513話 守り神?
「シエル、ここに入るのか?」
ジナルさんが困惑しながら指す方向には、古ぼけた洞窟。
コケがすごく、雰囲気から判断するとちょっと遠慮したいなと思うような見た目だ。
でも、シエルはワクワクしているのか、尻尾が嬉しそうに揺れている。
「にゃうん」
「本気か……」
フィーシェさんが、諦めたようにため息を吐く。
その隣を普通に洞窟へ向かうお父さん。
「大丈夫だって。そろそろ慣れただろ?」
確かに、ジナルさんたちと一緒に旅に出てからすでに4ヶ所目の洞窟。
今まで問題なかったのに、なぜかこの洞窟の前に立った瞬間に2人は尻込みした。
「待て待て、中からすごい殺気を感じるんだが!」
「あぁ、たぶんドーリャが牙をむいていきり立っているんだろう」
ドーリャというのは洞窟特有の魔物で、暗いところで進化をしたため目が無い。
目が無い魔物を初めて見たので、最初の時は怖かった。
ぱっと見は畑で見るモグラみたいなのだが、短い毛は鋭く少し触れただけで突き刺さる事があるらしくお父さんに注意を受けた。
また、洞窟の硬い岩を砕くため、爪が硬く鋭い。
モグラみたいと思ったが、よく見るとかなり怖い風貌をしていた。
が、シエルはこのドーリャがとにかく好き。
見かけたら、とにかく追い掛け回す。
狩りではなく、ただ追い掛け回すだけ。
楽しそうに追い掛けていると、なぜかドーリャまで楽しそうに遊びだす。
初めてその光景を見た時は、お父さんとかなり困惑した。
まぁ、楽しそうにシエルとドーリャが遊んでいたので、遊び終わるのを待ったが。
ドーリャはこちらが敵でないと分かると、洞窟内の珍しい魔石をくれたりする。
ドーリャには短い尻尾があるのだが、それが揺れていると体に触る事も出来るようになる。
鋭かった毛がぺちゃんと力を無くすのは、ちょっとかわいい。
と、お父さんに言ったら複雑な表情をされた。
「ドーリャがいる洞窟に普通に入ろうとするな!」
「何を言っているんだ? 置いてくぞ」
「おいっ!」
ジナルさんが、剣に手を掛けながら洞窟内に入る。
「ジナルさん。剣は要らないですよ?」
私の言葉にジナルさんが首を傾げる。
「ドーリャは強いだろ?」
「強いですけど、追いかけっこして遊ぶだけだから……」
「はっ?」
私の言葉にジナルさんとフィーシェさんが首を傾げる。
「追いかけっこして遊ぶだけ?」
「あれ、言ってなかったですか? ごめんなさい。シエルがドーリャを追い掛け回すんです。止めてもやめないから、ある程度は遊ばせるようにしているんです」
言ってなかったのなら、ドーリャの殺気で慌てるのは当然か。
話していたつもりだった。
お父さんも忘れていたのかな?
あっ、お父さんが失敗したみたいな顔している。
「「…………」」
あれ?
慌てて説明したけど、今のだと誤解される!
「あの、不思議なんですけど、途中からドーリャも楽しそうにシエルを追いかけるんですよ。だからシエルがドーリャをいじめているわけじゃないので!」
私の説明に何か考え込む2人。
ジナルさんが、前を歩くシエルを見て洞窟の奥を見る。
そして首を横に振る。
「ドーリャも遊び出すという事か?」
「はい。相性がいいのか、かなり楽しそうに数時間走り回って遊びます」
私の説明に、首を傾げるジナルさんとフィーシェさん。
まぁ、不思議だろうな。
今は殺気がばんばん飛んできているからね。
「あれで?」
ジナルさんが洞窟の奥を指す。
殺気を感じる方角だ。
「そうなんです」
私は頷くが、納得してないのかなんとも言えない表情を2人はした。
「始まるみたいだぞ」
お父さんの言葉に、こちらに向かってくるドーリャが見える。
まぁここまで絶対に来れないんだけど。
「にゃうん」
興奮しているからなのか尻尾が少し膨らんでいるシエルが、颯爽とドーリャに向かって行く。
こうなると慌てるのはドーリャのほう。
向かってこられることが無いのか、ちょっと混乱して、そして逃げる。
「逃げたけど」
「最初のうちは逃げますね」
フィーシェさんの言葉に、最初だけだと答える。
「こっちには来ないのか?」
フィーシェさんが数匹いるドーリャを指す。
この洞窟には、4匹のドーリャがいた。
「来た事ないですよ。シエルしか見えてないみたいで」
「あっ、殺気が薄れてきた」
この洞窟のドーリャは冷静になるのが早いかもしれない。
いつもならもっと追い掛け回さないと殺気は消えないのに。
「後ろの2匹がシエルを気にしているな」
ジナルさんの言葉に、逃げている2匹のドーリャを見る。
確かに、ちらちらと後ろのシエルを見ている。
「……前の2匹もだ」
ジナルさんの言う通り、前の2匹もシエルを気にしだした。
「この洞窟のドーリャは冷静になるのが早かったな」
「うん。そうだね」
シエルが少し走る速度を緩めると、1匹のドーリャがシエルに近付くのが見えた。
毛の様子を見ていると、尖ってはおらず怒りが落ち着いてきているのがわかる。
「本当に、遊びだした……うわ~、すごいの見てるよな」
ジナルさんが、5匹で遊びだした様子を見て感動したように言う。
フィーシェさんもそれに頷いた。
「ところで、シエルが満足するまで俺たちは?」
フィーシェさんの言葉にジナルさんも、私たちを見る。
「お茶をしたり、シエルの姿が見える範囲で洞窟を探検したりしてますね」
「他の魔物は?」
ジナルさんがきょろきょろと洞窟内を見回す。
「アダンダラとドーリャが遊んでいるところに、無謀に飛び込む魔物はいないな。近付いても影からこっそり覗いているぐらいだ」
お父さんの説明に、ジナルさんが5匹の遊ぶ光景を見て納得している。
今回4匹もドーリャがいるため、遊び方が激しくなっている。
あれに突っ込む魔物は命知らずだろう。
「あっ、あの場所で終わるのを待ってようか」
お父さんが指す方を見ると、洞窟内の一番広い空間を一望できそうな場所だった。
「あの場所ならシエルの姿が見えるだろう」
確かに洞窟内を走り回っている様子は見れそうだな。
「シエル~、あそこにいるな~」
お父さんの声に、走りながらちらりとこちらを見るシエル。
「にゃうん」
「ごふっ」
珍しく鳴くドーリャがいるみたいだ。
どの子だろう?
「ドーリャが鳴いた!?」
フィーシェさんがかなり驚いたので、本当に珍しいのだろう。
お父さんが見つけた場所で、ゴザを出しお湯を出しお茶を入れる。
「本格的に休憩するんだな」
フィーシェさんが苦笑を浮かべる。
「数時間、なにもせず立っているのは大変だぞ」
お父さんの言葉に、ジナルさんとフィーシェさんがため息を吐く。
「普通はドーリャがこんなに近くにいたら、逃げるか戦うかで慌ただしいんだけどな」
ジナルさんの言葉にお父さんが頷く。
「確かに昔はそうだったな。ドーリャは目が見えない分、気配に鋭いから隠れても見つかるしな」
「そうそう。厄介な魔物だったよ。剣はあの鋭い毛で弾かれるし。でもドーリャがいる洞窟にはレアな魔石があるんだよな。だからつい挑戦したくなる。で、やっぱり後悔するんだよ」
フィーシェさんの言葉に、お父さんとジナルさんが笑う。
きっと経験があるんだろうな。
「そうだ。ドーリャが落ち着いたら洞窟内を見て回らないか? レアな魔石があるかもしれない」
ジナルさんがワクワクした表情で言うと、フィーシェさんも、もう賛成のようで期待が籠った目でお父さんと私を見る。
「ドーリャにお願いしたら、持って来てくれる時があるぞ」
「「えっ!」」
確かにレアなSS級の魔石を2つ貰った事があるな。
他の高レベルの魔石と一緒に仕舞ってある。
「本当に?」
「あぁ。俺たちが洞窟内を荒らさないと分かったら、1個か2個くれるんだよ。まぁ、自分で見つけるのも楽しいけどな」
「荒らさないか……洞窟特有の魔物は、洞窟の守り神だと言われていた時代があったよな」
お父さんの言葉にジナルさんがドーリャに視線を向ける。
「守り神?」
「そう、人間は無駄に洞窟を荒らすから、それを防ぐために魔物がいると言われていたんだ」
確かに、レアな魔石が取り放題だと洞窟は荒れるだろうな。
サーペントさんの事を思い出す。
確かに守り神かもしれない。




