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544話 指輪

どうしよう。

失敗したという事は……。

恐怖に手足が震えてくる。

どうしよう……。


「大丈夫だ。見てごらん」


耳に届いた優しい声に、びくりと震える。


「大丈夫だ。ほら、顔を上げて」


その優しい声に、ほんの少し震えが止まる。

そっと顔を上げると、ジナルさんが優しい表情で私を見ていた。


「あっ」


頭を優しく撫でられている事に気付く。

そう言えば、耳からも手が離れている。


「ありがとう。アイビー」


ありがとう?

ジナルさんの視線が私から逸れる。

その視線を追うと、魔法陣が白く光っているのが見えた。

一瞬体が硬直するが、ポンポンと背中を優しく叩く手に体から力が抜ける。

魔法陣は淡い光に包まれていた。

勇気を出してカミスの表情を見る。

魔法陣の淡い光の中にいるカミスの表情は、先ほどとは異なり穏やかになっていた。


「あの子は、もう大丈夫だ」


良かった。

死んでからも苦しむなんて悲しすぎる。

大切な家族も亡くしているのに。


「綺麗だな」


お父さんの言葉に頷くと、ただその光をじっと見つめる。

しばらく、淡い光が空気に溶けるように消えていく。


「あっ、あの子が……」


光に包まれていたカミスの体が、さらさらと光の粒子になって消えていってしまう。


「完全に魔法陣から解放されたんだろう」


そっか。


「えっ?」


一瞬、今見たものが理解できなかった。

いや、きっと見間違いだろう。

だって、既に亡くなっていたんだから……。


「今のって……」


お父さんの唖然とした声に、カミスが消えた場所を4人で凝視する。

お父さんやジナルさんたちも、見たんだよね。

という事は、見間違いじゃなかったという事?


「死んでたよな?」


フィーシェさんの言葉に、ジナルさんが頷く。


「あぁ、それに間違いはない」


「でも、消える直前に目を開けてこちらを見なかったか?」


フィーシェさんの言うように、消える直前にカミスは目を開けこちらを見た……ような。

気のせいにするには、はっきりと見え過ぎた。

しかも、私だけじゃない。


「「「「……」」」」


消える直前のカミスの表情を思い出す。


「何となくだけど、嬉しそうに見えました」


普通、死んでいる魔物がいきなり目を開けて動いたら怖いと思う。

でも、そうは思わなかった。

確かに、ものすごく驚いたけど。

でも、怖くはなかった。


「そうだな。嬉しそうに見えたな」


お父さんの言葉に、頷くと視界が少し滲んだ。

それをすっと拭うと、お父さんたちに笑いかける。


「よかった」


私の言葉に3人がそれぞれ笑みを見せる。


「それより、ジナル」


「なんだ?」


お父さんの声が少し低くなる。

どうしたんだろう?

不安になって見ると、なぜかジナルさんを睨んでいる。


「いつまで、アイビーに抱き付いているんだ?」


ん?

そう言えば、ジナルさんに支えてもらっていた……ん?

抱き付いて?


「待て。抱き付いてはおかしくないか」


うん、おかしい。

お父さんを見ると、にこりと音がしそうな笑顔をジナルさんに向ける。


「もう()()に、()()に問題は消えた。だからとっとと離れろ……」


大きなため息を吐きながら、ジナルさんが私の体に回っていた腕を放す。


「ドルイド。お前、最後に何か付け足そうとしなかったか?」


そう言えば、言い方にすこし違和感があったかも。

お父さんを見ると肩を竦めた。


「特には何も」


……嘘くさい。

ジナルさんもそう感じたのか、お父さんを呆れた表情で見る。


「隠すのが上手いくせに、こういう時だけ態度に出しやがって」


ジナルさんとお父さんの会話に笑いそうになる。

いつの間にか、すごく仲が良くなっている。


「あれ?」


先ほどまでカミスが横たわっていた場所を見ると、何かが転がっている事に気付いた。

近づいてみると、四角い何か。

手に取って見ると、判子だと分かった。


「なんで、こんなところに判子?」


周りを見ると、もう1つ何かが落ちている。

それも手に取る。

今度は指輪だった。

男性用なのか、親指にはめてもぶかぶかだ。


「どうした?」


フィーシェさんが、私の手の中の物に視線を向ける。


「それっ!」


驚いた声に、びっくりしてフィーシェさんを見る。


「その四角い物を、見せてもらってもいいか?」


「ここに落ちていた物なので、私のではないですよ」


落ちていた事を説明して、四角い判子をフィーシェさんに渡す。

じっと見つめているフィーシェさんに、お父さんたちが気付いた。


「何かあったのか?」


「これ、ギルマスの証だ」


ジナルさんが疲れた表情で、フィーシェさんが持っている物を見る。

ん?

ギルマスの証って……ギルマスさんが隠した物のはず。


「本物か?」


フィーシェさんが、四角い判子を見る。


「本物みたいだな。微かに特殊な魔力を感じる」


特殊な魔力?

私は全く気付かなかった。


「……間違いなく、カミスはギルマスのテイムした魔物だな。まぁ、あの声を聞いてからは、そうだろうと確信を持っていたが」


そうか。

ギルマスの証を、カミスが持っていたんだ。

ギルマスさんに頼まれたのかな?

それでここに閉じ込められたという事?


「気になっていたんだが、あのカミスの力があれば、ここから脱出できたんじゃないか?」


えっ?

お父さんの言葉に首を傾げる。


「そうなんだよな」


ジナルさんが壁によって岩に手を当てる。


「やっぱり、普通の岩だ。つまり、魔法陣が刻まれていた場所は無理だが、違う場所に穴を開けることぐらいは出来たと思う。例えばあそこ」


ジナルさんが指す方を見ると、岩に小さな穴が開いていて光が入り込んでいる。


「光の入り具合から、岩にそれほど厚みはない。あそこだったら、間違いなく壊せるはずだ」


なら、どうして逃げなかったのだろう?

……逃げる必要を感じなかった?

どうして?

信頼している者が、ここに閉じ込めたから。

閉じ込めたという考えは、違うのかもしれない。

他に考えられるのは……守った?

いや、あの魔法陣は「閉じ込めて魔力を奪う魔法陣」だって言っていた。

あっ、違う。

その「魔法陣に似ている」と言っていたんだ。


「閉じ込めたのではなく……」


私たちがここに気付いたのは、魔法陣が浮かび上がったから。

あれが無ければ、気付けなかった。

あの時、どうして魔法陣が浮かび上がったのかは分からないけど……。


「アイビー?」


「もしかしたらだけど、あの魔法陣はギルマスさんがカミスを守るためにしたんじゃ……」


お父さんが私の言葉に、考え込む表情をした。


「その可能性はあるな。だから、カミスはここから逃げなかった。もしかしたら、迎えに来るのを待っていたのかもしれない」


迎え……。

でも、ギルマスさんは亡くなってしまった。

ギルマスさんが亡くなったらテイムが切れるから、何が起こったのか知ったはず。

カミスはどう思っただろう。

ジナルさんが持っている、ギルマスの証を見る。

親指にはまっている指輪を見る。


「それは?」


「ギルマスの証の傍に落ちてたの」


お父さんに指輪を渡す。


「男性用だな。あっ、ここを見たか?」


お父さんが指輪の内側を指す。

それに首を横に振る。

すぐに親指にはめたから気付かなかった。


「これはギルマスの指輪だと思う。ほら、ルルとルーツイと刻まれてる」


お父さんから指輪を受け取り、内側に視線を走らせる。

確かにルルとルーツイが刻まれている。


「名前?」


「あぁ、オカンケ村のギルマスの名前はルールベルス。ルルと呼ばれていたそうだ」


それならルーツイがカミスの名前か。

指輪に名前を刻むほど、仲が良かったんだ。


「ルーツイか。いい名前だな」


フィーシェさんの言葉に頷く。


「本当の事は分からないが、ルーツイはここを動きたくなかったのかもしれないな」


ジナルさんを見ると、ギルマスの証を見ていた。


「出られたのに、出なかった。それはこの場所が……ギルマスと過ごした、最後の場所なのかもしれない。迎えに来ないと知っていても、待っていたのかも。まぁ、ただの想像だけど」


ジナルさんの言葉にぐっと両手を握る。

そうしないと……。

何だか、すごくムカついてきた。


「アイビー、険しい表情でどうした?」


お父さんが私の頭を撫でる。


「ちょっとムカついて。ギルマスさんはきっと、ルーツイと最期を一緒に過ごしたかったはずです」


ギルマスになったのは「テイムした魔物が高齢になったから」だとジナルさんが言っていた。


「ルーツイだって、ギルマスさんと最期まで一緒にいたかったはず……」


なのに邪魔をした。

すごくムカつく。

私だったら……ソラたちを見る。

ソラたちが、滲んで見えなくなる。


「ぐずっ」


お父さんに、ギュッと抱きしめられる。

ムカつく、悔しい。


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― 新着の感想 ―
これは辛いな。 待ち続け、一緒にいたいのに離れ離れ… 許しちゃいけない。
涙が止まらないですよ。これはしんどすぎる……
来ないと分かってても待ち続ける… 切なくも美しい話でした テイマーというものをテーマにしてる物語なんだなと実感できた一話でした
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