549話 合流
「おかしいな」
「おかしいよね?」
お父さんの言葉に頷くと、隣でフィーシェさんも頷いていた。
先ほどから、様々な魔物が走り抜けていく。
正直、ここまで魔物が混乱した姿を見たのは初めてだ。
サーペントさんたちと森の中を大移動した時も、ここまで魔物たちは混乱をしなかった。
「何があったんだ?」
「さぁ?」
お父さんの言葉に、フィーシェさんと一緒に首を傾げる。
「あっ、ジナルが来た」
フィーシェさんが指す方を見ると、サーペントさんに乗ったジナルさんが手を振っていた。
それに手を振り返す。
「あれ?」
何だろう。
何かがいつもと違う気がする。
「どうした、アイビー?」
お父さんの言葉に、どう説明しようか迷う。
私の気のせいかもしれないし。
でも……、
「サーペントさんたちが、興奮してるのかな?」
私の言葉にお父さんとフィーシェさんが、サーペントさんたちに視線を向ける。
「そうか?」
「うん。舌の動きがいつもより速いし、尻尾の動きもいつもよりちょっと速い気がする」
「よくそんなところに気付いたな」
私の言葉にフィーシェさんが感心した声を出す。
ん?
何か感心されるような事を言ったかな?
「ジナル。お疲れ様。問題は?」
「無い。だが、ちょっとな」
フィーシェさんの言葉に、ジナルさんが苦笑する。
そのなんとも言えない表情に首を傾げる。
「何があった?」
「実は――」
これは、私が聞いてもいいのかな?
離れた方がいい?
お父さんを見ると肩を竦めている。
ジナルさんに訊こう。
「うわっ」
ジナルさんに声を掛けようとした瞬間、急に体が持ち上げられた。
お腹の下に硬い物があるので、視線を向けるとサーペントさんがいた。
どうやら、サーペントさんが勝手に持ち上げたようだ。
驚いた。
「えっと、なんで?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
サーペントさんの行動に、ソラとフレムが興奮している。
どうしていいか分からず、お父さんたちに視線を向ける。
お父さんとフィーシェさんは驚いているようだけど、ジナルさんは苦笑していた。
「悪い、アイビー。サーペントたちは機嫌がいいから、いつもより行動が激しいんだ」
あぁ、だから舌と尻尾の動きがいつもと違ったのか。
逃げていった魔物たちは、サーペントさんたちの興奮に混乱したのかな?
「半日以上、この状態なんだ」
「えっ」
半日以上?
それは大丈夫なのかな?
体を持ち上げているサーペントさんと視線が合うと、舌の動きが激しくなった。
いつもはおっとりしているのに。
「何か嬉しい事でもあったの?」
私の質問に、ゆらゆらと尻尾が揺れているのが分かった。
あったんだ。
「今回、ある事に協力してもらったんだけど。上手くいったのが嬉しいみたいで、終わってからずっとこんな調子なんだよ」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんがプルプルと揺れる。
上手くいって嬉しくて?
なんか可愛い。
私を乗せているサーペントさんに手を伸ばすと、額のあたりを撫でる。
「上手くいって良かったね。でも、そろそろ落ち着こうね」
可愛いけど、落ち着かせた方がいいよね。
魔物たちのあの混乱は、ちょっと可哀そうだったし。
「ソラたちも一緒に興奮してどうするんだ」
お父さんの言葉に視線を向けると、高く飛び跳ねているソラとフレムがいた。
「ソラもフレムも、落ち着こうね~」
「ぷっぷぷ~」
ぴょん。
「てっりゅりゅ~」
ぴょん。
うん、全然駄目だね。
あっ、シエルに飛び跳ねるのを止められた。
あれ?
傍にいた、ジナルさんがいなくなってる。
サーペントさんに乗ったまま周りを見ると、少し離れたところでフィーシェさんと話している姿が見えた。
ある事についての報告かな?
「ギルマスの死に関わった者たちや知っても動かなかった者たちは、全員捕まったそうだ。あと、違法な契約をした者たちも」
「よかった」
お父さんの言葉に、頷く。
これで少しは、ギルマスさんもルーツイも浮かばれるかな。
私を乗せているサーペントさんを見る。
もしかして、捕まえる時に手伝ったのかな?
「ジナルさんたちと一緒に捕まえたの?」
私の言葉に、サーペントさんが少し首を傾げる。
違うのかな?
まぁ、なんでもいいか。
「協力してくれて、ありがとう」
「ククククッ」
サーペントさんの返事に笑みが浮かぶ。
何をしたのかは分からないけど、そんなに無体な事はしてないだろう。
サーペントさんたちは、どの子も優しいからね。
「悪い、待たせた。行こうか」
話し合いが終わったのか、ジナルさんとフィーシェさんが戻ってくる。
「サーペントさん、そろそろ下ろして」
全く下ろす気配のないサーペントさんに声を掛けると、ちょっと悩んだ後に下ろしてくれた。
「ありがとう」
私の言葉を聞くと、すりすりと鼻を体にこすり付けてくる。
「なんでアイビーの時は優しいんだ?」
ジナルさんの言葉に、私の傍にいるサーペントさんとは違うサーペントさんが勢いよく彼にぶつかる。
「だから! 対応が違いすぎるだろ!」
サーペントさんの勢いに、地面に転がったジナルさんが起き上がりながら目の前のサーペントさんに怒る。
サーペントさんは起き上がったジナルさんにすりすりと顔をこすり付ける。
「だから、力加減! 本当に俺に対する扱いがひどいな!」
楽しそうに笑って、サーペントさんの鼻を叩くジナルさん。
かなり良い関係を築けているみたいだ。
と言うか、数日前よりかなり親しくなっている。
一緒に行動して、仲が深まったのだろうか?
「アイビー、どうしたんだ?」
「すごく仲良くなっているから、ちょっと驚いちゃって」
ジナルさんたちの様子に笑いながら答えると、お父さんが不思議そうな表情をする。
「仲良く? サーペントにジナルが遊ばれているようにしか見えないが」
確かに、そう見える。
でも、多分サーペントさんたちはジナルさんを信用している。
だから、甘えているんだと思う。
「こらっ。服を引っ張るな」
ジナルさんの諦めた声音にフィーシェさんが笑いだす。
「そろそろ行こうか。サーペントたちはどうするんだ?」
お父さんの言葉に、ジナルさんと遊んでいたサーペントさんがすっと離れる。
私の傍にいたサーペントさんも、少し距離を取った。
「ここまでなの?」
「ククククッ」
寂しそうに鳴くサーペントさん。
手を伸ばして鼻の辺りを撫でる。
「そっか。残念だけど仕方ないよね。ありがとう、楽しかったよ」
「ククククッ」
しばらく撫でていると、すっと離れるサーペントさん。
私たちの様子を見ながら、来た道を戻りだした。
「バイバイ。また会おうね」
私の言葉に、ふるふると体を揺らすサーペントさんたち。
そういえば、6匹もサーペントさんがいたんだね。
一番大きなサーペントさんの陰になっていて、気付かなかった。
「行っちゃったな」
ジナルさんが少し寂しそうに言うと、フィーシェさんがそれを見て笑う。
「随分仲良くなったな。かなり遊ばれてたけど」
フィーシェさんの言葉にジナルさんが苦笑する。
「頭のいい魔物だよ。ほんと、絶妙な力加減だった」
ジナルさんの言葉に首を傾げる。
力加減がどうしたんだろう?
もしかして、怪我しない程度の力で、転がされた事を言っているのかな?
まぁ、サーペントさんたちの力加減は、確かにすごいよね。
「さて、次の村へ出発するか」
ジナルさんの言葉にお父さんが待ったをかける。
それに不思議そうな表情をする、ジナルさんとフィーシェさん。
「どうしたの?」
「魔物が興奮してるようだ」
オカンイ村に向かう道へ視線を向け、気配を探る。
魔物たちが、森の中をうろうろしているのが感じられた。
それにいつもは聞こえない、木の上を移動する音まで聞こえる。
「駄目だな。ちょっと落ち着くまで待つか」
ジナルさんの言葉に全員が頷く。
こればかりは、仕方ないね。
「に゛ゃあ~!」
えっ?
シエルの声が周辺の森にこだまする。
急な事に驚いてシエルを見つめると、なぜか得意げな表情をしている。
バタバタ、バサバサ、タタタタッ。
「すごいな」
お父さんの言葉に、頷く。
一鳴きで、森に隠れていた魔物たちが一斉にいなくなった。
さすがシエル。
「にゃうん」




