550話 釣りに挑戦!
「すごい」
目の前の広大な川の姿に唖然としてしまう。
想像はしたけど、ここまで迫力があるなんて。
それに、向こうの川岸が当たり前だけどすごく遠い。
「さぁ、やるぞ! アイビーは俺と一緒にやろう」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ジナルさんの言葉に、楽しそうに答えるソラとフレム。
ただフィーシェさんはため息を吐いているし、お父さんも呆れた表情だ。
「面倒な奴らの相手をしてきた俺には、休憩が必要だ!」
ジナルさんはそう言いながら、持っているマジックバッグから竿を取り出す。
「だからと言って、釣りをするか?」
フィーシェさんの言葉に、肩を竦めるジナルさん。
「ここの川魚がうまかったと思い出したら、すごく食べたくなったんだ。こんなゆっくりした旅は、なかなか出来ないし、次の機会は数年後かもしれないだろ?」
数年後。
だったら、出来る時にしておいた方がいいだろうな。
しかも、
「美味しい魚?」
「そう」
ジナルさんが言うには、この川でしか釣れない川魚は他の川魚より美味しいらしい。
身はふわふわで甘味があると。
「アイビー、頼む。ここの魚でうまい物を作って欲しい!」
「えっ? それはいいですけど」
美味しい物は気になる。
前に食べた川魚は美味しかった。
それより美味しいなんて、すごく食べたい!
それは私だけじゃないようで、お父さんもフィーシェさんも、文句を言いながらさっさとジナルさんから竿を受け取っている。
「お前ら、言葉と行動が一致してないぞ」
ジナルさんの言葉に、ちょっと視線を逸らすお父さんとフィーシェさん。
「うまい物を目の前にぶら下げられたら、やる気になるって」
フィーシェさんの言葉に、竿に付いている糸の先に何かをつけているお父さんが頷く。
「旅での楽しみは、食事だからな。うまい物は逃せない」
2人の言葉に、ジナルさんが笑う。
確かに、歩き疲れた後の美味しい食事は格別だよね。
「ソラ、フレム。川には近付き過ぎないようにな。大きな川だから、何かあっても助けられないかもしれないんだ」
ジナルさんの言葉に、じっと川を見るソラとフレム。
「ぷっぷぷ」
「てっりゅりゅ」
何を想像したのかは分からないが、真剣な表情でジナルさんを見て答える2匹。
分かってくれたと思っていいのかな?
ソラたちを見て首を傾げると、シエルがスリっと顔を私に押し付けてくる。
「にゃうん」
「いつもありがとうね」
何かあった時に、すぐに動いてくれたのはいつもシエルだ。
ありがたいけど、心配になる。
「あまり無理はしないでね」
「にゃ~ん」
私の言葉に、喉を鳴らすシエル。
本当に可愛い。
「アイビーは釣りの経験は?」
「あります。お父さんに教えてもらって」
ジナルさんが手招きする。
「はい。シエルはゆっくりしててね。ソラ、フレムはほどほどにね」
川から離れたところで遊んでいたソラたちに、声を掛けてからジナルさんの下へ行く。
傍に寄ると竿が渡された。
竿を触るのはこれで2回目。
「前の時も思ったんですけど、これで折れないのが不思議です」
持つ部分は少し太いけど、長くて細い竿。
これで折れずに魚が釣れるのだから不思議。
「しなる素材で作っているから、ある程度力が加わっても折れないんだよ」
ジナルさんが、竿に付いている糸を引っ張ると、竿の先がぐっとしなる。
結構な力を加えても折れない竿に、ちょっと感動してしまう。
「よしっ、釣り方は知っているんだったな。ならさっそく一緒に釣ろうか」
「はい」
ジナルさんに付いて川辺に行くと、既にお父さんとフィーシェさんが釣りを始めていた。
その表情は楽しそうで、つい笑ってしまう。
「さっきまで文句言っていたくせにな」
ジナルさんの言葉に噴き出してしまう。
「前はどんな餌を使ったんだ?」
何だったかな?
「何かの幼虫だったと思います」
「そうか。今回は、これが餌だ。そこらへんの土を掘れば出てくるから」
ジナルさんが持っている小さな入れ物を覗き込む。
森の中でよく見る、小さな虫の幼虫が蠢いていた。
1匹、2匹では思わないが、小さな入れ物には沢山の幼虫が入っていたのでちょっと気持ち悪かった。
「狙っている魚は、餌を取るのが得意だから。針の奥に餌をつけておいた方がいい。こうやって」
ジナルさんが1匹の幼虫を針にぐっと差し込む。
それを真似て、針の奥に餌を差し込む。
「よしっ、なるべく遠くに糸を飛ばした方が大物が釣れるから頑張れ」
ジナルさんが竿を振って糸を遠くへ飛ばす。
確か手首を使って飛ばすんだったよね。
「あれ?……飛ばない」
ジナルさんの半分にも届かない場所に糸が落ちる。
前の時に、コツが掴めたと思ったのに!
「まぁ、大丈夫。すぐにコツを掴めるよ」
次は飛ばす!
「後はどうするんですか?」
釣る魚によって、違ったりするのかな?
前の時は、のんびり待ってたけど。
「魚が餌に食らいつくまで、ひたすらじっと待つ。竿を動かさないよう気を付けて」
竿を動かさずに、待つ。
「時々は、針に餌が付いているか確かめた方がいい。餌だけ食べられている時があるから」
餌を取るのが得意だって言ってたな。
どれぐらい待ってから針を確かめたらいいんだろう?
今、確かめてみる?
ジナルさんを見ると、じっと川を見て動かない。
まだ、いいのかな?
……3人とも全然動かないな。
お父さんたちは動かず、じっと川を見つめている。
3人に倣って川を見つめる。
穏やかに流れる水の流れ。
「ゆっくり流れるんですね」
「ん? 水の流れか?」
ジナルさんの言葉に、頷く。
「川が大きいと水の量が増えるから、流れが速くなると思ってました」
「本流はいつもこんな感じかな。ただ、支流が合流する場所や段差がある場所、傾斜では、速くなるから気を付けた方がいい。あとは雨が降った時は、水の流れが速くなるから近づかないほうがいい。降る量によっては、川から水が溢れ出すからな」
「この広い川でも、水が溢れるんですか?」
「あぁ、何本もある支流の水が本流に流れ込むからな。水位が上がってしまうんだ」
雨が降った後の川から、水が溢れているのを見た事がある。
あの時は、水の流れも速くて水音もいつもより大きかったっけ。
「おっ、掛かった」
ジナルさんが、竿の先の糸を手繰り寄せる。
糸の先が、近くなってくるとパシャッという音が聞こえた。
じっと見つめていると、魚の姿が目に映った。
「すごい、大きいですね」
「そうか? あぁ、確かに良い大きさだな」
ジナルさんにも魚の姿が目に入ったのか、声が嬉しそうだ。
川から出された魚が、目の前でパタパタ動いている。
前に釣った魚より、こっちの方が少し大きいかな。
ジナルさんが魚から針を取るとカゴの中に入れる。
そして、そのカゴを川の中に入れてしまう。
「生かしたままの方が良いんですか?」
前回もそうやっていたな。
「さぁ、どうかな? 俺に釣りを教えてくれた人が、こうしていたんだ」
なるほど。
「アイビー、一度竿をあげて針を確認した方がいいぞ」
「はい」
竿をあげて針の様子を見る。
……餌が無い。
「ははっ。食べられてるな」
「そうみたいです。悔しい」
お父さんたちの方へ視線を向けると、お父さんが魚を釣り上げていた。
いいなぁ。
私も頑張ろう。
針にもう一度餌をつけ、手首を使って糸を遠くに……さっきよりは飛んだかな?
ジナルさんと一緒に魚をさばく。
野兎や野ネズミとは全く違う力加減なので、ドキドキしてしまう。
「よしっ、出来た。はい、これ木串」
フィーシェさんが作ってくれた木串を魚の口から尻尾に向かって刺して塩を振る。
塩焼きがこの魚の一番美味しい食べ方らしい。
前回も、塩焼きで食べて美味しかったので、今回もすごく期待してしまう。
でもこれって、私が料理をする必要はないような気がするんだけど。
「アイビー、頼む。塩焼き以外に何か食べ方を思いつかないか?」
塩焼き以外で?
あっ、唐揚げはどうだろう。
「魚の唐揚げはどうですか?」
味付けした魚を揚げたらきっと美味しいはず。
あっ、でも揚げると身が硬くなったりするかな?
「唐揚げか、うまそうだな」
ジナルさんの言葉に、とりあえず作ってみる事にする。
後は……魚の味によって変わるかな。
「それにしても、アイビーはある意味すごかったよな」
ジナルさんの言葉に、ため息が出てしまう。
なぜか私の餌だけ、食べられ続けた。
場所を移動しても、同じ結果になるのには唖然とした。
まぁ、それでも最後の方で2匹は釣る事は出来た。
……可愛らしい大きさだったけど。
すみません。
366話で釣りの話が出ていたのを、完全に忘れていました。
大幅に修正いたしました。
教えてくれた方、ありがとうございました。




