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538話 自警団もか!

宿「あすろ」で店主さんに見送ってもらったのだが、どうも店主さんが疲れきっているように見える。

隣にいるジナルさんは、今日の事が楽しみなのか機嫌がいい。

フィーシェさんもちょっと疲れているようだが、こちらも機嫌がいい。


「お前らな……」


お父さんは2人を見て呆れた様子でため息を吐いた。

何だか、店主さんに申し訳なく思えてくる。

おそらく、今日これからの時間を作るためにジナルさんが無理を通したような気がする。


「大丈夫だって、あれぐらい」


あれぐらいがどれくらいなのか分からないけど、店主さんを見る限り大丈夫じゃないと思う。

本当にいいのだろうか?


「大丈夫だから。もっと大変な事だってあるんだから、あれぐらい」


フィーシェさんがポンと、私の頭を軽く叩く。

……それなら、いいのかな?


「アイビー。俺が言うと不安そうで、フィーシェが言うとなんで納得するんだ?」


「これまでの行いによる結果でしょうか?」


ジナルさんの言葉に、正直に答えるとお父さんが噴き出した。

ジナルさんは、納得いかない表情をしている。

でも、これまでの行いを考えると正しいと思う。

あれ?

……もう少し柔らかく言えばよかったよね、これ。

私の中で、ジナルさんは気軽に対応していい人になりつつあるみたい。

かなり年上なのにな。

隣を歩くジナルさんを見る。

唇を突き出して不服そうだ。

気にしなくていいような気がしてしまう。


「ん? 何だ?」


「いえ」


ジナルさんの術中にはまっているような気がする。

こう、するっと懐に入ってくるというか……嫌な感じがしないから、不思議な人。


門から出る時に門番さんがジナルさんたちを見て、おかしな反応をした。

それに気付いているはずなのに、ジナルさんたちは何も反応をしない。

これは無視していいという事なんだろうな。

しばらく歩くと、お父さんがジナルさんたちを見る。


「あれは、敵か?」


ジナルさんが嫌そうな表情を見せる。


「どうもこちら側に馬鹿がいるようだ。下っ端だろうが、情報が漏れたな」


ジナルさんの仲間の下っ端から情報が漏れたって事か。

大丈夫かな?


「どうする? 何かしてきそうだが」


フィーシェさんが、後ろを振り返りながら言うとジナルさんが少し思案する。


「ちょうどいいから、釣るか」


つる?


「待ち受けるのか?」


あぁ、釣るのか。

それにしても、あんなバレバレの態度をとったのに、何か仕掛けてくるかな?


「こちらが気付いていると分かっているのに、仕掛けてきますか?」


私の言葉に、3人が苦笑する。

なんで?


「アイビーは門番の態度に気付いたんだな」


それは気付くでしょうと、お父さんの言葉に首を傾げる。


「門番は、必死に態度に出さないように頑張っていたんだけどな」


お父さんが面白そうに言うが、それに疑問が浮かぶ。

態度に出さないようにしてたの?

あれで?

だって、ジナルさんを見て少し目を見開いて、隣に来たら少しだけ体を引いて、気にしないようにわざと視線を逸らしていたのに?

あんなに分かりやすいのに?


「アイビーは鋭いからな」


そうなのかな?

ん?

一定以上間を空けて付いて来ている気配がある。

お父さんを見ると、頷かれた。

さすがお父さん。

気配が読めないのに、気付いている。

お父さんみたいな人こそ、鋭いって言うんだと思うな。


「どうする。このままではサーペントと合流できないぞ」


お父さんの言葉にジナルさんが少し慌てる。


「二手に分かれよう。おそらく……悪い」


ジナルさんが途中で言葉を途切れさせる。

二手?

そうなると、襲われるのはきっとこっちだね。

だって、私がいるし。


「アイビー、断ってもいいぞ」


「大丈夫。とっとと終わらせてサーペントさんと合流しましょう」


サーペントさんが、何か伝えようとしている気がして気になるんだよね。


「悪いな。相手は……素人か? それともわざとか?」


フィーシェさんが眉間に皺を寄せる。

そうなんだよね。

後ろから追ってきている人たちは6人。

気配を消していないため、とってもわかりやすい。

追ってきているのに気配を消さないなんてある?

無いよね?

という事は、6人は囮で他に誰かがこちらに来ているのかな?

上位冒険者の気配は薄いため読みにくい。

それでも動けば気配が動くから気付くことが出来る。

そう思って先ほどから周辺を調べているが、誰もいない。

そうとう上手く隠しているのか、それともマジックアイテムを使用しているのか。


「気配を消すマジックアイテムでも使用しているのかな?」


「そういうマジックアイテムはあるが、あれはかなり魔力を必要とするんだ。高額だしな。だからこれぐらいの問題で使用するとは思わない」


私の言葉に、フィーシェさんが説明してくれる。


「とりあえず、二手に分かれよう」


ジナルさんの言葉に頷くと、ちょうど捨て場と洞窟へ行く分かれ道へ来る。

私とお父さんは捨て場へ。

ジナルさんとフィーシェさんは洞窟へ向かって別れるように見せかける。

どちらを追ってくるのか、少し緊張する。


「なんだか、戸惑っていない?」


「……そうだな」


ジナルさんたちと別れた場所で、6人の戸惑った気配を感じる。

お父さんと首を傾げる。

何だかおかしい。


「本当に敵なのかな?」


「ん~、もしかしたら誰かに利用されているのかもしれないな」


利用か。

それはあるかもしれない。


「アイビー、この周辺に気配はまだないな?」


「うん」


「シエルだけ先に出しておこう」


お父さんの言葉に、シエルが入っているバッグの蓋を開ける。

すぐにシエルが飛び出してきて、アダンダラに戻るとさっと木の上に姿を隠した。


「……さすがだな。あっという間だった」


「うん。ちょっと驚いた」


あまりの完璧な行動に、つい2人で木の上を見てしまう。


「これは駄目な行動だな」


お父さんの言葉に、視線を捨て場へ続く道に変える。

あまりの鮮やかさに、シエルが向かった先を見てしまったがこれは駄目な行動だ。

周りに、木の上に何かいると伝えるようなものだ。


「こっちに来たな」


「そうだね」


ようやく6人がこちらに来たようだ。

シエルから視線を戻してからすぐだったのでホッとする。

そのままゆっくり歩いて捨て場へ向かう。


「すごい警戒されているな」


「うん。でもその前に気配を隠せばいいのに」


6人の行動に首を傾げる。

あまりにも、おかしい。

それに、なぜ6人いるんだろう。

先ほど通ってきた門で気配を探ったが、6人だった。

あそこにいた6人全員が、まさか私たちを追ってきているんだろうか?

それは、無いよね?

門番は、森の危険から村の人を守る砦でもある。

まさか、全員が門から離れるなんて……さすがに無いな。


「止まれ」


良かった。

ようやく来てくれた。

あと少しで捨て場に着いちゃうとこだった。


「こちらを向け」


と言うか、全員同じ方向にいるの?

これって、逃げ放題なんだけど。

後ろを振り向くと、緊張した面持ちの6人の姿が見えた。

剣は鞘から抜いていて、こちらを向いている。

なのに、怖くない。

殺気よりも、怖がっているのが気配から伝わってくる。

やはり、おかしい。


「そんな腰が引けた構えで何が出来るんだ?」


お父さんの言葉に、6人が震える。

あれ?

皆、若い。

まだ十代ぐらい?

門番には、ある程度経験を積んだ人がなる事が常識だけど、ここでは違うの?

お父さんもそれに気付いたのか、不思議そうに6人を見ている。


おかしい。

この6人を見ている限り、敵だと思えない。

もしかして、誰かに脅されているとか?

そう言えば、若い冒険者を契約書で縛っていたよね。


「契約書で縛られてます?」


私の言葉に、泣きそうな表情になる6人。

どうやら冒険者ギルドだけでなく自警団でも横行しているらしい。

お父さんがため息を吐き、片手をあげる。

少し離れたところにあったジナルさんの気配が、近付いてくる。

姿を現すと、6人の表情が強張った。


「あ~、大丈夫だ。事情は理解したから」


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― 新着の感想 ―
若手を契約で縛る…クソみたいな場所だな。
[気になる点] >「契約書で縛れてます?」 縛れて……では、この発言者が“ちゃんと(縛るのに使った道具が)機能しているか”を訊ねている事になります。 えーと……言い直すと、縛る側の者が使う言葉です。…
[一言] よければこれまでの誤字報告も確認して頂けると…
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