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530話 小物ですか?

オカンケ村に入ったけど……なんだろう。


「お父さん。なんだか、村全体が暗い雰囲気だね」


小声でお父さんに話しかけると、小さく頷いたのが分かった。

サーペントさんたちとしばし別れて、オカンケ村にお邪魔したのだけど、村民の表情がどことなく暗い。

大通りを歩いているのに、元気な声も聞こえてこない。


「あまり長居はしたくないな」


お父さんの言葉に頷くと前を見る。

前を歩くジナルさんの表情が険しくなっている。

いつもの軽い会話もない。


「前に来た時と、全然違うな」


フィーシェさんが、ため息を吐きながら周りを見る。

その表情は、残念そうだ。

もしかしたら、2人が予想していた以上の問題が起こっているのかもしれない。


「そうだな。予定を変更して宿はあそこに行こう」


「あぁ、その方がいいだろう」


ジナルさんたちの会話に首を傾げる。

予定していた宿とは何だろう?

特に宿について話した記憶は無いんだけど。

首を傾げていると、フィーシェさんが後ろを振り返る。


「ドルイド、アイビー。知り合いの宿に行こうと思うが問題ないか?」


ジナルさんたちの紹介なら問題ないだろうから頷く。


「あぁ。大丈夫だ。宿は『あすろ』か? 確かこの村にもあったよな」


あすろ?

あれ?

ハタハ村で泊まってた宿の名前だよね?


「「えっ!」」


ん?

お父さんの言葉に、ジナルさんとフィーシェさんが驚いた声を出す。

それを不思議に思い、2人を交互に見る。

2人の様子から、本当に驚いているのが分かった。

でも、いったい何に驚いたんだろう?

宿のあすろに何かあるのかな?

調理場を自由に借りられて、いい宿だったけど。

お風呂も最高だった。


「違ったか?」


何が?

お父さんを見るが、いつもと変わった様子は無い。

それに比べて、ジナルさんたちがちょっと戸惑っているような……気のせいかな?

ジナルさんたちの表情は、読みにくいんだよね。


「知ってたのか?」


「いや、詳しくは知らない。ただ、元々あすろには何か感じるものがあった。ハタハ村のあすろに泊まった時に、聞こえてきた話で納得した感じだな」


お父さんの言葉に、ちょっと怒った雰囲気のジナルさん。

フィーシェさんも、どことなく怖い。


「2人とも、アイビーが怖がっている」


お父さんが少しきつめに声を出すと、ジナルさんたちの雰囲気が消える。


「悪い。えっと、後で話すよ」


ジナルさんの言葉に頷く。

でも、話してもらう必要はあるのだろうか?

隠しておきたい事なんだよね?


「あの、別に話す必要はないですよ?」


何も知らなければ、なんて事は無いと思う。


「ん~、アイビーのこれまでの事を考えると、知っていてもいいかもしれないな」


私のこれまでの事?

これまで……厄介な問題に巻き込まれてきた事かな?

不可抗力なんだけどな。


「私のせいじゃないですよ?」


たまたま色々な事に巻き込まれるだけで。


「アイビーのせいではないが、これからだって色々ありそうだろう?」


それは……考えたくない事なんだけどな。

でも、これまでの事を考えると逃げられない何かに絡めとられている気がする。


「だから、知っていた方がいいと思う。ただ、外で話す事ではないから。宿へ行こう」


ジナルさんが知っておいた方がいいと思うなら、しっかり聞いておこう。

きっと、何か問題が起きた時に役立つ事だと思うから。


「分かりました」


お父さんを見ると、ちょっと満足そうな表情をしている。

もしかして、ジナルさんたちが話す方向へ持っていったんだろうか?

視線が合うと、お父さんは肩を竦めた。

それに苦笑を浮かべる。

やっぱり誘導したみたい。

たぶん、お父さんも知っておいた方がいいと考えたんだろう。

でも、どうしてお父さんが教えてくれなかったんだろう?


「あそこだ」


視線を向けると、古い建物が見えた。


「ちょっと個性的な店主だが、野菜巻きが美味いんだ」


野菜巻き?

えっと、肉を葉野菜で巻いて焼いて味付けした焼き料理だよね。

それは楽しみ。


宿に入ると、冒険者の姿が4名。

険しい表情で、年配の男性と話している。

年配の男性は、白い髪に口髭が印象的だ。


「あの白いのが店主だ」


ジナルさんの言い方に、ちょっと笑みがこぼれる。

白いのって、言い方が雑過ぎる。

それにしても、冒険者の4人の表情は険しいのに店主さんは穏やかな表情だ。

なんともちぐはぐな見た目だな。


「おい」


冒険者の1人が、宿に入ってきた私たちに気付いて仲間に知らせた。

何だか、気まずい。


「話は分かった。ただ、知らないものは知らないですからね」


店主さんの言葉に、冒険者の1人がいきり立つ。


「嘘を吐くな!」


怒ったのか、店主さんの服の首元を掴む。

すぐに他の冒険者が、私たちを気にしながら怒っている冒険者を落ち着かせようとする。

なぜか怒っている冒険者に睨まれた。

ものすごく態度の悪い、冒険者だ。


「客が逃げてしまうので、そろそろ話を終わらせてもらえるかな?」


店主さんが、私たちに会釈する。

それに、「ちっ」と舌打ちをする冒険者たち。

落ち着かせようとしている冒険者は1人だけで、後の3人は皆怒っているようだ。


「後で、また来る」


「何度来られても、答えは一緒ですよ。私は、知りません」


冒険者たちは、店主さんを睨みつけながら出ていった。

しかも出ていく時に、私たちまで睨んでいった。


「……?」


おかしいな、睨まれたのに全く怖いと思わなかった。

なんでだろう?

お父さんの睨みは、他の人に向いていてもぞくりとして怖いのに。

ジナルさんもフィーシェさんも怖いと感じたよね。

知っている人の中で一番怖いと感じたのは……ボロルダさんかな?

いや、セイゼルクさんも怖かった。

そう言えば、シファルさんとラットルアさん、ヴェリヴェラ副隊長は笑みが恐ろしかった。

先ほどの冒険者の睨みを思い出す。

うん、やっぱり全く怖くない。

何というか、弱いものが虚勢を張っているような……。

あぁ、彼らはあれだ。


「小物だ! だから睨まれても怖くないのか。なるほど」


「「「「……」」」」


あれ?


「ぷっ、アハハハハ」


ジナルさんが噴き出し、お腹を抱えて笑いだした。

まさか、声に出てた?

とっさに口を手で押えるけど、遅いよね。


「さすが、的確な判断だな」


フィーシェさんとお父さんが楽しそうに頷いている。

店主さんも、下を向いているため顔は見えないが肩が揺れていた。


「えっと、宿泊です」


雰囲気を変えたくて、店主さんに声を掛ける。

店主さんは、一度深呼吸すると私を見た。


「いらっしゃい。悪かったね。変なところを見せてしまって」


そう言って穏やかに笑みを見せる店主さん。

あれ?

目の前の店主さんを見る。

人の好さそうな笑みを見せているんだけど……何か違和感を覚える。

感じる印象が、目の前の笑みと合ってないような気がする。

この感じ、知っている人と似ているような……誰だっけ?

あっ、分かった。

師匠さんだ!


「アイビー、気を付けろよ。この人、性格に難ありだから」


やっぱり!

いや、師匠さんの性格に難があるわけではないんだけど。

ジナルさんの言葉に、店主さんが目を見開く。

そしてすぐに、楽しそうな表情に変えてジナルさんを見た。


「珍しいな。ほぼ素で応対しているじゃないか。つまり隠さなくていい奴か?」


うわっ、笑みの種類が変わった。

一気に、掴みどころがない印象になったな。

こっちが素に近いのかな?


「そう。まだ話してないが」


ジナルさんの言葉に店主さんは頷くと、カウンターに鍵を2個置いた。


「いつもの部屋と、その隣だ。ジナルたちは、後で話があるから降りてきてくれ」


店主さんの言葉にジナルさんとフィーシェさんが頷くと、鍵を持って階段へ向かう。

その後をついていきながら店主さんを振り返ると、手を振ってくれていた。

面白そうな店主さんだな。


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― 新着の感想 ―
小物って言ったのは、ちゃんと出ていったあとだよね?
[一言] アイビー自体が強くないから小物だ!って叫んで大丈夫なのか心配になる。 シエルいるけど出せないし。
[一言] >怖いとよね 誤字だとわかってますが、何か可愛い(笑)
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