558話 ゴミ拾い
「大丈夫か?」
「「「……」」」
ジナルさんの『大丈夫か』と言う言葉と同時に座り込んでしまった3人の冒険者。
心配になり近付くと、若い冒険者だと気付いた。
20代ぐらいかな?
マジックバッグから、コップを3つ出して、作っておいたお茶を入れる。
「大丈夫ですか? これを飲んでください」
ガルスさんの肩にそっと触れると、パッと私に視線を向けた。
少し驚くが、笑ってコップを3人分差し出した。
「えっ? あぁ……」
コップと私を何度か見てようやく理解した様子に、苦笑が浮かぶ。
「ありがとう」
ガルスさんが3人分のコップを受け取ると、エバスさんとアルスさんに順番に渡した。
これで少しは落ち着けるだろう。
あれ?
シエルの気配がしない。
先ほどまで微かに感じていた走り回っていたシエルの気配が、完全に消えている。
周りを見ると、木々の間からこちらの様子を窺っているシエルが見えた。
ガルスさんたちがいるため、近くで待ってくれているようだ。
「落ち着いたか?」
「はい。すみません。魔物の暴走を初めて見ました。話には聞いていたんですが」
ガルスさんが頭を下げるとエバスさんたちも下げる。
ジナルさんがそれを見て、首を傾げる。
「お前たち、師匠はいるのか?」
「いえ、いません」
ジナルさんの言葉に、首を横に振るガルスさん。
3人の様子を見ていると、居心地悪そうな表情をしている。
「冒険者としての心得は習っているよな?」
「……習っていません」
ガルスさんの言葉に、ジナルさんが眉間に皺を寄せる。
どうしよう、私も心得なんて習った事がない。
あっ、私は冒険者じゃないからいいのか。
「どうして誰にも習わなかった? 訳ありか?」
「違います。その、旅をしていたからです」
ガルスさんの返答に、不審気な表情を見せるジナルさん。
フィーシェさんも、ガルスさんの答えを怪しんでいるのが分かる。
「旅ね。ところで、どうするんだ?」
ジナルさんの問いに、不思議そうな表情を見せるガルスさん。
「魔物が暴走している事が分かったのに、このゴミはこのままなのか? それと、あの6人をどうするんだ?」
呆れた様子を見せるジナルさんに、ガルスさんが慌てて6人とゴミに視線を向ける。
完全に忘れていたみたいだ。
下位冒険者なんだろうか?
でも、気配の消し方から中位冒険者以上だと思ったんだけどな。
「マジックバッグにゴミを入れて、オカンイ村に持っていきます。6人も一緒に」
「捕まえるという事か?」
「はい。魔物を暴走させた罪で捕まえます」
「当然だな。で、なんでゴミとこの6人を放置したんだ?」
「ゴミは本当に大丈夫だと思っていたんです。6人の事は……すみません。俺の口からは言えません」
ガルスさんの言葉にジナルさんが頷く。
たぶん理由を話せない事を予想していたんだろう。
「分かった。とりあえず、ゴミを処理しようか」
ジナルさんの言葉に、ガルスさんたちが驚いた表情を見せる。
「これを3人だけで片付けるとなると、そうとう時間が掛かるぞ」
確かに、ソルがかなりの量を食べたけど、ゴミはまだまだ積みあがっている。
7人でも大変そうだ。
「すみません」
ガルスさんが出してくれたマジックバッグに、ゴミをどんどん放り込んでいく。
それにしても、すごい量だな。
「あっ、ガルス」
「はい」
「6人の中で一番身なりのいい奴が持っているマジックバッグにもおそらくゴミが入っているはずだ。オカンイ村に戻ったら、中に入っているマジックアイテムに気を付けてくれ」
「気を付ける?」
ジナルさんの言葉にガルスさんたちが首を傾げる。
「あぁ、こいつらは魔物を暴走させるために魔力が残っているマジックアイテムを捨てていた。管理している捨て場に捨てるにしても、そのままの状態だと危険だから」
ガルスさんが驚いた表情で、倒れている男性を見る。
「知らなかった」
「まぁ、そうだろうな。これからは気を付けろ」
「はい」
「今回の事で分かったと思うが、魔物の暴走はまだ原因が不明だ。俺たちがいなかったらどうなっていたか、分かるよな?」
ジナルさんの言葉に、3人が神妙な表情で頷く。
ジナルさんはその様子を見て1つ息を吐くと、魔物の暴走について話し出した。
真剣に話を聞く3人を見て、お父さんが苦笑している。
「ジナルは、何気に面倒見がいいよな?」
「そうだね」
3人の様子を見ながら、肩から提げているマジックバッグにポーションを入れていく。
途中で邪魔が入ったから、ソラたちが満足するほど食べていない。
バッグに入れる時、本当に残念そうだったのが印象的だった。
なので、少しでもいいからポーションとマジックアイテムを確保したい。
「マジックアイテムは……」
「それは、俺が持っていくから。アイビーはポーションだけでいいぞ」
マジックアイテムを持って、新しいマジックバッグを出そうか迷っていると、手に持っていた物をお父さんに取られる。
「えっ?」
お父さんを見ると、足元に置いてあるマジックバッグに、取っていったマジックアイテムを入れた。
「ちらっとしか見えなかったけど、バッグに入る時のソルの顔がすごかったからな。『まだまだ食べたいのに~』って感じだっただろ?」
「ふふっ」
確かに、その通り。
ものすごく不服そうに、マジックアイテムを睨みつけていたもんね。
あまりの表情に、見た瞬間に吹き出しそうになっちゃった。
「それにしても、結構バレないもんだな」
お父さんの言葉に頷きながら、3人に視線を向ける。
ジナルさんの話を聞くのに必死で、こちらにまで意識が向かないようだ。
そのお陰で取り放題。
しばらく、ゴミをマジックバッグに入れる作業に没頭する。
2時間弱。
ようやく最後のゴミをマジックバッグに入れた。
「疲れた~」
フィーシェさんの言葉に頷きながら、近くの岩に腰掛ける。
「お疲れ様」
お父さんが、お茶を入れたコップを渡してくれる。
「お父さんも、お疲れ様」
受け取って飲むと、冷たくて美味しい。
落ち着くなぁ。
お茶を飲みながら、腰をトントンと拳で叩く。
中腰つらい。
「腰が痛いな」
ジナルさんのしみじみした言葉に頷くと、今度は腰を揉んでみる。
あっ、こっちの方がいいかも。
あれ?
何気に周りを見ると、全員が真剣な表情で腰を叩くか揉むかしていた。
その光景に笑うと、お父さんも気付いて笑い出した。
「ん?」
フィーシェさんが、不思議そうに私とお父さんを見て首を傾げる。
「ふふっ。皆が真剣に、腰を叩いたりしてたから」
私の言葉に、皆が一斉に周りを見る。
そして、全員の手が腰にある事に気付くと笑いだした。
「あの、ありがとうございました」
休憩が終わり、ジナルさんたちが移動の準備を始めると、ガルスさんがジナルさんたちの前に来て頭を下げた。
慌てて、エバスさんとアルスさんも、横に並んで頭を下げる。
「いいよ、もう。それより、マジックバッグが40個近くあるけど、持っていけるのか?」
ジナルさんの視線の先には、ゴミの山に代わって積みあがったマジックバッグの山。
さすがに量が多いので、3人だけでは持っていけないだろう。
「大丈夫です。台車を持ってきたので」
エバスさんが、肩から提げていたマジックバッグから、何かを取り出して地面に置く。
見ると、大きめの台車があった。
「準備してたのか?」
ジナルさんの言葉に、エバスさんが小さく頷く。
「もしかしてという事があったので」
「準備は大切だからな」
ジナルさんの言葉に嬉しそうに笑うエバスさん。
「さて、とっとと積み込むか」
ジナルさんの言葉にお父さんとフィーシェさんが、倒れている6人を台車に向き合うように座らせる。
そして、その足の上に40個近くのマジックバッグを乗せていく。
「起きないですね」
マジックバッグを、そっと置きながらちょっと心配になってくる。
マジックバッグには軽量の魔法が付与されているので重くはないだろうけど、こんなに起きないもんだろうか?
「少し前に、眠り続けるように薬草を飲ませておいたからな」
いつの間に。
ジナルさんに視線を向けると、にこりと笑った。
すごく含みのある笑みに見えたのは、気のせいだろうか?
「起きますよね?」
「もちろん」
だったらいいか。
読んで頂き、ありがとうございます。
気づけば600話!
感想を読んで気付きました。
皆様のお陰です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。




