540話 まさかの行動
捨て場に近付くと、木々の間にサーペントさんの胴体が見えた。
遠くへ移動したと思ったけど、近くにいたみたいだ。
「顔はどっちにあるんだろう?」
私の言葉にお父さんが、サーペントさんの体を見る。
「鱗に前後があれば解るけど、無いな」
首を横に振るお父さん。
「とりあえず、捨て場に行こう。尻尾の方だったら、軽く叩いて合図を送ってみようか」
お父さんの言葉に頷くと、捨て場がある方へと歩き出す。
「こっちに顔があるといいんだが」
「そうだね」
捨て場に着くと、木々の陰からちらりと私たちを窺うサーペントさんが見えた。
「よかった。顔はこっちだったみたい」
「それは良かったが……あれは?」
お父さんの言葉に、サーペントさんを見る。
視線が合いそうになると、木の後ろに顔を隠してしまう。
バッグから出したソラたちも不思議そうだ。
「サーペントさん、どうしたの?」
私が声を掛けると、そっと顔を見せるサーペントさん。
その表情がちょっと不安そうに見える。
サーペントさんが不安に思う事などあったかな?
「……もしかして、さっきの態度の事を気にしているとか?」
さっきの態度?
……あぁ、視線が合ったのにそのまま通り過ぎた事?
でもあれは、こちらの事を思ってしてくれた行動だ。
だから、気にする事は何もない。
でも、お父さんの言葉が正解なのかサーペントさんの表情がピクリと動く。
そしてそのまま木の後ろに隠れてしまう。
「あれって……隠れているつもりなんだろうか?」
お父さんの言葉にサーペントさんの全体を見渡す。
体が大きいので胴体が完全に木々の間から見えてしまっている。
だが、顔だけは何とか木の後ろに隠している。
「可愛い」
私の言葉にピクリと体が動くサーペントさん。
その様子にお父さんとクスリと笑ってしまう。
「サーペントさん、さっきはありがとう。とっても助かったよ」
私の言葉に木の後ろから顔を出すサーペントさん。
そっと近付き鼻のあたりを撫でる。
じっと私を見るサーペントさんにもう一度お礼を言う。
「ククククッ」
ん?
傍で聞こえた音に、サーペントさんを見る。
「ククククッ」
あっ、これ。
サーペントさんが喉を鳴らすことで出る音だ。
前に一度だけ聞いたことがあるな。
確か、迷子の黒の球体をサーペントさんの元まで送り届けた時だったかな。
うん、確か合ってるはず。
「久しぶりだな、その音」
お父さんが隣に来て、サーペントさんを撫でる。
「あまり聞かないよね」
サーペントさんたちと大移動した時も、そう言えば聞かなかったな。
どんな時に鳴らすんだろう?
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
ソラとフレムの声に視線を向けると、楽しそうに捨て場で食事中だった。
いつの間に……朝ごはん食べたよね?
「相変わらず、捨て場ではすごい食欲だな」
ちょっと呆れた声のお父さん。
「ぽんっ」
「「えっ!」」
魔石を復活させた時の音が聞こえたので、慌ててフレムを見る。
フレムと視線が合うと、すっと視線を逸らされた。
「テンションが上がって、やってしまったという感じだな」
フレムは目の前に落ちた魔石をじっと見ると、おもむろにゴミの隙間に落とした。
「いや、それは駄目。今の魔石は、色がおかしかったし」
急いで捨て場に入り、フレムがゴミの中に落とした魔石を拾う。
濁りの無い透明感。
それは今までも見た事がある。
でも、手に取った魔石は緑色と黒色が混ざっていた。
「すごい不思議な色の組み合わせ」
緑は風の魔力を強化してくれる魔石で、黒は魔法陣の魔力を浄化してくれる魔石だ。
その2つが混ざっている。
「凄いな」
隣からお父さんが私の手元を覗き込む。
「うん。この色の組み合わせだと、何が出来るんだろう?」
私の言葉にお父さんの眉間に皺が寄る。
風の強化に魔法陣の魔力の浄化。
風と浄化。
「風の魔力持ちの中に、癒しの力を持つ者がいると聞いたことがあるな」
癒しの力?
でも、黒は浄化だよね。
「かなり珍しい事らしいが。まぁ、黒の魔石だから関係ないか」
お父さんの言葉に首を傾げる。
ん~浄化は、不要な物を消してくれて気持ちを落ち着かせてくれる。
癒しみたいな物と言える……とか?
……違うかな?
「でも、なんでこの魔石を今復活させたんだろうな?」
お父さんがじっとフレムを見ると、フレムはプルプルと震えてポーションの食事を再開した。
さっきは困っていたのに、既に気にしないことにしたみたいだ。
何気に図太いな。
それにしても、お父さんの言葉の意味が分からない。
今、復活させた意味?
「お父さん、どういう意味?」
「フレムはシエルに必要な魔石を絶妙な時に生み出してくれただろう。今回もこれが必要な時がくるのかと思ってさ」
そう言えば、そうだった。
シエルが村に入れるようになったのは、フレムが生み出した魔石のお陰。
あれが無かったら、例年にない冷え込みの中にシエルを置いておくことになってた。
フレムを見る。
既に、魔石には興味が無いようだ。
あれ?
今ので……!
「フレム、待って。それは食べ過ぎだと思う」
フレムが今食べたポーションで32本目だ。
さすがにちょっと食べ過ぎ。
「アイビー、ソラは剣が10本でポーションが30本だぞ」
「ソラ~」
「ぷっぷ~」
「てりゅ~」
2匹でどうしたみたいな雰囲気だけど、駄目だからね。
食べ過ぎて、身軽に動けなくなって困ったことがあるくせに。
「また、今度ね」
2匹を抱き上げると捨て場を出る。
お父さんは、ソルを抱っこして捨て場を出てきた。
「最近のソルは、むちゃ食いをしなくなったな」
そう言えば、そうだ。
一緒に行動し始めた時は、すごい勢いで食べていたけどそれも落ち着いたね。
「ぷっぷ!」
「てりゅ!」
お父さんの言葉に、不服そうな声を出すソラとフレム。
むちゃ食いではないと言いたいようだ。
でも、大量のポーションなどを短時間でがむしゃらに食べるのはむちゃ食いであっていると思う。
まぁ、むちゃ食いをしても体が重くなって動きにくくなるだけで、他には影響がないけれど。
「朝ごはんも、多目に食べてるからね」
捨て場が近くにある時は、なるべく多めにご飯をあげるようにしている。
旅に出ると、どうしても我慢をさせてしまうから。
「ぷ~」
ソラの不服そうな声に、お父さんが苦笑している。
食べる事に貪欲すぎる。
あっ、この気配は。
「ジナルたちがこっちに来るな。もう1人はフィーシェか?」
2人の気配を感じたが、お父さんも気付いたようだ。
「うん。フィーシェさんみたい」
しばらく待っていると、2人の姿が見えた。
何だかちょっと疲れた表情のフィーシェさん。
何か問題でもあったのだろうか?
「何かあったのか?」
「敵の馬鹿さ加減に疲れた」
お父さんの言葉に、フィーシェさんがため息を吐く。
何かあったのだろうか?
しかもこの短時間に。
「村へ入るのを、邪魔されたらしい。で、森へ出ようとする時も色々言われたらしい」
ジナルさんが、肩を竦める。
村へ入るのも出るのも邪魔をされた?
なんのために?
「仲間を連れてこられると思ったんだろうな」
なるほど。
「門に自警団の団長がいた。そいつがまぁ……はぁ」
思いっきりため息を吐くフィーシェさん。
本当に疲れ切っている。
自警団の団長さんか。
ん?
門にいた?
……もしかして、門番さんたちが亡くなるのを待ってたとか?
いや、さすがにそれは……。
「しかも、まだ何も事が起こっていないのに自警団員を20人引き連れて」
「……そうだな、まだその時は何も起こっていないよな」
お父さんも呆れた表情だ。
それはそうだよね。
まるで、これから何かが起こると分かっている行動をしているんだから。
団長さんともあろう人が、率先して愚かな行動を起こすとは。
「思ってた以上に、馬鹿?」




