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番外編 ジナルさんは傍観者

‐ジナル視点‐


「よぉ、久しぶりだな」


逃げていく犯罪者たちの後ろ姿を見送っていると、後ろから声が掛かる。

相変わらず、気配が薄い。

まぁ、気付いていたけどな。


「あぁ、久しぶり。元気そうだな」


俺の言葉に、肩を竦める仲間。

名前はガルトス。

裏の仲間で信頼できる奴だ。

何度か命を助けられたし、俺もこいつを助けた事がある。


「それより、本当にいいのか。あれ」


ガルトスの視線が、逃げていった犯罪者たちに向く。

既にその姿は闇に紛れて見えない。


「あぁ、これでいい」


俺の言葉に、ガルトスから少し不穏な空気が流れる。


「別に逃がしたわけじゃない」


「いや、逃げていったし」


「そうそう、俺も止めたんだよ。それなのに、逃がしていいの一点張り」


隣で苛立ちをあらわにしていたジャスが、不服そうに声をあげる。

まぁ、何も知らないと俺が奴らを逃がしたと思うよな。

実際に、逃がしたんだし。


「で、逃がした奴はどうするんだ?」


「捕まえるが?」


ガルトスの質問に答えると、ガルトスもジャスもあり得ないという表情をする。


「はぁ? 捕まえるんだったらどうして逃がした? 馬鹿か?」


ジャスに肩を掴まれる。

痛い。

もう70歳で冒険者を引退して数年経つのに、相変わらず馬鹿力だな。


「いや、馬鹿だとは思っていたが、ここまでとは」


ガルトスが、剣を鞘から抜く。

きっと、今から逃げていった奴らを追いかけるつもりなんだろう。


「言いたい放題だな。問題ないと言っているだろう。そろそろ彼らが動く」


俺の言葉に、首を傾げる2人。

ん? 

どうやら、1匹はここに来たようだ。


「紹介するよ。今回の作戦で協力してくれる魔物だ」


不意に周りに影が出来る。

これはまた、デカいサーペントだな。


「「はっ?」」


ガルトスとジャスが間抜け面を晒した次の瞬間、森の中に多数の叫び声が響いた。

どうやら、逃げた奴らは無事にサーペントたちと出会えたらしい。

まぁ、奴らにとっては最悪な出会いだろうな。


「おい、ジナル」


「なんだ?」


ジャスが震える指をサーペントに向ける。


「指を差すのは失礼だぞ」


俺の言葉に、ギギギっと視線を俺に向ける。

面白いな。

何事にも動じないと思っていたジャスがこうなるのか。


「サーペントだよな」


「見たら分かるだろう? こんばんは、協力ありがとうな」


俺の言葉に、頭を下げるサーペントの鼻の辺りをアイビーのようにゆっくりと撫でる。

ガルトスとジャスが数歩後ろに下がるのが視界に入った。


「大丈夫だ」


俺の言葉に、ジャスが警戒しながらも近付いて来る。


「凄い……」


ジャスがおそるおそる、サーペントに手を伸ばす。

その手をじっと見つめるサーペント。

途中で焦れったくなったのか、すっとジャスの手に鼻先を擦り付けた。

ビクリと震えるジャスに、つい笑ってしまう。

すごい睨まれたが。


「ギルマスのテイムしていた魔物は、サーペントではなかったよな?」


ガルトスも近付いて来て、そっとサーペントに触れた。


「あぁ、違う。この子は誰にもテイムされていないよ」


「だよな」


サーペントの額を見ていたジャスが頷く。


「特別なテイマーは、テイムしていない魔物とも仲良くできるみたいなんだ」


サーペントたちと一緒にいるアイビーを思い出す。

まるで、何でもない事のようにサーペントたちに囲まれていたが、普通ではあり得ない光景だった。

初めて見た時は、叫びはしなかったが本当に驚いた。

しかも、「可愛いでしょ」と紹介された時は、かなり返答に困った。


サーペントはとても頭のいい魔物だ。

3大魔物には入っていないが、特別な魔物だと言っていい。

人間と共存する個体もいるが、それはかなり稀。

多くのサーペントは、森の奥に住み人の侵入を拒む。

無理やり森に入り込んで敵だと思われたら、二度と森から生きて帰って来られない。

昔の文献には、『サーペントを怒らせたせいで村を壊滅状態にされた』とも載っている。

それが、アイビーを乗せて嬉しそうにするんだから。


「そうなのか? 聞いたことは無いが」


ジャスの戸惑った表情に、そうだろうなと思いながら頷く。


「魔物が協力したいと思うほどの特別なテイマーが、ほとんどいないからだろうな」


ほとんどいないというか、アイビー以外にいるんだろうか?

俺の言葉に、ジャスが何か考え込む。


「ジナルはその特別なテイマーに会ったのか?」


森から聞こえてくる、叫び声の方に少し視線を向ける。

かなり逃げ回っているのか、かなり広範囲から声が聞こえる。


「あぁ」


今回サーペントたちが、この追いかけっこを提案したのはアイビーが泣いたからだろう。

あの岩穴でアイビーが泣いた瞬間、サーペントの雰囲気が一瞬変わった。

サーペントだけじゃない。

シエルやソラたちも、ほんの一瞬だけど変わった。

魔物の事はよく分からないが、たぶんアイビーを泣かせた者たちに怒りを覚えたんだと思う。


「誰だと聞いても?」


ガルトスが興味津々の表情を見せる。


「サーペントたちの怒りを買うかもしれないが、それでいいなら」


今まで撫でさせてくれていたサーペントが顔をすっと上げて、俺たちを見下ろす。


「あっ! ジナル、絶対に言うなよ。悪かったな、絶対に訊かないから。ところで、何匹のサーペントが協力しているんだ?」


ガルトスの言葉に肩を竦める。


「聞いてないな」


「木々の動きから10匹以上はいるよな?」


ジャスの言葉に、森を見る。

音を出さずに動けるくせに、先ほどから木々が大きく揺れる音が至るところからする。


「いや、もっとか?」


逃げている奴らは、28人。

ばらばらに逃げる可能性があるから、20匹以上はいるだろう。


「おそらく20匹はいると思う」


「20匹! 1匹でも怖いのに……。まぁ、逃げるから追われるんだよな。逃亡なんてしなかったらよかったのに」


ジャスの言葉に苦笑が浮かぶ。


「そういえば、どうやって協力関係になったんだ?」


「あぁ。2日前に、ギルマスの補佐だった奴から、ギルマスの亡くなった正確な場所をようやく聞き出せたんだよ。確認するために森に出たら、捨て場の近くで2匹が待ち構えていたんだ」


ガルトスが俺の話に、ちょっと驚いた表情を見せた。

まぁ、待ち構えていたなんて普通は無いからな。


「たぶん、俺の気配を探していたんだろう。今回の事を伝えたくて。大変だったぞ。何かを伝えたいという事は分かるが、理解するのが難しくて」


正直、よく理解できたと自分を褒めたい。


「確かに、よく分かったな」


「サーペントたちが、小型の魔物を連れてきて、逃げるようにお尻を押すんだよ。で、逃げると捕まえてまた逃がす。これを3回繰り返したところで、もしかしてと思って、訊いてみたんだ。『護送中に逃がせという事か』と。見事正解。あの時は、本当にホッとしたよ」


周りから見たら、2匹のサーペントと俺が震えている魔物を眺めているんだ。

かなり滑稽に見えただろうな。

でもほんと、サーペントたちの気持ちを理解出来て良かった。


「あっ、あれって……振り回されてるのか?」


ジャスの視線を追って、苦笑する。

夜中なので薄っすら見えるだけだが、サーペントの1匹が何かを銜えて振り回している。

まぁ、逃げていった誰かだろう。


「ところで、あっちはどうするんだ?」


ガルトスの言葉に、視線を村の門へと向ける。

こそこそと2人の男性が、出てくるのが確認できた。

木の陰に隠れて、2人の顔を確認する。


「間違いない。奴らだ」


まさか、この村で教会関係者に会うとは思わなかった。

このオカンケ村に、教会は無い。

かなり昔になるが、冒険者ギルドのギルマスと教会の間で洞窟で採れる魔石の利権争いがあった。

ギルマスはかなり悪どい方法を使い、教会を潰したそうだ。

今、考えると当時のギルマスは凄いよな。

それからは、教会に村の金を奪われないために、教会が建つ機会をことごとく潰してきたらしい。

だから、この村には教会は無いし関係者もいない。

なのに、なぜか王都の教会関係者がいる。


「どうする?」


「確保して、連れて行く」


ジャスの言葉に、ガルトスが頷く。


「とっとと、捕まえ……失神したな」


「「……」」


暇だったのかな?

俺たちの傍にいたサーペントが、木の上から2人の教会関係者に一気に迫った。

結果は、声も上げられず失神。

まぁ、気持ちは分かる。

あれは、かなり怖いだろうな。


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― 新着の感想 ―
推しを泣かせるから… だが、いいぞもっとやれ!
[一言] サーペントさん「おまえらなにわれらのアイドルなかしとんじゃあ!!!」
[良い点] サーペントさんグッジョブ(≧∇≦)b
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