518話 呪いの腕輪
「どんな伝説があるんですか?」
世界の終わりとか怖いけど気になる。
「あれって、どこの村の伝説だったかな。ハタル村だったかな? 腕輪の」
ジナルさんがフィーシェさんに視線を向ける。
ハタル村?
腕輪?
お姉ちゃんが捕まっていた教会があった村だよね。
「呪いの腕輪の事か?」
「そうそう」
フィーシェさんの言葉にジナルさんが頷く。
「それだったらハタカ村だろ」
ハタカ村?
この村も教会が問題を起こしてたよね。
ここ最近、教会の問題が多いな。
「そうだったか?」
ジナルさんが首を傾げる。
「人質を取られた村娘の話だろう?」
人質。
何だか、この伝説も権力者が深く関わってそうだな。
「そう」
「それなら、間違いなくハタカ村だ」
フィーシェさんの断言する言葉に、頷くジナルさん。
「でもその伝説は、世界の終わりとは関係ないぞ」
フィーシェさんがちょっと呆れた表情でジナルさんを見る。
「あっ、そうだった」
違ったとしても気になるな。
「どんな伝説なんですか? 聞きたいです」
「なぁ、それって『強い魔力を持った娘が、呪いの腕輪を作った』という、話か?」
お父さんの言葉に、ジナルさんとフィーシェさんが頷く。
「知ってるのか?」
「あまり詳しくは知らないけど、王都の酒場で誰かが話していた気がする」
「王都か。それは珍しいな。王都では、この伝説を口にする事は禁止されているから」
禁止?
何だか物々しいな。
「聞いても大丈夫なんですか?」
「大丈夫、大丈夫」
ジナルさんの軽い口調に苦笑が浮かぶ。
彼なら王都でも訊いたら話してくれそう。
「伝えられている話はかなり長いから、重要な所だけを話すな。えっと『ある村の領主は、ある日強い魔力を持つ村娘を王に献上した。その娘には旦那と子がいた。だが領主によって旦那は殺されてしまった。また子とは引き離され会う事が出来ない。絶望の中にいる娘に領主は命令する。その力で王に尽くせ、私の命令に従えばいずれ子と会う事が出来るだろう』」
「最低ですね」
ジナルさんの話に、つい言葉が出てしまう。
「あぁ、最低な奴だ。『娘は自分の子に会いたい一心で王の命令に従い続けた。ある時、王の気まぐれで娘に腕輪が贈られる。それは王がお手付き……』えっと」
お手付き?
ジナルさんが困った表情を見せる。
それを不思議に思い、お父さんを見るが同じ表情をしていた。
えっ、なに?
「あ~、つまりその……王が娘を気に入って手籠、じゃなくて無理やり、でもなくて……愛情を」
あぁ、なるほど。
「えっと、分かりました」
つまり女性の意思を無視して手を出したって事だよね。
最低最悪な王。
「ははっ、続けるな。『娘は旦那を愛していた。だから王との関係は』ここは飛ばして……『子を守るため、娘は耐えた。が、ある日娘は真実を知る。それは娘の子が、既にある貴族に売られていたという事実。そしてそこで既に死んでいる事を。娘はその話を聞いた瞬間、力を暴走させる。今まで耐えてきた苦しみ、守れなかった悲しみ、奪っていった者への憎しみ。多くの者が娘の力を抑えようとしたが、暴走は続いた。王と王妃、そして王の子供たちはすぐに避難し被害を免れた。被害にあったのは、娘のように力があったために連れてこられた者たちだった』」
王ではなくて、同じ境遇の人たちが被害にあったの?
あれ?
呪いの腕輪だったよね。
「『魔力の暴走で王城は火に包まれた。が、その火は一瞬で消えた。なぜ消えたのかは一切分からず。王はそれを王の奇跡、王を狙い魔力を暴走させた者を、王が一瞬で抑え込んだとして、町や村に広げた。王城はすぐに再建され、生活は元通り。
時は流れ、娘が亡くなってからちょうど1年後。その日、王城では王の息子の誕生祝いの宴が行われていた。王と王妃が登場し宴が盛り上がった時、王は王妃が着けている腕輪に気付いた。その腕輪には、綺麗な赤い石がはめ込まれていた。王が王妃に腕輪の事を訊くと、王妃は不思議そうに王が贈ってくださった物ですよと。王に覚えは無く、その腕輪をよく見ようと触れた瞬間、王の手が一瞬にして火に焼かれた。会場は一気に混乱に陥り、王は痛みで悶える。火を消そうと、水を掛けるが火は消えず。魔法で対処しようとしても、効果は無く。王はその日、片腕を切り落とした。王妃はすぐに腕輪を外そうとしたが、そこに腕輪は無かった。王城内をくまなく探しても腕輪は見つからず、娘の呪いだとささやかれた。王はその日から変わり果てた姿に。
そしてまた1年後。王が目を覚ますと、あの日王妃の腕に嵌っていた腕輪がベッドの上に転がっていた。王の叫び声に、部屋に駆け込んだ騎士たちは王の命令に従い腕輪を部屋から出そうとした。その時、王の息子が部屋に入ってくる。騎士の1人が腕輪を持って部屋を出ようとした瞬間、王の息子が火に包まれた。王の前で焼かれ叫び暴れる息子。王も騎士もなすすべなく、焼かれ死んでいく姿を見続けるしかなかった。そして腕輪はまた消えた』」
「……すごい怖い話ですね」
一気にくるより、じわじわ苦しみが続く方が怖い気がする。
「続きもあって、さらに1年後に王の娘、その翌年には王の息子、王の血縁者が死んでいく話が延々続くんだ。最後は王が死んでこの伝説は終わるんだよ。話す人によって多少違いはあるが、内容はこんな感じだ」
王は最後まで生き残ったんだ。
すごい憎しみを感じるな。
伝説って本当の話なんだよね?
「その腕輪は、最後まで見つからなかったんですか?」
「見つかってるよ。王が死んだときに、王が寝ていたベッドから。それからその腕輪は、王城の奥に保管されているという話だ」
今も腕輪はあるって事だよね。
怖いな。
あれ?
王だけなのかな?
領主は、どうしたんだろう?
「あの領主は、何もなかったんですか?」
「いや、領主にも呪いは襲い掛かっているよ」
フィーシェさんの言葉にジナルさんが頷く。
「今から話すのは、ハタカ村に伝わる伝説だ。『ある村に赤い雨が降った。村の人たちは恐れ、家の中から外を見ていた。その人々の前に、1人の女性が現れた。その女性は白い服を赤い雨に染めて、ゆっくりゆっくり歩いていた。村の人たちは、その女性に声を掛けるがそれには応えず、ゆっくりと歩き続けた。そしてある家の前で立ち止まり、倒れた。赤い雨が止み、多くの人が外に出ると領主の叫び声が村中に響いた。慌てて領主の家に集まると、赤い雨に染まりながら歩いていた女性がそこで亡くなっていた。領主はその女性を見て、恐怖に顔を歪めている。村に長く住む1人の男性が、その女性を見て名前を叫んだ。領主は逃げるように家に入り、中からその女性を連れていけと叫ぶ。女性は彼女を知っていた男性によって弔われた。
女性が亡くなって1年後。また赤い雨が降り出す。その雨は数時間で止むが、その日から領主が謎の病に冒された。男性は女性に何があったのか探り出し、領主の罪を知った』この後に領主と王が、娘に何をしたのかという話が入るんだ。その後に『男性は、女性の悲しみや苦しみを癒すため、亡くなったその日に祈りを捧げるようになる。村の人々も男性と共に彼女の冥福を願い祈りを捧げた。数年で雨は降らなくなったが、領主はずっと病に苦しみ続け、亡くなったのは王と同じ日と言われている』ハタカ村の伝説はこんな感じだな。こっちには腕輪は出てこないけど、関連があるとされて呪いの腕輪で伝わっているんだよ」
怖いけど、領主にもしっかり罰があってよかった気がする。
こんな事、考えちゃ駄目かな?
「そう言えば、ハタカ村には祈りの日があったよな?」
「えっ、今も?」
フィーシェさんの言葉に驚く。
いつの話なんだろう?
伝説と言うんだから、そうとう昔だよね?
「今、ジナルの話を聞いて思い出した。あれって彼女の冥福を祈る日なのかな?」
フィーシェさんの言葉にジナルさんが首を横に振る。
「さぁな。ただ、村の人たちが大切にしている日だったよな」
「そうだったな」
今も大切にされているんだ。
彼女の怒りはおさまったのかな?
「王家はこの話をまったく認めないけどな」
「えっ? どうしてですか?」
フィーシェさんの言葉に首を傾げる。
「王家の血縁者が全員死んでいる事になるからだよ」
あっ。
そうだった。
今も王家はあるから、認めるわけにはいかないよね。
だから話すことを禁止してるのか。
でも、この話が本当だったら今の王家って……。
「あの、1つ気になったんですが」
「どうした?」
ジナルさんを見る。
「彼女みたいな人たちを集めて、王は何をしてたんですか?」




