534話 皆、外れ
「俺の事よりこの村の事だ。両ギルドが関係していると言ったが、どんな状況なんだ?」
お父さんの言葉にジナルさんとフィーシェさんが呆れた表情をした。
「あ~、ギルマスの地位を巡って争っているのは話したよな?」
ジナルさんの言葉に頷く。
そこまでは知っている。
「争っているのは3人だ。この3人なんだが、人を束ねる力が圧倒的に無い」
ジナルさんの言葉にお父さんが固まる。
そして不審そうな表情でジナルさんを見るが、ジナルさんはその視線を受けて頷く。
「それはまた……最悪だな」
そうだよね。
人を束ねる力が無いなんて、それはトップとして致命的ではないだろうか?
トップに必要なのは、人を動かす力だと聞いた。
様々な意見を持っている人を束ね、1つの方向に向かわせる。
これがトップとして絶対に必要だと聞いた。
「そのせいで、冒険者たちも1人に絞れなかったんだ」
それは無理だろう。
誰を選んでも外れだ。
「で、3人が焦ってそれぞれが馬鹿な行動をした。お金をばらまいたり、弱みを握って脅したり」
ジナルさんの言葉に、お父さんが苦笑した。
「それはまた、安直な行動だな」
「そうなんだよ。話を聞いた時はあまりの馬鹿さ加減に頭痛がした」
それはそうだ。
もしもの時は、命を預ける存在なんだからお金や脅しで選ぶわけがない。
動く人も中にはいるだろうけど、全員じゃない。
「その事実が発覚した時に冒険者ギルドが動けばよかったんだが、金を貰って動かなかったみたいだ。商業ギルドは静観した。と言うか、おそらく商業ギルドの方も金が動くと分かって黙認したんだろうな」
お金に弱いと聞いていたけど、弱すぎる。
少し先の未来を見たら、それでは駄目だと分かるだろうに。
「前のギルマスは厳しくその辺りを改革していたんだが、なかなか腐った連中はいなくならないからなぁ」
前のギルマスさんだけじゃ無理があるよね。
そう言えば、前のギルマスさんは洞窟の崩落で亡くなったんだっけ?
……事故なのかな?
「おい。まさか」
お父さんの表情が険しくなる。
それを見たジナルさんが頷く。
「前のギルマスは殺されている。殺したのは、ギルマスの補佐をしていた男だ。貴族は、たまたま殺人現場を目撃して、金を貰って黙っている。もう1つ追加すると、両ギルドの上の奴らはそれを知っている。知っていて事故として処理した。今の両ギルドの状態は、腑抜け状態だな」
「ぷ~」
「てりゅ~」
ジナルさんの言葉に、ソラとフレムが不満そうな声を出す。
2匹を見ると、なんだか怒っている。
それに声は出していないが、シエルもソルもソラたちと同じように怒っているように見える。
「どうしたんだろう?」
先ほどから、いつもとちょっと違うような気がする。
「もしかして知っているのか?」
フィーシェさんが、ソラたちの態度を見て驚いている。
「何をですか?」
「殺されたギルマスはテイマーでもあったんだよ」
「えっ! テイマー?」
思いがけない言葉に驚く。
「そうだ。彼は冒険者としてより、テイマーとしてのほうが有名だったんだ」
そうなんだ。
テイマーだったんだ。
だからソラたちは怒っているのか。
……ギルマスがテイマーだといつ知ったのだろう?
「アイビー、どうした?」
「いえ、なんでもないです」
ソラたちと一緒にいると、時々不思議な事があるよね。
ソラが初めての場所で良い寝場所を見つけるのもそうだし。
「それで、どうするんだ?」
お父さんの言葉に、ジナルさんが意地の悪い表情を見せた。
「もちろん、罰を受けてもらう。罪を犯した者たちだけではなく、知っていて放置した奴らもな」
それはきっといい事なんだろうけど、相当な数になるのではないかな?
それに関わった人たちが全員罰を受けたら、この村の存続が怪しいのでは?
「大丈夫なのか?」
「あぁ、俺たちの仲間が数日後にこの村に着くらしい」
ジナルさんたちの仲間の人?
それなら大丈夫なのかな。
「ジナルたちは動くのか?」
お父さんの言葉にジナルさんとフィーシェさんが首を横に振る。
「いや、俺たちは仲間が来る前にこの村を出発する」
「えっ? そうなんですか?」
仲間の人と話とかしないのかな?
「あいつと俺達が仲間だと知られたら厄介だからな」
仲間なのに、知られては駄目なのか。
「大変なんですね」
私の言葉にフィーシェさんが苦笑する。
「彼らは今、王子の調査員をしているんだ。だから、一緒の所を見られるのは極力避けたいんだ」
なるほど。
それなら仲間の方が着く前に出発する必要がある。
「王子の調査員が来て、問題ないのか?」
お父さんの言葉に首を傾げる。
「王子の調査員は裏の仕事なんだ。今回は、王都の冒険者ギルドから村の問題解決のために派遣されているから大丈夫だ。表の仕事ってやつだな」
表の仕事が王都の冒険者ギルドからの派遣で、裏では王子の調査員。
でも、ジナルさんたちの仲間で……ややこしいな。
「裏……なにも聞かなかった事にするからな」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
「ちょっと話し過ぎたな。悪い」
私も聞かなかった事にしよう。
とりあえず、ジナルさん達の仕事はややこしいという事でいいや。
「そうだ。心配していた親子の噂なんだが」
ジナルさんの言葉にお父さんが、視線を向ける。
そうだった。
お姉ちゃんを助けたのが親子連れだという噂があったんだよね。
あれは、どうなったんだろう。
「『犯罪者と親子は無関係だったらしい』と言う噂になっていた」
犯罪者?
それってお姉ちゃんの事?
「ん? 犯罪者に変えたのか?」
変えた?
お父さんの言葉に首を傾げる。
「あぁ、女性や女の子と言う噂があったのを犯罪者に纏めるように動いておいた。上手くいったみたいだな。これで女性と言うだけで注目されることは無いはずだ」
そっか。
人に注目される事を減らすためか。
本当に噂を自由自在に変えるんだね。
すごいな。
「ガリットから連絡が来ていた。順調に進んでいるから心配無用だと。あと、花嫁を届けた後にオール町へ行くが、その途中で盗賊に襲われる事にしたそうだ」
ん?
なんの話?
盗賊?
「あれ? ドルイドか、フィーシェに聞いてないか?」
私の様子を見たジナルさんが、お父さんを見て私を見る。
それに首を横に振る。
なんの話なのかさっぱり。
「俺? ジナルが自分で言うと言っていただろう?」
フィーシェさんがジナルさんの言葉に反論する。
それにお父さんも頷いている。
「あ~そうだっけ?」
「なんですか? それに盗賊って」
お姉ちゃんを襲わせるの?
「本当に襲われる訳じゃないから安心しろ」
ジナルさんの言葉に頷く。
「マリャと言う人物は、死んだ事にした方がいいと判断したんだ。生きているのか死んでいるのか分からない状態だと、いつまでも追っ手が減らない。だから死んだ事にして……えっと、死体も用意する予定だ。で、モンズさんに協力してもらって新しい人物になる。不安を完全に無くすことは出来ないが、なるべく減らすことは出来るから」
なるほど。
「あっ、だからお姉ちゃんが出発する時に、マリャと本名で呼んだんですね」
本当の名前で呼んでいたから、不思議だったんだよね。
気付いたのは、お姉ちゃんが出発した後だったけど。
「村から出てないと、盗賊に襲われた時に疑われるからな。それとマリャを助けているのは上位冒険者だという噂もあった。それを払拭するために、本名を呼ぶという失敗をわざとした。おおむね思い通りに事が進んでいるようだ」
「でも、追っ手は大丈夫ですか?」
村から出たとバレたらすぐに、追っ手が追いついてきそう。
お姉ちゃんたちは馬車移動だから、ゆっくりだろうし。
「ガリットより少し前に、女性の冒険者たちが出発している。他にも、ちょっと小細工をしてきた。ある程度は誤魔化せるだろう。それに、噂も流しておいたからしっかり時間稼ぎができるはずだ」
ジナルさんの言葉にホッとする。
良かった。
それにしても、村の事を知るために噂を調べたりしたけど、作られた噂もあるんだよね。
どうやって見極めるんだろう。
「お父さん、作られた噂と本当の噂はどうやって見極めるの?」
「……勘だな」
「そうだな。勘だな」
お父さんに続きジナルさんも同じ事を言う。
フィーシェさんを見ると、頷いている。
「勘か~」




