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509話 ぴりぴり

「お父さん。本当に大丈夫?」


オール町に行けば安心だけど、お姉ちゃんは様々な貴族に狙われている。

見つかったりしてしまったら、お父さんの家族に迷惑が掛かってしまう。

もし、そんな事になったら……。


「大丈夫、家族は巻き込まないから」


「そうなの?」


それが一番だけど。

どうするんだろう?


「マリャについては、師匠に全てを預ける事にするよ」


「師匠さんに?」


だったら安全な気がする。


「師匠は既に数名マリャみたいな人の保護をしているから。今更1人増えても問題ないだろう」


他にもいるの?


「その人たちも貴族関係で?」


「あぁ、金と権力があると道を踏み外す者は多いんだ」


お父さんの呆れた表情に、なんとも言えなくなる。

私が知っている貴族は、フォロンダ領主。

あっ、今は犯罪奴隷に落ちたけどファルトリア伯爵がいた。

彼は権力とお金におぼれた貴族でいいよね。

という事は2分の1……確かに踏み外す人は多い。

なんて、知っている貴族が2人だけだから仕方ないか。

半分……まさか、そこまでは多くないよね?


「それで俺たちの馬車に空きがあるか聞くってことは、何か積んで欲しいのか?」


ランジさんが目の前にある、串焼きを口に運ぶ。

あっ。


「おい、ランジ。それっ」


「えっ?……あっ、悪い」


本当に無意識だったのか、ランジさんが手に持っている物を見て気まずそうにする。


「どうぞ」


「悪い……美味い」


苦笑いしたランジさんは、どうやら串焼きを気に入ったようだ。

表情が一変して、美味しそうに食べている。


「はぁ、手癖が悪い」


エガさんがランジさんを見張るように立ち位置を変えたので苦笑してしまう。

急いでお昼を作ってしまおう。

調理台の上に、お父さんが何かを載せたので見ると、会話を聞かれないようにするマジックアイテム。

お父さんが起動のボタンを押すと、エガさんとランジさんは少し表情を引き締めた。


「女性を1人、オール町に運んで欲しいんだ。目的地は師匠まで」


お父さんの言葉にランジさんとエガさんが小さく頷く。


「ドルイドの頼みだからな、もちろん運ぶよ。しかしそんな物まで使うという事は、訳ありなんだろうな。まぁ、事情は聞かない。何処かで尋問された時に、知らないほうが隠せるからな。モンズまででいいんだな?」


「ありがとう。師匠までで頼む」


お父さんの返答にエガさんが思案顔になる。


「面倒ごとは別に構わないんだが……人となると誰にも知られないように移動するのは無理だな。どうするか……」


エガさんが、ランジさんの手を叩きながら呟く。

どうやら2本目に手が伸びていたみたい。

油断も隙も無いな。


「あぁ、出来るか?」


「……そうだ! 花嫁の面倒を見る人を雇う予定だったから、それをその女性という事にしよう」


エガさんの言葉にランジさんが頷く。


「そうだな。その女性は、冒険者ギルドか商業ギルドに登録しているか?」


「いや、していない」


お父さんの言葉にホッとした表情をするランジさん。


「よかった。登録していたら、門にあるマジックアイテムが反応する事があるからな。極秘で移動したくても、それで行き先がばれる事があるんだ。登録が無いならその心配はないな。今回の依頼は商業ギルドからの指名依頼だ。個人的にもう1人雇ったとしても、問題になることは無い」


ランジさんの言葉にエガさんが頷く。

どうやら、問題なくオール町までお姉ちゃんを運んでくれるようだ。

しかも、仕事付き。

これならお姉ちゃんも、気兼ねなく馬車に乗ることができる。

エガさんたちを本当に信用できるのか、ちょっと不安はあるけどソラが全く反応していない。

ちょっとバッグを覗いたけど、しっかり起きていた。

なので、大丈夫なんだろう。


「おっ、ここにいた……誰だ?」


不意に聞こえたフィーシェさんの声に視線を向けると、エガさんとランジさんを不審気に見ている。

お父さんが調理台の上にあるマジックアイテムの起動を止める。


「フィーシェさん、おはようございます」


私の言葉に、フィーシェさんがちらりと私を見て小さく手を挙げた。

でも、エガさんたちに対する警戒を解いていない。

どうしたんだろう?


「ドルイド、彼らは?」


「知り合いだ。彼らは問題ない」


「……そうか」


あぁ、あの表情は信じていないな。

お姉ちゃんのことがあるから警戒しているのかな?


「それで彼らはどうしてここに? それに……」


フィーシェさんが調理台にあるマジックアイテムを見る。

確かに知り合いと話すだけなら、会話を漏らさないマジックアイテムを起動させるのはおかしい。

お父さんがエガさんたちに視線を向ける。

彼らが頷くのを見て、再度マジックアイテムを起動させた。


「マリャが、とある所で定住すると決めたんだ。だからそこまでの護衛を彼らに頼んだところだ。彼らは昔からの知り合いで信用できるから大丈夫だ」


お父さんが説明するが、納得した様子を見せないフィーシェさん。


「そうか……しかし、本当に信用できるのか?」


フィーシェさんがエガさんたちを睨みつける。


「我々が信用できないと?」


「あぁ」


エガさんの質問に、はっきりと答えるフィーシェさん。

どうもフィーシェさんが最初から喧嘩腰だ。

いつもと雰囲気が違い少し怖い。


「おっ、いたいた。気配はあるのに、静かだから何かあった……誰だ?」


ジナルさんの声に調理場の入り口を見るとジナルさんとガリットさんの姿が見えた。

ジナルさんたちは、エガさんたちを見ると不審気な表情をした。

うわ~、フィーシェさんと同じ反応だ。

お父さんが小さくため息を吐いて、マジックアイテムの起動を止めた。

それを見たジナルさんたちの表情が、少し険しくなる。


「お昼にしませんか?」


ジナルさんたちが何か言う前に、提案をする。

だって……お腹空いた。

お姉ちゃんもお腹が空いているのか、出来上がった丼の具を見つめている。

少し前にご飯も炊けている。

これは食後にゆっくり話をした方がいい……たぶん。


「お昼」


反応したのはランジさんで、呆れた表情を見せたのはお父さん。

エガさんとジナルさんたちは、ちょっと驚いた表情を見せた。


「お腹が空いていては、良い話し合いができないですよ」


私の言葉に、お父さんとお姉ちゃんがお昼の用意をする。


「ジナルさんたちも食べますか?」


私の勢いに、ちょっと戸惑ったジナルさんたち。

再度聞くと「食べる」と返事が返ってきた。

深めのお皿にご飯を入れて、六の実を溶いて乗せた具をそれぞれご飯にかけていく。

旅に持っていくつもりで大量に作ったけど、無くなってしまった。

まぁ、牛丼風は簡単に作れるからいいけど。


「「「いただきます」」」


全員分を配り終わり、冷めないうちに食べ始める。

釣られたように、ジナルさんたちもエガさんたちも食べ始めた。


「美味いな」


エガさんの言葉に、笑みが浮かぶ。

誰かに美味しいと言ってもらえるのは、本当に嬉しい。


ちらりとジナルさんたちを見る。

どうもピリピリしている。

エガさんたちも少し緊張している様子が窺える。

もしかして知り合いなんだろうか?

そして仲が悪い?

お父さんと視線が合うと肩を竦めた。

もしかして、原因を知っているのかな?


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― 新着の感想 ―
[一言] ランジさん…これ、ちょっと親しくなると人ん家の冷蔵庫や戸棚から勝手に食うタイプでは。 リアルでは絶対にお近づきになりたくないなぁ…
[一言] 同じ釜の飯を食べれば、少しは打ち解けないかな?
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