511話 本当の依頼
ジナルさんが取ってきた仕事は、あるマジックアイテムをオカンケ村まで運ぶ簡単なモノ。
重要なマジックアイテムなのか「盗まれないように」、と言われたとジナルさんが笑っていた。
「なんだ、この任務」
「だろ?」
お父さんとフィーシェさんが渋い表情をしている。
それを不思議そうに見ると、任務が書かれている紙を見せてくれた。
「荷:マジックアイテム、重要度:上、届先:オカンケ村商業ギルド、期日:1年以内」
冒険者ギルドで壁に貼っている依頼票を見た事はあるけど、特におかしな点があるとは思えない。
何かおかしいのだろうか?
そう言えば、期日が異様に長いな。
「おい、ジナル。これを受けたのか?」
「あぁ、訳ありっぽいだろ」
ジナルさんの言葉にフィーシェさんがため息を吐く。
訳あり?
どういう事かと、ジナルさんを見る。
「期日が長すぎるだろ?」
「はい」
「普通はあり得ない。しかもただの荷物運びなのに報酬金額がよかった。にも拘らず、誰も受けようとしていなかった」
やっぱり期日が長いんだ。
1年だもんね。
報酬金額がいいのに誰も受けない?
「……依頼した人に問題があるんですか?」
「そうなるな」
私の言葉にお父さんが、ジナルさんを睨む。
それに肩を竦めるジナルさん。
「まぁ、怒るなって」
「怒るに決まっているだろう。これ間違いなく、オカンケ村で荷物を渡したらいちゃもん付けられる依頼だろうが!」
お父さんの言葉に、なるほどと頷く。
それを知っているから、他の人は依頼を受けないのか。
……またややこしい依頼を受けてきたな。
それとも何か意味があるのかな?
「ジナル……本当の依頼は?」
本当の依頼?
フィーシェさんの言葉に首を傾げる。
荷物を運ぶ事じゃないの?
「商業ギルドからだ。この依頼人が二度と依頼できないように証拠品を運んで欲しいと言う事だ。ちなみに貴族だが、その辺りは問題ない」
ほぉ~、すごい。
何だか……なんだっけ?
何か言おうとしたんだけど……おとり捜査だ!
……ん? おとり捜査って何?
前世の私、頑張ってよ!
言葉だけでは、意味が分からないから!
おとり……罪を犯させるのかな?
多分そんな感じかな?
「アイビー? 大丈夫か?」
あっ、考え込み過ぎた。
ジナルさんを見て頷く。
「はい、大丈夫です。えっと、お……証拠品って何ですか?」
おとり捜査をどうやるのか訊きそうになってしまった。
危ない、危ない。
「あぁ。商業ギルドがマジックアイテムを移動前に鑑定しているんだ。で、到着していちゃもんを付けられたら、再度鑑定して移動前以上には壊れていない事を証明する。つまりマジックアイテムが証拠品だな。俺たちは相手を煽るだけ煽る。目立つように周りを巻き込んでいくのが一番の役目かな。証人を作るために。あとは商業ギルドが上手くやってくれる」
煽るのが仕事なんだ。
簡単なのか、難しいのか分からない依頼だな。
「だから俺たちか」
ジナルさんの説明を聞いてフィーシェさんが納得した表情をする。
「上位冒険者の俺たちだったら、荷物が壊れるなんて失態は演じないからな」
あぁ、そういう事か。
下位冒険者が運んでいたら、移動中に壊れたと言われても反論は難しい。
中位冒険者だった場合は、反論は出来るだろうけど完璧ではない。
上位冒険者だと、移動中に壊すなどありえない話となる。
それだけ色々経験していて、荷物運びなんて簡単な事だもんね。
「商業ギルドの上位冒険者に声を掛けたらしいが、断られていたらしい。報酬がいいと言っても上位冒険者から見れば安いからな。ただの荷物運びだし」
「そうだな。まぁ、受けた以上は成功させないとな」
お父さんも納得したようだ。
この場合は……。
「私は荷物には触らないようにしますね。いちゃもん付けられるのは嫌なので」
たぶん、私を攻撃してくるだろうな。
『お前みたいな子供が触ったから壊れたんだ』みたいな事を言って。
面倒くさいから、絶対に触らない!
「気にしなくていいぞ。元々壊れているマジックアイテムだから」
それをオカンケ村で移動中に壊されたって文句を言うのか。
すごいな。
神経が図太いんだろうな。
そう言えば、貴族だって言ってたよね?
問題ないみたいだけど、お姉ちゃんの事もあるし。
「ジナルさん。相手は貴族なのに問題ないんですか?」
「あぁ。貴族といっても、煙たがられている貴族だ。既に俺たち冒険者に振るう力もないほど落ちぶれている。でも一応貴族だからな。証拠もなく貴族からの依頼は断れないんだ。こんな問題を起こすようになったのは、ここ最近だそうだ。ある意味最後のあがきだろうな。諦めてしまえば、まだ他の道もあったのにな。奴隷落ちする事になるとは、本当に馬鹿なんだろうな」
力のない貴族もいるのか。
それにしても、ちょっと考えれば絶対にうまくいかない事は分かるのに。
……それが分かっていたら、こんな事はしないか。
ジナルさんが言うように本当にちょっと頭が足りないのかもしれないな。
「まぁ、奴隷落ちするのは当主と奥さんだけ。子供たちは既に見切りをつけて、貴族籍から抜けている。親に似ずしっかり者で、頭もそれなりにいいらしい」
随分詳しいな。
「ん? 詳しいのが不思議か?」
心を読まれたみたい。
「はい。仕事を受けたのは今日の午前中ですよね?」
お姉ちゃんとガリットさんが、お嫁さんと顔合わせをするからと出かけて行ったので、こちらも準備をしようという事になったんだよね。
私とお父さんとフィーシェさんが、旅に必要な物の買い出し。
ジナルさんが商業ギルドに依頼を見に行ってくれたんだけど、それは午前中。
今はお昼を食べてこれからの事を話しているんだけど、数時間で調べたにしては詳しすぎる。
「午前中に仕事を受けて、帰りがてらちょっと調べたらすぐに色々出てきたんだよ。既に問題の依頼についても噂になっていたしな。話を聞こうとしたら心配されて、色々訊いていないのに話してくれたよ。ちょっと調べるつもりが、帰り道だけである程度の情報が集まった。そうとう嫌われているみたいだ」
「それはまた……すごいですね」
帰り道だけで?
商業ギルドからこの宿までって大通りを挟んでいるけど、そんなに遠くないよね。
「騙された冒険者が、広めたんだろうな。次の被害者が出ないように」
フィーシェさんの言葉に、なるほどと頷く。
「それで、エガたちと同じくらいに出発するのか? あいつらは明日出発するそうだ」
だから急いで顔合わせしに行ったんだもんね。
そう言えば、帰りが遅いな。
話し込んでいるのかな?
「そうだな。見送ってから1時間後ぐらいに出るか」
準備は既に終わっているし、問題ないな。
お姉ちゃんとは後1日か。
オール町に行ったら会えるんだろうけど、ちょっと寂しいな。
「よしっ。今日は美味い店にでも食べに行くか」
「いいな。串焼きの美味い店があると聞いたが、そこでいいか? アイビーはどうだ? 俺たちの奢りだから遠慮なく食え」
奢ってくれるんだ。
お父さんを見ると、頷いてくれたのでいいのだろう。
「串焼きは大好きだから嬉しいです」
私の返事に頭をぽんぽんと撫でるジナルさん。
お姉ちゃんたちが帰ってきたら、すぐに食べに行く事が決まった。




