557話 暴走する条件
「冒険者だね」
気配の消し方から予測はしていたけど、現れたのは女性1人と男性2人の冒険者だった。
「失礼しました。我々はオカンイ村の冒険者ギルドに所属している『嵐』です。俺はリーダーのガルスです。後ろにいるのは仲間のエバスとアルスです。あなたたちは……」
ガルスさんという人をそっと窺う。
なぜかすごく緊張しているのが伝わってくる。
それに首を傾げながら、お父さんたちを見る。
……あれは怖いね。
うん、無言の威嚇?
なんで?
「先に1つだけ質問。こいつらとの関わりは?」
ジナルさんが転がっている6人を指す。
「冒険者ギルドの依頼で、その6人の行動を探っていました。あの……生きてますか?」
ガルスさんが、転がっている6人を見てなんとも言えない表情をみせる。
「大丈夫、生きてるよ。依頼か……。俺は『風』のジナル。隣にいるのがフィーシェとドルイドだ」
ジナルさんの言葉に、3人が驚いた表情を見せる。
「あの『風』の方ですか?」
アルスさんが少し興奮して、ジナルさんたちを見つめる。
「あれ? でも……」
エバスさんという人が、お父さんを見て不思議そうな表情をする。
きっと風のメンバーにドルイドという名前がない事を知っているんだろう。
「少し用事があってガリットとは別行動をしているんだ。彼は、一緒に仕事した時に意気投合して、今は一緒に旅をしているんだよ」
随分あっさりと情報を出すな。
3人を信用できると思ったんだろうか?
ジナルさんを見る。
確かに笑みを見せているけど、あれは……信用してないね。
何だろう。
試してる?
ん~、ジナルさんもフィーシェさんも本当に表情が読みにくい。
「君たちは、このゴミについて知っているのか?」
お父さんの言葉に、3人がばつの悪そうな表情を一瞬見せた。
つまり、知っているという事だ。
知っていて放置したって事?
「知っていたんだな。なぜ、放置を?」
ジナルさんの声が不機嫌そうに低くなる。
それに3人の肩が揺れる。
「あの……」
ガルスさんが戸惑ったように口を開くが、すぐに閉じてしまう。
その様子に、ジナルさんが目を細める。
睨むように見られた3人は、体を固くして視線を逸らす。
「魔物を暴走させようと――」
「違います! それは絶対に違います!」
フィーシェさんの言葉に、エバスさんが慌てて否定する。
でも、森の中にゴミを大量に放置している以上、否定されても信じられない。
「本当に違うんです。彼らの罪が確定したら、すぐにでもゴミは回収する予定でした」
罪が確定したら?
森の中に大量にゴミを放置したら、罪になったよね?
それで捕まえようとは思わなかったのかな?
「このゴミの件で、捕まえられただろう?」
「そうなんですが……」
ジナルさんの言葉に、エバスさんの声に勢いがなくなる。
捕まえられる事を知っていたのに、捕まえず泳がしていた。
もしかして、他の罪で捕まえたかったのかな?
でも、大量のゴミを森に放置して、魔物が暴走したらどうするつもりだったんだろう?
「誰の命令だ?」
「……ギルマスです」
ため息を吐いたジナルさんに、答えたガルスさんが小さくなる。
「今のオカンイ村のギルマスは、愚かなんだな」
フィーシェさんの言葉にアルスさんが口を開こうとするが、エバスさんが止める。
「あの、魔物の暴走にはかなりの量の魔力が必要だと言われています。だからこれぐらいは……」
ガルスさんが、ジナルさんをじっと見つめる。
なんだかすごく頑張っているけど、かなりの量とは何だろう?
魔物の暴走とゴミの関係は、まだ解明されていない事の方が多いのに。
「それが?」
「えっ?」
ジナルさんの返しに、驚いた声を出すガルスさん。
「だから、それが何?」
「だから、少しぐらいなら……」
本気?
根拠のない情報を信じて、少しぐらいのゴミなら森に放置していいと?
ガルスさんを窺うと、残念なから本気みたいだ。
「はぁ」
ジナルさんが大きなため息を吐く。
その気持ちがよく分かる。
「冒険者だったら、1つの情報だけを信じて動くな」
「えっ?」
呆れた声を出すジナルさんに、戸惑うガルスさん。
エバスさんもアルスさんも、似たような表情をしている。
「確かに魔物の暴走には、大量の魔力が必要だと唱える研究者がいる。だが、ゴミの魔力と魔物の魔力の相性が悪くて暴走するという研究者もいる。他にも、時間がたった魔力に変化が起こっているためと言う研究者もいれば、ゴミの魔力がお互いに影響しあって変化しているためだという研究者もいる。大量の魔力がいるという説が有力視されてはいるが、証拠がない。しかも、それでは説明できない魔物の暴走も報告されている。冒険者だったら、証拠の無い情報を無闇に信じるな」
ジナルさんの言葉に、3人が戸惑った表情を見せる。
まさか、本当に他の情報を知らなかったのかな?
そうだとしたら、ちょっと問題だな。
「にゃっ!」
隣にいたシエルの声に視線を向けると、険しい表情で崖の方を見つめていた。
何があるのかと、崖の方を見るが特に気になる物は見つからない。
気配を探るが、何も捉える事が出来ない。
「おかしいな、気配が全くない」
少し前まで感じていた、小動物や小さい魔物の気配まで綺麗に無くなっている。
これは異常だ。
どうしよう?
ジナルさんたちの方へ視線を向ける。
「アイビー、こっちへ」
お父さんの声に、岩の後ろからお父さんへ向かって走る。
視界の隅に、崖の方へ走っていくシエルが見えた。
「えっ? 子供?」
エバスさんの驚いた声が聞こえた。
お父さんの下へ行くと、岩の後ろにある森の中から2匹の魔物が飛び出してきた。
気配が読めなかった!?
「暴走してるぞ!」
ジナルさんの声に反応したのか、1匹がジナルさんに飛び掛かった。
ジナルさんは、襲い掛かって来た魔物の爪を剣で止めると手を魔物に当てた。
次の瞬間、バチッという音がすると襲い掛かっていた魔物が地面に倒れて動かなくなった。
「しまった! ドルイド」
フィーシェさんの焦った声に視線を向けると、こちらに向かってくる魔物が見えた。
お父さんは、手に持っていた剣を魔物に向けると、そのまままっすぐ前に突き出す。
魔物が剣の先をよけるように動くが、剣が赤く光ると魔物が火に包まれた。
「突っ立ってないで構えろ!」
唖然としていたガルスさんたちに、ジナルさんの怒鳴り声が響く。
「「はいっ」」
慌てて武器を構える彼らを、お父さんがちらりと横目で見てため息を吐いた。
「大丈夫か?」
周りを警戒しながら、お父さんが心配そうに私を見る。
「大丈夫」
お父さんに守られながら、森へと視線を向ける。
遠くで、木々が揺れている音がする。
もしかしたらシエルかもしれない。
「大丈夫そうだな」
木々の揺れる音が聞こえなくなってしばらくすると、ジナルさんが剣を下ろして警戒を解いた。
「はぁ、驚いた。ドルイド、悪い。大丈夫だったか? アイビーも」
「大丈夫だ」
「私も大丈夫です」
フィーシェさんの言葉に、お父さんと私が大丈夫と伝えると、ほっとした笑みを見せた。
「なんで魔物の気配が……」
「暴走した魔物の気配がかなり薄い事は、有名だろう」
ガルスさんの言葉に、呆れた様子でジナルさんが答える。
「あっ……」
忘れていたんだろうか?
何だか頼りないな。
ガサガサッ、ガサガサッ。
不意に聞こえた木々のこすれる音に、全員が武器を構える。
「……大丈夫そうだな。気配も戻ってきているし」
ん? 気配?
あっ、そう言えば、森に気配が戻っている。
さっきは何の気配も感じられなかったのに。
「よかった」
そう言えば、森へ走って行ったシエルは大丈夫かな?
本日4月20日 「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました。」の4巻が発売となりました。
皆様のお陰です。
ありがとうございます。
これからもどうぞ、よろしくお願いいたします。




