559話 とりあえず村へ?
台車の上に大人の男性が6人にマジックバッグが約40個。
さすがに台車でも大変だと思っていたら、台車がマジックアイテムだった。
試しに私も押させてもらったけど、すごく軽い。
「すごいですね」
私の言葉にジナルさんが首を傾げる。
「町や村から、大量のゴミを捨て場に持って行く時に使われているけど、見た事は無いか?」
えっ、大量のゴミ?
「あっ! 数回ですが、見た事があります」
1回、すごく華奢な女性が大量のゴミを乗せた台車を軽々と押していたから、人は見かけによらないなって思ったんだよね。
そうか。
あれは台車の方に秘密があったのか。
「あの、俺たちはそろそろ行きますね」
「そうか。気を付けて」
ガルスさんの言葉に、ジナルさんが軽く片手をあげる。
「ありがとうございました」
3人が、村に戻っていくのを見送っていると、お父さんがため息を吐いた。
「本当に大丈夫か?」
お父さんの言葉にジナルさんたちが肩を竦める。
「分からん。捕まえた奴らの仲間はいないと言っていたが、どこまで情報が正しいか。それに、仲間がいたと知っていても、俺たちには言えない可能性もあるしな」
依頼者から秘密にしてくれと言われたら、言えないもんね。
「しかし、ゴミの放置をギルマスがよく許可したねぇ」
ジナルさんが、首を横に振る。
確かに、ありえないよね。
ギルマスともなれば、色々な情報を聞いているはずなのに……。
「オカンイ村に行くのをやめて、隣のオカンコ村に行くか?」
フィーシェさんの言葉に首を傾げる。
「どうしてですか?」
「どうしてって、怪しいだろう? 絶対に何かあるぞ」
まぁ、あるだろうな。
ジナルさんとお父さんを見る。
「まぁ、それもありだな。通り越しても構わないぞ」
お父さんの言葉に、ジナルさんが頷く。
2人を見て苦笑が浮かぶ。
全然、納得してない表情をしているのに。
「気になってるくせに」
私の言葉にばつの悪そうな表情をするお父さんとジナルさん。
お父さんは、3人の冒険者の心配からかな?
ジナルさんは、冒険者の事もだけどギルマスさんの態度が気になっているんだろうな。
「2人とも、言葉と表情が一致してないぞ」
フィーシェさんの言葉に笑ってしまう。
「悪かったな。とりあえず、オカンイ村に行って、調べて問題がありそうなら、王都のギルドに連絡する。で、深くかかわる前に出発しよう」
「まぁ、妥当なところだな」
ジナルさんの提案にフィーシェさんが頷くが、そう上手くいくかな?
ジナルさんは罪を犯した人たちにはすごく厳しいけど、冒険者や被害者の人たちには優しいし。
お父さんも、若い冒険者が困っているなら絶対に手を貸すと思う。
オカンケ村の時は、ジナルさんが信頼できる人がいたからちょっと協力するだけで手を引いていたけど、オカンイ村に信頼できる人がいなかったら、きっと出発は出来ないだろうな。
「ドルイドとアイビーは、それでいいか?」
これからどう動くにしても、何が起きているのかわかってからだよね。
オカンイ村にも、ジナルさんたちが信用する人がいるかもしれない。
「あぁ、かまわない」
「私も、それでいいです」
ジナルさんが、私の返答にホッとした表情をした。
別に反対なんてしないよ。
私も気になっているから。
「さてと、決まったら移動しようか。おっ、シエルが戻って来たな」
フィーシェさんの視線を追うと、森から優雅に出てきたシエルが見えた。
「シエル、さっきはありがとう」
「にゃうん」
シエルの尻尾が楽しそうに左右に揺れているのが見える。
かなり機嫌がいいらしい。
「相当暴れてきたな」
ジナルさんの言葉に、シエルが尻尾をくるくる回して「にゃっ」と鳴く。
本当に機嫌がいい。
いったいどれだけ暴れてきたんだろう。
微かに感じたシエルの気配からは、森の中を走り回っている事だけは何とか分かった。
シエルを見ると、未だに尻尾がくるくる回っている。
いったい何をしてきたんだろう?
ちょっと気になるな。
「行くか」
ジナルさんの言葉に、急いでマジックバッグを肩から提げる。
「あっ」
元々肩から提げていたソラたちのバッグの蓋を開ける。
すっかり忘れてた。
「ぷ~」
ソラが先頭になってバッグから飛び出してくる。
それに続いてソルとフレム。
「遅くなってごめんね」
私の言葉に、プルプルと揺れる3匹。
機嫌は悪くなっていないようだ。
良かった。
地図を持つジナルさんの隣を優雅にシエルが歩く。
未だに尻尾が左右に楽しそうに揺れている。
それを見ていると、笑みが浮かぶ。
ソラたちの食料もいっぱい手に入ったし、シエルは楽しかったみたいだし、悪い事ばかりじゃなかった……いや、駄目駄目。
魔物が暴走したんだった。
「ん? どうした?」
お父さんの言葉に、視線を向ける。
「どうしたの?」
「いや、トロンが落ち着きが無くて」
お父さんが肩から提げているトロンが入っているカゴを見る。
確かに、カゴの中でごそごそと動き回っている。
「おかしいね」
「だろ? トロン? 少し落ち着いた方がいい」
「ぎゃっ」
お父さんの言葉に、不服そうに鳴くトロン。
急にどうしたんだろう?
「何があったんだ?」
ジナルさんも、トロンの様子を窺っているのが分かる。
お父さんが、「急に暴れだした」と言うと、不思議そうにトロンを見つめた。
少し興奮状態のトロンを不思議に思いながら、今日の目的の広場に到着した。
「少し早いけど、今日はここまでにしよう。さっきの事で疲れもあるだろうし」
フィーシェさんが、荷物を置きながら周りを見回す。
思っていたより、大きな広場だったので見通しが良い。
「テントはどうする?」
「シエルがいるから大丈夫だろうけど、ここは森の奥だからテントは止めておこう」
ジナルさんの言葉に、フィーシェさんが首を横に振る。
「それもそうか」
ジナルさんが、周りを見回して苦笑する。
「ここ、森の奥だったな。シエルがいてくれると、気が緩むんだよな」
「確かにな。でも、それじゃ駄目だから、気を引き締めないと」
ジナルさんとフィーシェさんが苦笑しているのを、シエルが尻尾を揺らして聞いている。
頼りにされるのが好きなシエルだから、きっと嬉しいんだろうな。
ポンと頭を撫でると、いつもより大きなごろごろという音が聞こえた。
「今日の夕飯はどうする?」
お父さんが、枝を拾ってきて焚火の準備をしてくれている。
「時間があるからスープでも作ろうかなって。マジックバッグに準備していたスープもほとんど飲み切っているし。予備の分も一緒に」
「あのさ、ちょっと辛めのスープも欲しいんだけど……駄目か?」
お父さんの様子に笑ってしまう。
「いいよ。お肉もいっぱいいれておくね」
「それは楽しみだ」
本当にお肉が好きだよね。
まぁ、それはジナルさんたちもだけどね。
マジックバッグから大きめの鍋を3個取り出すと、水を入れ火にかける。
それぞれ違うお肉を入れて、お肉より少し大きく切った野菜を放り込んでいく。
お父さん希望のピリ辛スープには、辛みが出る薬草を数種類組み合わせて……。
あとの2個には、いつも通りの薬草。
「後は煮込むだけ」
スープだけじゃ物足りないよね。
パンがあるから、焼いたお肉と葉野菜を挟んで食べるのもいいかも。
「何を作るんだ?」
ソラたちの食事用ポーションをマジックバッグから出して並べていたお父さんが、私の手元を覗き込んでくる。
「ポーションの準備をありがとう。お肉を挟んだサンドイッチだよ」
「ソラたちはすごいな。ゴミの山で大量に食べてたくせに、今もすごい食欲だよ。サンドイッチか、いいな」
「どれくらい食べられそう?」
私の質問に、少し考えるお父さん。
「10個、いや、15個は食べられるな」
ん?
お父さんだけで15個?
……頑張って作ろう。




