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524話 隠されていた村

門をあけると、やはり想像通り人のいる気配は無かった。

蔓が絡まっていた門を出入りできないので当然と言えば当然なのだけど、ちょっと残念に思ってしまう。


「隠れ村にしては、人が多かったのか?」


ジナルさんの視線を追うと、並んでいる家があった。

門から続く道路の左右に並んでいて、右側に24軒、左側に26軒。


「100人以上はいたんですかね?」


並んでいる家の大きさは、一人暮らしにしては大きく感じる。

夫婦と子供がいて、ちょうどいいぐらいかな?

まぁ、家の中を確認しないとなんとも言えないけれど。


「家の大きさだけでは分からないが、100人以上いた可能性があるな。でも、そうだとしたらかなり珍しい」


「珍しい?」


「あぁ、隠れ村だからな。奥も見てみよう」


ジナルさんの言葉に首を傾げながら、ついて行く。

隠れ村だから人が多いと珍しい?


「あっ! あっちにも家がありますよ」


家と家の間から、小さめの家を7軒ほど見つけることができた。


「そうだな。隠れ村にしては家が多いな」


「この規模で、この村は隠れられていたのか?」


ジナルさんとフィーシェさんが首を傾げる。

やはり人が多いのが気になるみたいだけど、どうしてだろう?


「隠れ村だと、だいたい人の数はどれくらいなんですか?」


私の質問に少し考えたフィーシェさん。


「小さいところだと10人ぐらい、大きい所でも50人ぐらいかな。100人にもなると隠れるのが難しくなるから普通はあり得ないんだが」


あっ、それはそうか。

人が多く集まれば、食料はそれだけ必要になる。

村の中だけで補うのが難しくなれば、外から手に入れる必要が出る。

そうなると、隠れていられなくなるよね。

あれ?

視線を上に向けて周りを見る。

先ほどまでいた崖が見えた。


「あそこから見た家の数と、実際に目の前にある家の数が何故合わないんだろう?」


「はい。もっと少なかったですよね?」


ジナルさんの言葉に頷く。

崖の上から見た時、家の数は今の半分以下に見えた。


「おそらく幻影魔法だろう」


ジナルさんの言葉に視線を向ける。

幻影?

幻!?


「ここに来るまでに、何かを通り抜ける感覚を感じなかったか?」


「はい。見えない壁を通り抜けたような」


私の言葉にジナルさんが、頭をぐしゃっと撫でてくる。

それにちょっと驚いてジナルさんを見ると、楽しそうに笑っているのに気付く。


「さすが、しっかり周りを把握しているな」


いや、あんなはっきりしていたら気付くと思うけど。


「気付かない奴も多いんだ」


えっ、そうなの?

あんなに違和感があるのに?


「あれが幻影魔法の境界線だ。おそらく幻影魔法で完全に姿を隠していたんだろう。時間がたって、魔法に綻びが出て姿を少し見せたんだと思う」


ジナルさんの言葉に頷くフィーシェさんとお父さん。

でも、その表情はかなり険しい。

村全体を隠すって大変だよね。

しかもこの村、そんなに小さくないし。


「幻影魔法は誰でも使える物ですか?」


私の言葉にジナルさんたちが首を横に振る。


「おそらくマジックアイテムを使っているんだろう。だが、ここまで大規模な幻影魔法を張れるマジックアイテムは見た事はないが」


「あれは教会だな」


お父さんの言葉に視線を向けると、この村で一番大きな建物が目に入った。

近くによると、なんとも言えない気分になる。

そう言えば、教会に近付くのは5歳以来だろうか?

近くを通り過ぎる事はあったけど。


建物は周りの家よりしっかりした作りなのか、一番崩壊していない。

それでも時間がある程度経過しているのだろう。

窓が壊れているし、両開き扉の右側が傾いて今にも落ちそうだ。


「あれ?」


何だろう、何か違和感を覚える。

教会の扉をじっと見つめる。

何か……足りない?


「花が描かれていないな」


「あっ。そうだ、花!」


お父さんの言葉に、足りないと感じていた物が何か気付いた。

どの教会の扉にも、同じ花が描かれているのに、今目の前にある教会の扉にはその花が描かれていない。


「本当だ。おかしいな」


ジナルさんの言葉にフィーシェさんが頷いている。

それを見て首を傾げる。


「花にどんな意味があるんですか?」


「『教会の始まりの話』を知っているか?」


ジナルさんの言葉に首を横に振る。


「そうか。『昔、ある街を大雨が襲った。その大雨のせいで食べる物は無くなり、多くの人が飢えていた。その町にいた貴族の男性が、私財で他の町や村から食べ物を買ってきて、町の人に配った。多くの人が亡くなったが、男性のお陰で生き延びた者も多くいた。人々からその男性は慕われたが、大雨から1年後に男性は病気により亡くなってしまう。町の人たちは男性の死を悲しみ、町を見渡せる丘に男性を埋葬した。埋葬した翌日、男性の墓の周りには白い花が咲き乱れ、風に乗って花弁が町を舞った。人々は男性が町を守ってくれると埋葬した近くに、その男性を崇めるための建物を建て、町の平和が続くように祈った』それが教会の始まりだと言われている話だ」


初めて聞いたな。


「その時咲いた花が、扉に描かれているんですね」


「あぁ、教会の中の扉にも壁にも描かれているよ」


ジナルさんの言葉に、遠くから見た教会を思い出す。

遠目だったけど、確かに花を見た。

ただ、遠すぎてどんな花だったのか思い出せない。

あれ?

そんな花を思い出さないからって、足りないと思うかな?

でも、確かに花だと思ったよね?

……そう、色々な教会の扉に花の絵が……見た事ないよね?

ないない。

教会には近付かないようにしているのに、見るわけない。

どうなってるの?

前世の記憶?

何か違うような気がする。


「入ってみるか?」


「えっ?」


ジナルさんの声が聞こえたので、視線を向けると傾いた扉を開けていた。


「崩れないか?」


フィーシェさんは建物を見て心配そうにしている。


「大丈夫だろう。しっかりしてるぞ」


ジナルさんが教会の壁をぽんぽんと叩く。

確かに、時間が経っている割にはしっかりしているように見える。


「どうする?」


「まぁ、ちょっと気になるな」


ジナルさんの言葉にフィーシェさんが肩を竦める。

お父さんも興味があるようで、開いた扉から中を見ている。


「ぷっぷぷ~」


3人が扉の前で話していると、隣をすっとソラが鳴きながら通り抜ける。

あっ、一番乗りだ。


「えっ、ソラ? 先を越された」


「てっりゅりゅ~」


「ぺふっ」


ソラに続いて、フレムとソルが教会に入っていく。

それをちょっと唖然として見送るお父さんたち。


「ははっ。先を越されたな」


ジナルさんが楽しそうに笑うと、教会の中に入っていく。

それに続くフィーシェさん。


「アイビー、どうする? 怖かったら、一緒に外で待ってようか?」


私が外で待つと言ったら、お父さんも一緒に外にいるみたい。

でも、私も気になる。


「見たいから一緒に行く」


ジナルさんが開けた扉から中に入ると、中は比較的綺麗だった。

ただ、壁に花の絵は無く代わりに扉から入った正面に大きな絵が飾られていた。


「おかしいな。どうなってるんだ?」


ジナルさんが椅子の状態を確かめながら首を傾げている。


「どうした?」


お父さんが、ジナルさんが見ている椅子を見る。


「この椅子、まだ使えそうだ」


「えっ? それは……」


お父さんがジナルさんの言葉に、椅子の状態を見る。

そして眉間に皺を寄せた。


「家の状態から見ると、椅子の状態が不気味だな」


「教会の扉には時間の経過が少し見られたが、壁は異様に綺麗なままだ」


フィーシェさんが、少し険しい表情をしている。


「この教会、内部が綺麗すぎないか? 壊れた物もないし。まるで時が止まっているみたいだ」


フィーシェさんが、気持ち悪そうに教会を見渡す。

お父さんも、鋭い視線で教会を見回している。


「埃も無いですね」


椅子をすっと触ってみるが、手が白くならない。


「本当だな。でも、時間を止めるマジックアイテムなんて聞いた事ないぞ」


ジナルさんの言葉に、お父さんたちが頷く。


「ぷっぷぷ~」


「ソラ?」


ソラの声に、どこにいるか探すと最初に見つけた絵の前にいた。

ソラの傍によると、フレムもソルも絵を見上げている。


「大きな絵だね」


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― 新着の感想 ―
[一言] 転生者の隠れ村だったりして、アイビーちゃんが思い浮かべた教会は前世の教会っぽいしね。
[一言] マイルが二位とか ワンダースリーはどんな愉快な事になっているのやら
[良い点] 他作品に無いキャラ・ストーリー・設定で、先が全く見えず、引き込まれます。 [気になる点] 初めの百話位は小説として練り込まれていて違和感なく読めたのですが、いつからか殆どプロット状態でアッ…
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