528話 どこへ?
サーペントさんたちに乗り、森を駆け抜ける。
人の歩く速度の数倍? 数十倍?
よく分からないけど、とにかく速い。
「ジナル、1つ気になったんだが」
「なんだ?」
お父さんが神妙な表情でジナルさんに視線を向ける。
その表情が気になったので、お父さんを見る。
「サーペントたちに、何処へ行くか言ったか?」
その言葉に、首を傾げる。
それは流石に言っているだろう。
だって、迷いなくサーペントさんたちは進んでいるんだし。
「……いや」
「「えっ?」」
フィーシェさんと私の言葉が重なる。
えっ、だったら私たちは何処へ向かっているんだろう?
乗らせてもらっているサーペントさんを見る。
チラリとこちらを窺っているサーペントさん。
先ほどより、少し速度が遅くなっている気がする。
「サーペントさんたちも、聞くの忘れてたの?」
私の言葉に、お尻の下からビクッと体が動いたのが伝わってくる。
「とりあえず、止まろうか」
フィーシェさんが苦笑して言うと、サーペントさんたちがゆっくりと止まった。
「ところで、何処へ行く予定だったっけ?」
ジナルさんの言葉に、フィーシェさんの眉間に深い皺が刻まれる。
「オカンケ村だ! 届ける物があるだろうが!」
そうそう。
私もすっかり忘れていたけど、オカンケ村だった。
しかも仕事だった。
「あ~、そうだったな。悪い」
ジナルさんが、首の後ろを掻きながらフィーシェさんに謝る。
私もちょっと後ろめたい。
「ところで、サーペントたちは何処へ向かっていたんだ?」
フィーシェさんの言葉に、お父さんもジナルさんも首を傾げる。
そして3人が私を見たので、慌てて首を横に振る。
何も言ってないし、確認もしていない。
「迷いなく進んでいたよな?」
お父さんの言葉に、全員が頷く。
サーペントさんたちを見ると、「どうするの?」と言うようにこちらを見ている。
「オカンケ村へ行ってもらえるか?」
ジナルさんが、乗っているサーペントさんの頭を撫でる。
サーペントさんたちは数回頷くと、くるりと行き先を変えたのか、来た道を戻りだした。
本当に、何処へ向かっていたんだろう。
「戻ってるな」
「あぁ、確実に戻っているな」
お父さんの言葉にジナルさんが頷く。
「オカンイ村へ向かっていたのか?」
お父さんの言葉に、サーペントさんは後ろチラリと振り返り首を横に振る。
違うんだ。
「だったら、オカンコ村? 違う。オカンノ村? これも違うんだ。あとは王都に隣接する町だな」
お父さんが王都に隣接する町と言った瞬間、サーペントさんたちの体がブルリと揺れた。
「うわっ」
サーペントさんの上で気を抜いて座っていたので、不意の動きに体がぐらりと揺れる。
「アイビー!」
お父さんの慌てた声。
それに片手をあげて答える。
「大丈夫。ちょっと揺れただけ」
サーペントさんの魔法で落ちる事は無いのに、大げさに騒いでしまった。
体がちょっと揺れただけだったのに……。
「気を抜き過ぎないようにな」
お父さんの言葉に苦笑いする。
バレてる。
「はい。気を付けます」
私の返事に小さく笑うお父さん。
ジナルさんたちにも、笑われてしまった。
「あれ? フィーシェ、あの花と岩。見た事ないか?」
ジナルさんの指す方を見ると、白色と黄色の花をつけている木とその木に寄り掛かっている大きな岩が見えた。
「あっ、知ってるな。あれは、オカンケ村に行く時に見る印だ。あれが見えたら、あと30分ぐらいだから、今ならあっという間だな」
フィーシェさんの言葉を聞きながら、白色と黄色の花を見ながら隣を通り過ぎる。
「1本の木に違う色の花が咲くのを初めて見ました」
後ろを振り返り、花を見る。
「近くで見てみるか?」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんたちの速度がぐっと落ちる。
「いえ、不思議に思っただけなので。サーペントさん、このまま行こう」
私の言葉で、速度が上がるのがわかる。
「オカンケ村の周辺だけに咲く花なんだよ、あれ」
そうなんだ。
なら、また見られるのかな?
「なぜ色の違う花が咲くのかは……そういう種類という事らしい」
そういう種類?
「分からない時に使う常套句だな」
お父さんの言葉に、つまり原因は不明なんだなと気付く。
「あの木を他の所で育てても、花は白色だけしか咲かないそうだぞ」
フィーシェさんの言葉に、驚いて彼を見ると頷かれた。
「土もここのを持っていって試したそうだが、やはり白色の花だけだったと聞いたよ」
「不思議ですね」
もう一度後ろを振り返るが、既に木も見えなくなっていた。
「アイビー、そこにもあるぞ」
ジナルさんの言葉に、視線を向けると確かに白色と黄色の花が咲いている木があった。
周りを見ると、ポツン、ポツンと同じ木があるのが見えた。
どの木も、白色と黄色の花を咲かせている。
普通に咲いているのに、他の所では咲かない。
本当に不思議だな。
「ここまでみたいだな」
サーペントさんたちが止まったので降りると、顔の前へ移動して鼻の傍を撫でる。
「ありがとう。あのね、私たちをどこかへ連れて行きたかったの?」
お父さんが訊いた時は、違うと反応したけど。
最後の王都の隣町が出た時、ちょっと気になる反応をした。
ほんの少し、違う反応。
それが気になっていた。
サーペントさんはじっと私を見ると、少し視線をどこかへ向ける。
その様子をじっと見ていると、隣にお父さんが来た。
「どうした?」
「どこかへ、連れて行きたかったのか訊いてたの」
お父さんもサーペントさんを見る。
すっと視線を私に戻したサーペントさんは、1回頷く。
やはり、どこかへ連れて行きたかったみたいだ。
「オカンケ村の用事を済ませてからでも大丈夫? すぐに終わる……のかな?」
持ってきたマジックアイテムを渡して、受け取った相手が文句を言いだすことは分かっている。
それから商業ギルドが、マジックアイテムを調べて……だったかな?
それってどれくらいで終わるんだろう。
待っている時間は村にいなくていいのかな?
それだったら、その間にサーペントさんに案内してもらう事も出来るんだけど。
ん?
そもそもマジックアイテムの受け渡しに、私は必要ないよね?
だったら今から、別行動をしても問題ないのではないかな?
「その場所へは、私だけでも大丈夫?」
「アイビーだけというのは駄目だぞ。俺も付いて行く。ただ、2人で行くと言ったら、ジナル達に猛抗議を受けそうだけどな」
ジナルさん達なら、ありえそうだな。
「お父さん、仕事は大丈夫?」
一緒に来てくれるのは嬉しいけど。
「仕事は、ジナルたちが受けたモノだ。俺たちは補助みたいなものだから、村に着いたら仕事は終了でいいだろう」
そうなのか。
それなら、お父さんと私がサーペントさんたちと出かけても問題ないかな。
抗議は……どうしよう。
「却下。俺たちも気になるから一緒に行くぞ」
ジナルさんにジト目で見られてしまった。
まぁ、気になるよね。
サーペントさんたちが連れて行きたい場所なんて、ワクワクする。
「とっとと終わらせるには……ドルイド、ちょっと手伝いを頼む」
お父さんがジナルさんの言葉にため息を吐く。
不思議に思ってお父さんを見ると、肩を竦められた。
「片腕の上位冒険者なんていないからな。俺がマジックアイテムを持っていたら、相手は思いっきり責めるだろうな。ここぞとばかりに」
なるほど。
そのあとジナルさんたちが登場するのか。
「注目されればされるほど、今回の仕事は役に立つ。冒険者ギルドの奴らが、口を挟めなくなるからな」
あれ?
この仕事は、商業ギルドからじゃなかったっけ?




