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526話 むかし?

「随分、物騒な日記だな」


お父さんが、嫌そうに紙だった物を見る。

フィーシェさんが肩を竦める。


「そうだな。でも、おかしいよな」


「あぁ。いったい、いつの話なんだ?」


フィーシェさんの言葉に頷いたジナルさんが、部屋の中を見回す。


「殺風景な部屋だな」


ジナルさんの言葉に部屋の中を見回す。

扉の正面にある机と、扉の隣にある棚。

それ以外は何もない空間。


「棚にあるのは全滅だな」


ジナルさんが残念そうに、棚に残っていた紙の残骸に触れる。

触れた瞬間、ボロボロだった紙はスーッと消えていく。


「消えた?」


戸惑ったジナルさんの声に、フィーシェさんが慌ててジナルさんの腕を掴む。


「怪我は?」


「えっ? あぁ、大丈夫だ」


ジナルさんの返答に、ホッとした表情のフィーシェさん。


「不用意に触るなよ」


「悪い。でも、まさか消えるとは思わなかった」


フィーシェさんに謝るジナルさんが、ボロボロの紙が消えた場所を見る。


「そうだよな。なんで、消えたんだ?」


フィーシェさんが棚に指を滑らせるが、首を横に振った。


「何も残っていない」


「気持ちの悪い場所だな」


フィーシェさんの言葉を聞いてお父さんが、嫌そうな表情をした。

確かに少し不気味だな。

この教会の中は時間の経過がおかしい。

外から見た時、教会の窓の一部分が壊れていたし、扉も壊れていた。

それなのに中に入ると、椅子は一切壊れた箇所もなく今もまだ使用できるほどしっかりしていた。

あの巨大な絵は、色が黄ばむ事も無く鮮やかで完成してからほとんど時間が経っていないように見える。

でも教会の中にあるこの部屋にあった日記はボロボロになってしまった。

まだよく分からないが、机も棚もほんの少し壊れたところがある程度で、直せば使えるだろう。

同じ場所にあるのに、それぞれの時間の進み方がまるで異なるように感じる。


「この村から出よう」


ジナルさんの言葉にお父さんが頷く。


部屋から出てもう一度絵を見る。


「アイビー、どうした? 気になるのか?」


お父さんの言葉に頷く。

あの日記の内容を思い出す。

あちらの教会、それに魔法陣の使い手。


「あのローブを着ている人たちが、魔法陣の使い手でしょうか?」


私の言葉にジナルさんたちも絵を見る。

脅されているように見えるローブを着た人たち。

よく見れば、彼らのローブから鎖に見える物が出ている。

細かく描かれているが、小さすぎてよく分からない。

でも、そう見える。


「左右に描かれた黒い影の人が、あの日記にあった奴らなのかな?」


魔法陣さえなければ。

命を削るから、そう言ったのかな?

覚悟を決めなければ。

でも、日記を書いた人は魔法陣を使う事で命を削る事より、間に合った事を喜んでいた。

覚悟は既にしている様に感じる。

なら、あの覚悟は……自分の命よりもっと大切なモノ?


「この絵の争いが実際にあった事だとしたら、きっと何か記録が残っているはずだ。だが、そんな記録は残っていないし、どの村や町にもこれを仄めかす伝説は聞いた事がない。ならこの絵が想像の産物だとして、そんな絵をなぜ教会がこの目立つ場所に置いた? 教会のこの場所はとても重要だ。この絵が事実をもとに描かれていると考えた方がしっくりくる。まぁ、記録はないが」


フィーシェさんの言う通りだよね。

記録には無いけど、教会のこの場所にある以上この絵はとても重要な事が描かれていると思っていい。

歴史の記録に残されていない争い。

王家に不都合があって記録に残さなかったとしても、生き残った人が何かしら残すはず。

もし残っていたら、ジナルさんたちが気付くだろうし。

分からないな。


教会を見回す。

お父さんが椅子に座っている。

本当に座っても壊れないんだ。

すっと視線を、光が入ってきている窓に向ける。

その窓は、壊れている。

この教会は、時間の流れがおかしい。

時間の流れ?

そうだ、この村が私たちが想像したよりもっと古い村だったら?

人の通った形跡が、1つも見つけられなかった理由になる。

でも、古いってどれくらいだろう?

絵を見る。

何も記録が残っていない。

記録は国が管理しているんだよね。

なら、もっと、もっとむかし……、


「国が出来る前の出来事だったら?」


「「えっ?」」


私の言葉にジナルさんたちが声をあげる。

それに視線を向ける。


「この国が出来る前の出来事だったら、記録には残りませんよね」


あっ、でも人がいたらきっと何か残る。

伝説も残っていない……もしかして、人は一度滅びかけた?

だから、魔法陣が今に受け継がれなかった。

日記の中の「魔法陣さえなければ」が、頭をかすめる。


「もしかして魔法陣は使い手たちによって、消された?」


あの日記からは魔法陣に対して憎しみを感じた。


「すごい事を考えるな」


ジナルさんの言葉に、体がびくりと震える。


「あっ、悪い。驚かせたか?」


「いえ、ちょっと集中し過ぎたみたいです」


不意に耳に届いた声に体が震えると、ジナルさんが申し訳なさそうな表情を見せた。

それに笑って首を横に振る。


「国が出来る前か……そんな事、思いつきもしなかった」


「だが、それなら説明がつくな」


ジナルさんの言葉にフィーシェさんが私を見て言う。

私が頷くと、肩をポンと軽く叩かれた。

それに首を傾げる。


「一般的な考えじゃないから、俺たちの前以外では口にしない事」


そうなんだ。


「分かりました」


「でも、国が出来る前か……あり得るかもしれないな。アイビー、『魔法陣は使い手たちによって、消された』と言ったが、どうしてそう思ったんだ?」


フィーシェさんが、私をじっと見つめる。

それを見返す。

突拍子もない考えだけど、大丈夫かな?

まぁ、言うだけだからね。


「魔法陣が受け継がれなかったから」


「なるほど」


ジナルさんが頷く。


「日記を書いた人が使い手だという事と、魔法陣を憎んでいるのがわかりました。あと、使い手たちが集まって何かをしようとしている事も、それには覚悟が必要な事も」


これだけだから、正解とは言えないけど。


「『あれさえなければ』と書いていたので、魔法陣をこの世界から消そうとしたのではないかなって。少し考えただけです」


「確かに、日記からは魔法陣を憎んでいる印象を受けたな」


絵に描かれているローブを着た人たちを見る。


「あの絵のローブを着た人たちが、使い手たちではないでしょうか? 脅されて、足枷もされているように見えるんです」


「あぁ、これな」


ジナルさんが絵の一部を触る。

それはローブから見える銀色の何か。


「魔法陣の使い手だから、強制的に参加させられた。しかも使ったら使っただけ、自分の死が近くなる。魔法陣を恨んでもしょうがない状況だな」


不思議なのは、どうして魔法陣の使い手になったのか。

争いに強制的に参加をさせられるなら、使い手にならなければいい。

なのに、使い手になった。


バタン。


「なんの音だ?」


不意に聞こえた何かが倒れる音。

ジナルさんが慌てて教会を出ていくので後に続く。

ソラたちを探すと、付いて来ているのが見えた。


「ソラ、フレム、ソル、急いで」


シエルは大丈夫だし、トロンはフィーシェさんが持っているカゴの中だ。

問題ない。


「崩れている」


フィーシェさんの視線を追うと、家が1軒、完全に崩れ落ちていた。


「危険だな。ここから出よう」


フィーシェさんの言葉にジナルさんが、近くにいたソルをさっと抱き上げる。

お父さんがソラとフレムを抱き上げると、門の方へ走る。


「アイビー」


「大丈夫、付いて行く」


走って門に辿り着くと、後ろからバタン、バタンと音が聞こえた。

門を抜けて、森の中を走る。

ある程度離れた場所で立ち止まり振り返ると、門も崩れ落ちていた。


「急だな」


お父さんの言葉にジナルさんがため息を吐く。


「俺たちが入った事で、何かが狂ったのかもな」


「ぷっぷぷ~」


ソラを見るとお父さんの腕の中でもがいている。


「お父さん、力が強いのかも」


「ん? あぁ、悪い」


お父さんが腕の力を緩めると、ぴょんと飛び降りるソラ。

そして村があった方を見つめる。


「ソラ?」


「ぷ~?」


急に崩れ落ちたから、不思議なのかな?


ローブがロープになっていました。

すみません。

教えてくれた方、修正を入れてくれた方、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
何かに気づくと崩壊するようになってたのかな?
[一言] 偶然とは思えないアイビーちゃんの旅路、アイビーちゃんに伝わったと判断して消えたのでしょうか。ソラとソルは何かを知っているでしょうか。謎か謎を呼び、もしかしたらと、わくわくしますね。
[一言] 使い手たちは魔法陣を後世に残らないように消した…けど、教会が何らかの方法でそれを復活させ利用しようとしていると言ったところでしょうか。 どっちにしろ碌な目的じゃなさそうですが…。
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