ。


「前も食べたけど、これいいよな」


ジナルさんが2個目のサンドイッチに手を伸ばす。

食べやすいように少しだけ小ぶりに焼いたパンには、お肉と野菜が挟んである。


「食べ過ぎるなよ」


フィーシェさんが注意をするが、既に3個目に手を伸ばしている。


「魔力を使ったから、腹が減っているんだって」


そう言えば、魔力を使うとお腹が減ると聞いたことがあった。

積まれたサンドイッチを見る。

だから今日は、いつもより多めの数をお父さんは言ったのかな?


「ジナルは、かなり腹が減る体質か?」


お父さんの言葉を不思議に思いながら、スープを口に入れる。

いい感じにピリ辛で美味しい。

このピリ辛は食が進むんだよね。


「あぁ、ドルイドは?」


なんの話だろう?


「俺も一緒だが、見ている限りジナルほどではないな」


腹が減るという事は、「魔力を使ったら」と言う話の事かな?

あれ?

人によって違うの?


「お父さん。魔力を使ったら、皆同じようにお腹が空くわけじゃないの?」


私の言葉に、サンドイッチを食べていたお父さんが頷く。


「人それぞれだな」


「そうなんだ」


知らなかったな。


「俺は『変わらない人』だよ」


フィーシェさんの言葉に首を傾げる。

変わらない人とは、どういう意味だろう?


「俺は、どんなに魔力を消費してもいつも通りの食事量で問題ないんだ。俺みたいなのを『変わらない人』という事がある。まぁ、言っているのはほんの一部の者たちだけどな」


変わらない人か。

他に言い方は無かったのかな?


「お父さんとジナルさんは?」


「変わらない人以外には呼び名は無いんだよ」


えっ?


「フィーシェの体質はかなり珍しくてな。普通は少なからず影響を受けるから」


「そうなんですね」


ジナルさんの言葉に頷くと、「アイビーは」と訊かれてしまう。

私の場合は、魔力が弱すぎて気軽に使えない。

なので、どうなるのか知らない。


「えっと、どうだろう?」


首を傾げると、お父さんが少し考える表情を見せる。


「前に、少しだけ魔力を使った事があっただろう?」


あったかな?

いつの事だろう?


「もしかして無意識か?」


お父さんの眉間に少し皴が寄る。


「たぶん」


「そうだったのか。少し前だけど、ソラの姿を完全に見失った時があっただろう? あの時に、アイビーの魔力が周りに流れたんだよ。多分ソラを探そうとしたんだろうな」


気付かなかった。


「無意識は少し怖いな」


ジナルさんが少し険しい表情を見せる。

確かに、私は魔力量はかなり少ない。

それなのに、無意識で使ってしまうなんて。


「俺も一瞬焦ったんだがアイビーに変化が無かったから、問題ない量を調整して使っていると思っていた。違うんだな。次からは気を付けるよ」


お父さんの言葉にホッとする。

気を付けてくれる人が傍にいると安心だ。

無意識に使った時に、教えてくれるだろうから。


「あの時、ほんの少しだけ食べる量が増えていた気がするから、影響はあるんじゃないかな」


影響があったんだ。

本当に、全く気付かなかったな。


「ジナル、もっとゆっくり食えよ」


フィーシェさんの言葉に視線を向けると、サンドイッチが半分無くなっていた。

すごい勢いだな。

ジナルさんの前にあるお皿を見ると、スープも飲み切っているし、サラダも食べきっていた。


「スープがピリ辛味で、いつもより食べられるような気がする」


あっ、今日はピリ辛スープ駄目だったかも。


「そう言えば、アイビー」


フィーシェさんの言葉に、スープを飲み切ってから視線を向ける。


「はい」


「3人の冒険者を見て、どう思った?」


フィーシェさんの質問に首を傾げる。


「なんだかちぐはぐでした」


気配の消し方は上位冒険者みたいだった。

なのに、冒険者として当たり前に持っていないと駄目な知識が無かった。

あの知識の無さは、下位冒険者なのかと思ったが、ガルスさんが持っていた剣も、エバスさんが持っていた弓も使い込まれていた。

しかも、出会ったのは中位冒険者でもかなり強くないと来ないだろう森の奥。

何だか、おかしい。


「ちぐはぐか。確かにその通りだな」


ジナルさんがサンドイッチを口に入れる。

凄いな、何個目だろう?


「彼らは、最近中位冒険者になったそうだ。だが、あの気配の消し方は中位冒険者以上だ。上位冒険者でもかなり経験を積んだ者が持つ静かで周りに溶け込む消し方だ。だが、魔物が出た時の態度に、情報に対応する能力を見る限り、中位冒険者とは言えない。どう甘く評価をしても下位冒険者だ」


ジナルさんの言葉に頷く。


「ところで、アイビーも気配の消し方は上手いよな。どうしてだ?」


「えっ?」


ジナルさんが私を見ている。

何だろう、試されているのかな?

私が気配を消すのが上手いのは、逃げていたから。


「あっ。あの3人の冒険者も何かから逃げているという事ですか?」


「その通り。まぁ、ただの予想だけどな」


予想かもしれないけど、合ってるような気がする。

そっか、あの気配の消し方は、必要に迫られて手に入れた可能性があるんだ。

私と一緒だ。


「逃げている事を前提として考えると、かなり面倒な者たちに追われている可能性が考えられるよな」


フィーシェさんが小さくため息を吐く。


「そうだな。彼らの装備から、旅の冒険者だと判断できる。下位冒険者でも旅に出る事はあるが、ある程度知識を得て自信がついてからだ。しかし彼らの様子から、おそらく冒険者登録をしてすぐに旅の冒険者になったような気がする。知識が乏しい状態で旅の冒険者になるのは危険だ。でも、その危険を知っていながら、あえて旅に出なければならなかった。追っているのは、相当厄介な連中なのかもしれないな?」


ジナルさんが答えると、お父さんが首を捻る。


「3人の様子から、オカンイ村に拠点を置いたような感じだったけど、どうなんだ?」


「拠点は置いていないと言っていた。高額な依頼料につられたそうだ」


「そうか。と言うか、ジナルは色々聞き出したみたいだな」


お父さんの呆れた表情に、ジナルさんが肩を竦める。


「そう言ってくれるのは嬉しいが、あの3人はかなり口が堅いぞ」


ジナルさんの言葉にフィーシェさんが驚いた表情を見せる。


「そうなのか?」


「あぁ、すぐに警戒しだすから、なかなか話を進められなかった」


あのジナルさんが?

それはすごいな。


「さて、そろそろ片付けて寝るか」


ん?

フィーシェさんの言葉に、サンドイッチのお皿を見ると全て無くなっていた。

しかもスープが入っていたお鍋まで、いつの間にか空っぽになっている。

いつ、おかわりしていたんだろう?

ジナルさんを見ると満足そうな表情をしている。

ちょっと作り過ぎたと思ったんだけどなぁ。


「どうした?」


お父さんの言葉に首を横に振る。


「なんでもないよ。明日はいつも通りの量でいいのかな?」


明日もいつもより多い量が必要なら、ちょっと準備をしてから寝よう。


「ジナル、大丈夫か?」


「あぁ、それは問題ない」


「明日はいつも通りでいいみたいだ。朝ごはんは一緒に作るよ」


「ありがとう。ところで何が大丈夫なの?」


「全員では無いんだが、食べる量が少ないと体調を崩す者がいるんだ。ジナルは大丈夫みたいだけどな」


そうなんだ。

魔力ってちょっと面倒くさいんだね。

知らなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] はじめまして^_^ コミック版を買って読んでたら続きが気になってこちらも読み始めようやく追いつきました! アイビーちゃんが無事冒険を続けてて安心しました(^^) これからも応援してます♪頑張…
[一言] アイビーに魔力を使わせたら食べる量が増える?なら毎日魔力を使わせたほうが大きくなれるかもな!
[気になる点] いつも楽しく読ませてもらっています。 名前の書き間違えだと思いますが、序盤で2回程「ドルイドさん」ってなっていました。 また、中盤で「フィーシェの言葉に〜」ってなっていて、アイビーがさ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ