555話 ソラたちは嬉しいけど……
目の前にあるゴミの山に呆然としてしまう。
ここは森の奥。
人里離れた場所なので、ゴミが不法に捨てられている事は予測できた。
でも、まさか大量のゴミの山と出会うとは思わなかった。
しかもよく見ると、マジックアイテムが多数捨てられている。
もし魔物が残った魔力のせいで暴走したら、どうするつもりなんだろう。
「馬鹿どもが」
隣にいるジナルさんの声に、体がびくりと震える。
そっと隣を窺うと、かなり怒っているのか無表情になっている。
これは怖い。
そっと視線を逸らすと、足元にいるソルがじっとゴミの山を見つめている事に気付いた。
「最近の冒険者は馬鹿なのか?」
お父さんが、足元に転がっていたマジックアイテムを拾うと、眉間に皺を寄せた。
「このマジックアイテム、魔力がまだかなり残っているな」
「ぺふっ!」
深刻なお父さんの言葉に、嬉しそうに鳴いたソルがお父さんに向けて触手を伸ばす。
「ソルには嬉しいか。ほら」
お父さんは、苦笑すると持っていたマジックアイテムをソルに渡す。
「ぺふっ! ぺふっ!」
お父さんから受け取ったマジックアイテムを、さっそく口に入れるソル。
ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~。
直後、なんとも言えない音が森に響いた。
「相変わらず、力の抜ける音だよな」
フィーシェさんが苦笑をしながらソルを見ると、既に食べ終わっていた。
相変わらず、食べるのが早い。
「ぺっふ~」
ソルの満足そうな鳴き声に、ジナルさんの雰囲気がふっと軽くなる。
「そんなに喜ばれると、怒っているのが馬鹿らしくなるな」
「ぷっぷぷ~!」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムの声に視線を向けると、じっと私を見つめる2匹がいた。
2匹とも、どうも落ち着きがない様子。
不思議に思って見ていると、2匹がちらちらとゴミの山を見ている事に気付いた。
「あぁ、食事に行きたいの? 行っていいよ?」
お父さんを見ると頷いてくれたので、ソラたちに許可を出す。
「ぷっぷぷ~」
ソラは、体を震わせるとぴょんと高く飛び上がり、一気にゴミの山に着地する。
狙ったのかは分からないが、傍に捨てられていた剣を口に咥えた。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
こっちの音は、なんだか背中がぞくっとするんだよね。
「てっりゅりゅ~」
フレムはゆっくりゴミの山に近付くと、何かを探すようにゴミの中を移動する。
目的の物を見つけたのか、邪魔なゴミを体でよけると赤いポーションを引っ張り出して口に入れた。
しゅわ~、しゅわ~。
ふふっ、一番馴染みのある音だ。
「にゃうん」
シエルは、ソラたちの様子を見た後に、3匹が見える場所へ移動する。
「シエル、見守りありがとう」
本当に頼りになるね。
「にゃうん」
ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
しゅわ~、しゅわ~。
崖の近くにある森に、ソラたちの食べる音が響く。
ぐしゃ、ぐしゃ、しゅわ~、しゅわ~。
きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~、きゅしゅわ~、きゅしゅわわ~。
しゅわ~、しゅわ~。
この音って、何も知らない人が聞いたら、何の音だと思うんだろう?
「嬉しそうに食べるなぁ」
ジナルさんが、近くの岩に腰掛けながら3匹の様子を見て笑う。
「ここ最近、ここまでひどい捨て場が無かったから、思う存分食べられてなかったんだよ。それがここでは食べ放題だからな。そりゃ、嬉しいだろう」
確かに、お父さんの言う通り。
オカンケ村からここまで、こんなに大量のゴミが捨てられた不法な捨て場は無かった。
ソラたちにとっては、残念だっただろうな。
「なぁ、この近くの洞窟からドロップするマジックアイテムって何だった?」
お父さんの質問に首を傾げるジナルさんとフィーシェさん。
お父さんはじっとゴミの山を見つめている。
「あそこの洞窟は確か、強化手袋と盾と胸当て。レアものとして、マジック盾がドロップされたはずだ。外れたとしても、手袋だな」
冒険者にとっては必要な物がドロップされるんだ。
しかも、強化手袋って冒険者にとっては必需品だよね。
お父さんも、1年に1回は買い直しているらしい。
「見る限り、捨てられているマジックアイテムは洞窟からドロップした物ではないな」
お父さんの言う通り、目の前のゴミの中に盾も胸当ても見当たらない。
普通、洞窟の傍の捨て場には、洞窟からドロップした、いらない物が一番多く捨てられるのに。
「何かおかしいな」
ジナルさんが立ち上がると、ゴミの傍へ行く。
そこにあったマジックアイテムを1つ手に取って、何かを確認している。
「これも魔力がかなり残っている」
ジナルさんの言葉に、お父さんの表情が険しくなる。
「これを見ろ」
ジナルさんが持ち上げたマジックアイテムは、大きなコンロだ。
冒険者もコンロを持っている者はいるが、小さめだ。
マジックバッグに入ると言っても、無限でない。
なので持ち運びしやすい物を選ぶのが主流だ。
でもジナルさんが持っているコンロは、確実に室内で使う家庭用の大きさだ。
「他にも、冒険者が持っている物にしては不釣り合いな物がある」
冒険者以外の人がここを通る事は……ないな。
ここは森の奥だ。
冒険者以外の人は、遠回りになるけれど安全な村道を歩くはず。
という事は……どういう事?
「この場所に、これらのゴミをわざわざ捨てに来ている馬鹿がいるって事か?」
お父さんの言葉に、ジナルさんたちが頷く。
でも、なんのために?
管理されていない捨て場のせいで、魔物が暴走する事は知られているのに。
ん?
「魔物を暴走させるためとか?」
わざとゴミを捨てに来るって事は、そういう事も考えられるのかな?
いや、それは無いか。
魔物が暴走して得をする人なんていないだろうから。
きっと、ここが人目に付かないから……秋になったら絶対冒険者が来るのに?
「その可能性は、あるかもしれないな」
お父さんが、少し思案した表情を見せる。
「なんのために?」
「……人に見られたくない物があるから、とか?」
自信なさそうに答えるお父さん。
「冒険者に討伐依頼がくるから、それはおかしいだろう」
「そうだよな」
ジナルさんの言葉に、苦笑したお父さんが頷く。
「でも、誰かがこの場所にゴミを大量に捨てに来ているのは事実だ」
フィーシェさんがゴミから何かを見つけて引っ張り出す。
「理由は分からないがな」
ジナルさんが、フィーシェさんの行動に首を傾げる。
「何かあったのか?」
「書類があった」
フィーシェさんの手には折りたたまれた数枚の紙。
「えっと、オカンイ村の冒険者への依頼書だ」
「依頼書?」
ジナルさんが、フィーシェさんから書類を受け取る。
「確かに、オカンイ村の印が押してあるな」
ジナルさんとフィーシェさんの会話に首を傾げる。
オカンイ村の冒険者に出された依頼書という事は……オカンイ村の冒険者が関わっているという事?
冒険者が、魔物を暴走させるような事に協力するかな?
よほど自分の腕に自信があるとか?
「おかしいな」
お父さんに視線を向けると、ジナルさんから書類を受け取って見ていた。
「何が?」
「この依頼書だけど―」
「待て、誰かこっちに来る」
ジナルさんの言葉に、周りの気配を探る。
えっ? あれ?
気配を感じないんだけど……。
「アイビー、ソラたちを」
フィーシェさんが、剣を手に握りながら私へと視線を向ける。
「はい。ソラ、フレム、ソル。誰か来るみたいだから、こっちへ」
あっ、気配を掴めた。
なんだ、遠いから気配が読めなかったのか。
ちょっと焦ったぁ。
ソラたちを順番にバッグに入れながら、小さく息を吐く。
「嫌な気配だな」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
遠すぎて、どんな気配なのかさっぱり掴めない。
やっぱりさすがだなぁ。
皆さま、いつもありがとうございます。
本日4月15日、「最弱テイマーはゴミ拾いの旅を始めました」のコミカライズ2巻は発売となりました。
どうぞ、よろしくお願いいたします。




