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510話 裏の噂

「お茶をどうぞ」


ジナルさんたちとエガさんたちが向かい合って座っている。

息苦しくなるぐらい、緊張感が漂うのはどうしてだろう?


「ジナル。彼らは大丈夫だ」


「ドルイド、彼らは……いや、なんでもない」


ジナルさんは、エガさんたちの事を知っているみたいだな。

それで警戒しているという事は、何かあったのかな?

でも、エガさんたちはジナルさんたちの事を知っているようには見えないけど……。

ん~、分からない。


「エガとランジは俺と契約をしているんだ。だから絶対に俺を裏切ることは無い」


「「「はっ?」」」


お父さんの言葉にジナルさんたちが、唖然とお父さんとエガさんたちを見比べる。

それに肩を竦めるエガさんとランジさん。


「裏切ることがないって、どんな契約を? だってこいつら……」


「これですよ」


エガさんが2枚の紙をマジックバッグから取り出す。


「エガ、持ち歩いているのか?」


「たまたまです」


お父さんが不思議そうに言うと、エガさんが苦笑する。

ジナルさんたちが2枚の契約書を見て、固まる。

どんな契約なんだろう?


「アイビー、お鍋のお湯が沸騰しているよ」


あっ、料理中だった。

ジナルさんたちの事はお父さんに任せて、旅に持っていく料理を作っていたんだった。

お姉ちゃんと別れる事が決まったから、お姉ちゃんに持って行ってもらう料理も一緒に作っている。

すぐに食べられる物があると何かと便利だからね。


「契約……重ねて……から……問……」


ところどころ会話が聞こえてくる。

ちらりとお父さんたちの方を見ると、緊張感が薄まっているのが分かる。

良かった。

どんな契約なのかは知らないけど、ジナルさんたちの警戒心を落ち着かせることができたみたい。


「ちょっと怖かったね」


お姉ちゃんが、お肉を切りながら小声で言う。

先ほどのジナルさんたちの事だろう。


「上位冒険者の威圧だからね」


場数を踏んでいる彼らの威圧は、私たちには怖い。

でもそれは、私たちを心配しての事。


「私たちのためだからね」


「うん。分かっているよ」


お姉ちゃんは、ちゃんと分かっているようで安心する。

私たちのためにしてくれた事で、怖がるなんて失礼過ぎる。

まぁ、怖かったのは本当だけどそれだけ心配されて嬉しい気持ちもある。


「何か手伝おうか?」


お父さんの声に、後ろを振り返る。


「話に加わらなくていいの?」


先ほどまでお父さんがいた場所では、未だにエガさんたちとジナルさんたちが真剣に話をしている。

いつの間にかマジックアイテムで話し声が聞こえないようになっていた。


「あぁ、特に問題ないだろう。そうだ、マリャの護衛としてガリットが同行する事になりそうだ」


「そうなの? ジナルさんたちは仕事とか大丈夫なのかな?」


仕事を終わらせた後だと言っていたけど、新しい仕事が入っていたりしないかな?

上位冒険者だったら指名依頼も多いと聞くし。


「大丈夫だろう。指名依頼があっても拒否権はあるから」


そうなんだ。

それなら問題ないかな?


「後は何を作るんだ?」


「えっと、お肉を漬け込むタレを今作っていて」


「何種類のタレを作るんだ?」


「全部で12種類。お父さんの好きなタレも作る予定だよ」


「そうか。混ぜるのなら出来るな。任せてくれ」


「ありがとう」


12種類のタレを作り、お姉ちゃんが切ったお肉を漬け込んでいく。

少し時間を置いて漬け込み、タレを簡単に落としてからバナの葉に包んでマジックバッグに入れていく。

お姉ちゃん用に別のマジックバッグを用意して、そちらにもある程度の量を入れる。


「こんなにいるかな?」


お姉ちゃんが、自分用のマジックバッグに入れるお肉の量に首を傾げる。


「エガさんとランジさんがいるし。それにお嫁さんもいるから」


「そっか。一緒に食べるかもしれないしね」


「うん。あのさ、エガさんたちの事を信用できる?」


お父さんが傍から離れた時に、そっと小声で聞く。

信用できない人と旅をするのはつらいと思う。

手を止めて、少し考えるお姉ちゃん。

しばらくすると私を見て頷いた。


「ちょっと心配はある。でも、大丈夫という気持ちが大きいの。不思議だけど」


「そっか。ならいいの。ガリットさんも一緒に行くみたいだしね」


「そうだね。馬車の旅はたぶん両親としたことがあると思う。ほんの少し記憶に残ってる。実は、今から楽しみなんだ」


お姉ちゃんの笑顔を見て嬉しくなる。

良かった。


「どうした?」


「お肉の量は足りるかな?」


「あ~、エガもランジも食う時は食うんだよな」


えっ、足りないかな?

マジックバッグの中身の半分以上が漬け込んだお肉だけど。


「もう少しお肉を増やした方がいいかな?」


「そうだな。それがいいかもしれないな。買って来るよ」


お父さんがお肉を買いに行こうとすると、話し合いが終わったのかランジさんたちがこちらに来た。


「どこかに行くのか?」


ランジさんが、出かける用意をしているお父さんに訊く。


「あぁ、タレ漬け用の肉を買いに行くんだ。エガもランジも結構食べるだろう? 今の量だと心配だからな」


「だったら、俺が買いに行くよ。金も出す。俺たちが増えたせいだろうし」


それを聞いたエガさんが、お供をすると言いだし首を傾げる。


「ランジを1人で行かせたら、大量に買ってくるから見張り役が必要なんだ」


手のかかる子供みたいだな。

エガさんの言葉に、残念そうなランジさん。

いや、どれだけ買ってくるつもりだったんだろう。

恐ろしい。

エガさんたちが調理場から出ると、ジナルさんが大きくため息を吐いた。


「ドルイド、お前あいつらの事……」


「まぁ、予想はしてる。でも答え合わせをするつもりは無いんで。それより、あの契約すごいだろ?」


すごい契約……いったいどんな契約なんだろう。


「まぁな。本人たちが納得しているなら、問題ないか」


気になるな。

お父さんを見ると、首を横に振られた。

訊かないほうがいいって事だろうな。

諦めよう。


「それで、いつ頃ここを発つんだ?」


「それなんだが、急ぐことにした」


お父さんの質問にガリットさんが答える。

その声は少し硬い。


「この村にいた追っ手はどうにかなったんだが、追加で来るそうだ。身元はばれていないと思うが、マリャが親子連れに保護された可能性ありと裏で噂されていた」


「えっ?」


どうして?


「気を付けていたが、誰かに見られた可能性はあるか。人の目を全て誤魔化すのは無理だからな」


「あぁ、だから出発は急ぐ。ただしこの噂はちょうど良かったかもしれない」


私が首を傾げると、ジナルさんが笑った。


「奴らはこれから親子連れとマリャの組み合わせを探す。だが、既にマリャは別行動だ」


そうか。


「追っ手を誤魔化せるんですね」


私の言葉に頷くジナルさん。

良かった。

これなら無事にオール町に着けるはず。


「親子連れか……」


あっ、そうか。

親子連れだと噂されている以上、私とお父さんが目立つね。

あれ?

さっき、ジナルさん裏で噂って……裏とは何だろう?


「その件なんだが、俺たちはこの村の商業ギルドで依頼を受けようと思っている。簡単な護衛任務。隣のオカンジ村かオカンケ村までのな。一緒にどうだ?」


「えっ?」


「探しているのは親子だろ? なら親子から外れればいいだけだ」


確かにそうだけど、そこまで巻き込んで大丈夫なのかな?


「いいのか? 完全に巻き込むことになるぞ?」


お父さんも私と同じように感じたようだ。


「気にするな。巻き込まれたとは思っていない」


「だが……」


お父さんが渋い表情をする。


「巻き込まれたというより、自ら絡みに行った感じだろう」


フィーシェさんがのんびりお茶を飲みながら言う。


「……確かに、そうだな」


まぁ、そうかもしれない。


「だから気にするな」


いいのかな?

お父さんを見ると、苦笑を浮かべている。

どうやら、ジナルさんたちと何か任務をこなすことが決まったようだ。

簡単な護衛任務とは、どんな感じなんだろう。

ギルドには魔石などを売りに行くだけで、任務を受けたことは無い。

不謹慎だけどちょっと楽しみだな。


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