519話 王の兄? 子?
「表向きは、魔力の強い子供を作ろうとしていた」
ジナルさんの言葉に顔をしかめる。
それが、表向き?
かなり酷い内容だと思うけど。
「あの、本当のところは?」
ジナルさんとフィーシェさんを見ると、2人とも不快感をあらわにした。
「魔法陣を動かすのに、利用していたようなんだ」
「えっ!」
「魔法陣?」
お父さんが驚いた表情で2人を見る。
「そう。魔法陣だ」
ジナルさんが本当に嫌そうに言う。
まさかここで、魔法陣の話が出てくるとは思わなかった。
「これが本当なのかは、俺達は調べられなかったんだけどな。ある人が調べた結果、本当のようだ。魔力の強い者たちを集めて、王城の地下で魔法陣を動かしていたそうだ」
そんな。
あれ?
「おかしくないか? 魔力の弱い強いは魔法陣に関係ないだろう?」
お父さんの言葉に頷く。
魔法陣の真実を知らなかった時は、魔力が少ない私でも使えるのではと考えちゃったもんね。
「その当時は、今以上に魔法陣の事が分からなかったから」
なるほど。
分からないから、失敗しないように魔力が強い人を集めたのか。
「そう言えば、この王にはもう1つ話があったよな。王に就く前の」
王に就く前?
王子の時?
「それは王じゃなくて、王の兄、王太子の話だろ」
ジナルさんの言葉にフィーシェさんが首を横に振る。
「そうだっけ?」
ジナルさんは、うろ覚えなのか首を傾げている。
さっきも村の名前を、フィーシェさんに訂正されていた。
もしかしたら、ジナルさんは昔の話にあまり興味がないのかもしれないな。
「王の兄? 聞いた事が無いな? 歴代の王は、第一子が継いでいると思ったが」
お父さんもまったく知らない話のようだ。
「王がその地位に就いた時に、兄に関する記録を全て燃やして、隠蔽したらしいから。そのせいだろう」
フィーシェさんの言葉に首を傾げる。
王が記録を燃やして隠蔽したのなら、何処からこんな話を調べてくるんだろう?
本当に不思議だな。
すっごい情報網を持っているのかな?
……訊かないほうが、いいんだろうなぁ。
「どんな話なんですか?」
王家の話とか興味がある。
「王の兄の話みたいだけど、教会に行ってお化けに会った。だよな?」
ん?
お化け?
「違う。いや、合っているが違う」
どっち?
ジナルさんの簡単な説明に、フィーシェさんが呆れかえっている。
「かいつまんで説明すると『王太子が、視察中に暗殺者から命を狙われる。護衛たちが何とか王太子を逃がし王城に向かうが、途中で暗殺者に追いつかれてしまう。怪我を負った王太子を守るため護衛たちは、道を外れ森を駆ける。そして、地図から消えた村に辿り着く。そこには寂れた教会があった。王太子たちは疲れた体を少しでも休めようと教会内に足を踏み入れ、1つの部屋の中に身を潜ませた。
王太子と生き残った護衛2人の怪我は思ったよりひどく、このまま助けが来なければここが死に場所になる事を理解した3人。それを嘲笑うように、教会の扉が勢いよく開く音がした。暗殺者が来た事を理解した王太子は、諦めたように笑いだす。教会内に不気味に響く笑い声に、暗殺者は一瞬怯むが自分の役割を果たすべく、教会内を突き進む。ある部屋の前に来た時、笑い声が急に止まった。暗殺者は一瞬躊躇し、中の様子を窺う。微かに声が聞こえるが、何を言っているかまでは不明。剣を鞘から出した暗殺者は、部屋の扉に手を掛けた。その一瞬後、暗殺者は真っ赤な炎に包まれた』」
扉に触っただけで炎に包まれた?
魔法陣?
「『暗殺者が炎に包まれる少し前、王太子の前に1人の男が現れる。その姿を見た王太子は、それが人でないとすぐに判断した。なぜならその男の体が透けていたから。男は王太子に『生きたいか?』と訊ねる。王太子は目の前の男の姿をした化け物に笑う。そして『当たり前だ』と言い切る。男はその答えにニタリと笑うと、『ならば手を取れ。助けてやる』と手を差し出す。王太子は迷うことなく男の手を掴んだ。次の瞬間、断末魔の叫びが寂れた教会に響いた』」
男の人は幽霊なのかな?
でも、王太子が化け物と言ったんだっけ。
化け物?
魔物の事かな?
人型をした魔物?
透けていたらしいから、やっぱり幽霊?
王太子が幽霊に助けられたという話?
「『男は叫び声が途絶えると、王太子の傷を癒し護衛2人の傷も癒した』」
癒したという事は、光のスキルを持った幽霊?
すごい、幽霊になっても光のスキルって使えるんだ。
「『王太子はすぐに王都に戻ろうとするが、男がそれを留め『今、あなたは王にはなれない』と言う。そして命を助けた以上は、指示に従ってもらうと。それに反発する王太子。だが、男の『では、すぐに死にますか』という言葉に何も言えなくなる。男の力を知っているからだ。男は王太子と護衛2人を連れ、姿を消した。数年後、弟が王になった。そしてその数十年後、王となった弟が死んだ。その一月後、元王太子の子が王となった」
えっ!
王太子ではなく、その子供が王になったの?
それはちょっと予想外だったな。
「王の血は、途切れてなかったという事か」
お父さんの言葉に、その事に気付く。
何だ、ちゃんと血が引き継がれていたのか。
必要の無いドキドキをしてしまった。
「そういう事になるな。一部からは、『本当に元王太子の子供なのか疑問がある』と言われたが、古くから王城に務める者たちは間違いないと判断した。その子供というのが、王太子の若い頃にそっくりだったから。あまりに似すぎているため、恐怖を感じる者も一部にいたらしい」
恐怖を感じるほどそっくり?
あれ?
元王太子はどうしたんだろう。
一緒に帰ってきてたら、自分が王になりそうだよね。
子供が王になったという事は……。
「あの、元王太子は亡くなっているんですか? それに護衛の人たちは?」
「元王太子も護衛2人も流行り病で亡くなったと記録されている」
流行り病か。
なら王太子の子供だけが、王城に来たのか。
「元王太子の記録を復活させたのか?」
お父さんの言葉にフィーシェさんが首を横に振る。
でも、流行り病で亡くなったと記録されてるって言ったよね?
「王家の継承問題が明るみに出るのを良しとしなかった貴族たちによって、前王の弟の子という事になっている。病弱のため、離宮で過ごしていた弟の子供。記録はこの弟について書いてあるんだ。弟と弟を守っていた護衛2人が流行り病で前王が死ぬ少し前に亡くなっていると」
王家の記録は、手を付け放題すぎない?
兄の記録を消したり、弟を登場させてみたり。
あっ、本当に弟がいたのかもしれないか。
「王に弟はいたんですか?」
私の質問にフィーシェさんが頷く。
「前王の呪いに巻き込まれて死んだけど、それが無かった事になってたな」
なってた?
王家の記録を見たのかな?
気になるけど……深く突っ込むのは止めよう。
「王家の記録は、本当の事が書かれる事があるのか?」
お父さんの言葉にジナルさんとフィーシェさんが苦笑する。
「俺の見立てだと、半分ぐらいは本当だ」
少ない!
半分って……。
記録と言うより、証拠づくりみたい。
「フィーシェさん、元王太子を助けた男の事は他に何もないんですか?」
この男の人が、幽霊なのか化け物なのか気になる。
「元王太子の子供が王城に来た辺りから、王城内では男の姿をした化け物の目撃情報があるな」
化け物。
……幽霊と言う言葉が無いのかな?
後でお父さんに訊こう。
それはそうとして、元王太子が死んだからその子供についてきたのかな?
男の人は、何がしたかったんだろう?




