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505話 自業自得だから

「おっ、いたいた」


ジナルさんの声に視線を向けると、手を振りながら走って来た。

どうしたんだろう?

まだ地下洞窟にいる時間だと思うけど。


「早いですね」


「あぁ、ちょっと問題が起きて、冒険者全員が地下洞窟から退避したんだよ」


退避?


「何かあったんですか?」


お姉ちゃんが心配そうな表情でジナルさんに詰め寄る。

それに少し驚いた表情のジナルさん。


「大丈夫だ。ちょっと冒険者が数名、行方不明になっただけだから」


それはちょっとの問題ではないと思うけど。

それとも地下洞窟ではよくある事なんだろうか?

まぁ、普通の洞窟でも戻ってこない人はいるから、一緒か。


「どこかでお茶でも飲まないか? さすがにバタバタして疲れた」


「近くに甘味屋があったけど、そこでいいか?」


お父さんが指す方をジナルさんが見る。

確か、団子屋さんだったかな?


「あぁ、とりあえず座って休憩したい」


お父さんとジナルさんの後に続いて、団子屋さんに向かう。

店の中はそれほど混んではおらず、すぐに座る事が出来た。

団子を注文してしばらくすると、お茶と団子が出てきた。


「温かい団子なんですね」


お姉ちゃんが嬉しそうに口に運ぶ。

ジナルさんも気に入ったのか、すぐにお代わりを頼んでいた。

速い、いつ食べたんだろう?


「ふ~、食べたな」


ジナルさんが満足そうにお茶を飲むのを苦笑しながら眺める。

そりゃ、10本も食べたら満足するだろうな。


「それで、地下洞窟で何があったんだ?」


お父さんの質問に、ジナルさんが肩を竦める。


「さっきも言った通り、地下洞窟に入った冒険者数名の行方が分からなくなっているんだ。地下洞窟にかなり強い魔物がいるんじゃないかという話だ」


確か地下洞窟には特殊な力を持った魔物がいると言っていた。

警戒していた魔物がいたって事か……。


「ジナルさん。他の2人は?」


ガリットさんとフィーシェさんはどうしたんだろう。

怪我とかしてないよね?


「あの2人なら、飲みに行ったよ。無事だから安心していいぞ」


良かった。

それにしても行方不明か、心配だな。


「早く見つかるといいですね」


「……そうだな」


あれ?

今何か間があったような気がするけど……もしかして血痕とか残っていたのかな?

だとしたら既に……。


「あっ、そうだ。ドルイドやアイビーは冒険者ではないから関係ないが、冒険者カードの調査が入る事になりそうなんだ。だから村全体が、ちょっと騒々しくなると思う」


冒険者カードの調査?

初めて聞くな。


「なぜだ?」


「行方不明者の荷物が奇跡的に全員分見つかったらしいんだが、偽造された冒険者カードがその中から見つかったらしい」


偽造された冒険者カード?

それって、門の所にあるマジックアイテムを誤魔化せるという事?


「おそらく今日の夜には村で噂になるだろうな。噂だが、村の中でも偽造カードが見つかったそうだから。それで、冒険者全員に調査が入ることになったみたいだ」


何だか大変な事が起こっているみたい。

……巻き込まれないよね?

それにしても、地下洞窟で見つかった偽造の冒険者カードって追っ手の人の物かな?

そう言えば、どうして彼らは仕事中なのに地下洞窟に行ったんだろう。

そんなに地下洞窟って魅力的なんだろうか?

貴族の依頼を疎かにするほど……。


「あぁそうだ。見つかった冒険者の偽造カードだが、俺が前に話した連中が含まれているそうだ」


えっ、という事は追っ手の人たちの誰かという事だよね?

それは……見つからなくてもいいかな~。


「あのジナルさん。ちょっと訊きたい事が……」


やっぱり気になるから訊いておこう。


「どうした?」


「彼らはどうして地下洞窟へ行ったんですか? 仕事を疎かにしてまで」


そのお陰でお姉ちゃんの準備が整えられたんだけど、罠の可能性もあるのではと不安だったんだよね。


「目立たないためだろう」


お父さんが、ジナルさんを見ながら言う。

あれ?

何だかお父さんの表情に呆れが浮かんでいる。


「そうだろうな。きっと誰かが行かなかったら目立つように仕向けたんだろうな」


目立つように仕向けた?


「地下洞窟は冒険者たちにとって夢だ。そこで大金を手に入れた者がいるからな。なのに、興味を示さないとなると異様だ。もちろん、仕事でこの村に来ている冒険者もいる。だから地下洞窟へはすぐに行けない者がいるのは当然。だが、その人数が十人以上となると目立ってしまうだろう。特に彼らは周りから見ると、数日何もせず気ままに過ごしていたように映っていただろうからな。冒険者は鼻の利く者も多い。目をつけられたら厄介だ。穏便に済ませるには、他の冒険者のように地下洞窟に興味がある態度をとるしかなかったんだろう」


なるほど。

追っ手の人数が多い事が、裏目に出たんだ。

でも、目立つように仕向けるって……そんな事出来るのかな?


「昨日の夜から、変な噂もあったしな」


「噂ねぇ」


お父さんが苦笑を浮かべる。


「あぁ、冒険者の中に偽物がいるって」


偽物……だから追っ手の人たちは地下洞窟に興味があるふりをしなくちゃ駄目だったのか。

誤魔化すために地下洞窟に行って、魔物に襲われるなんて……ちょっと……。

自業自得だね。

お姉ちゃんの命を狙っていたんだから、可哀そうとは思えないや。

それにしても、これってジナルさんたちがそう仕向けたのかな?


「そうだ、噂に鋭い者たちは既に調査が入る事を知っていたかもしれないな。今頃後ろ暗い者たちは、慌ててこの村から出ようとしてるかも。まぁ、既に門には特殊な自警団員が待機していたから、速攻牢屋行きだな」


「自警団員? 早いな」


「誰かが何か助言したそうだよ。誰かは不明らしいけど」


間違いなく、ジナルさんたちが仕向けたんだ。

地下洞窟で行方不明になったのも……まぁ、自業自得だからね。

うん。

それにしてもジナルさんはいい笑顔。

そう言えば、地下洞窟を見つけた時にかなり嬉しそうだった。

あの時に思いついたのかな?

すごいな。


「アイビーも、マリャも村の中にいても問題ないという事だな?」


お父さんの言葉にジナルさんが肩を竦める。


「俺に聞かれても、断定はできないがまぁ大丈夫だろう」


ちらりとジナルさんを窺うと、にこっと笑みを見せる。

つまり、全員牢屋にいるって事なのかな?


「なら、宿を取るか」


お父さんの言葉に頷く。

大丈夫なら、ちゃんと休んだ方がいいもんね。


「宿なら、俺たちと一緒の所でどうだ? 安くて風呂があっていいところだぞ」


お風呂!

ジナルさんの言葉に勢いよく頷いてしまう。


「どこだ?」


お父さんがジナルさんから宿の位置を聞いている。

大通りを2本奥に入った場所か。


「ジナルたちと一緒でいいか?」


「うん。お姉ちゃんもいい?」


「もちろん」


「決定だな」


ジナルさんが立ち上がる。


「でも、部屋は空いているかな?」


「朝確認した時は空いていたから、問題ないだろう」


朝には、宿が取れる状態にする予定だったという事かな?

お父さんが苦笑しちゃった。


「部屋は2人部屋が2つでいいのか?」


あっ、お姉ちゃんが一緒になってから初めての宿だ。


「そうだな。俺とアイビーでマリャかな?」


ん?


「ドルイド。アイビーとマリャでドルイドが1人だろう」


「……そうか」


何だかお父さん落ち込んでいる?


「3人部屋は無いんですか?」


「あるけど……」


ジナルさんがお姉ちゃんを見ると、お姉ちゃんは不思議そうにジナルさんを見つめている。


「まぁそうだな。それの方が安心できるか」


「はい。皆が一緒の方が安心なので」


お姉ちゃんの言葉に頷いたジナルさんは、ポンとお姉ちゃんの頭を撫でた。


「分かった。ドルイドたちもそれでいいか?」


お父さんと私が頷くと、部屋を取るために宿へ向かう。


「そう言えば、買い物は終わっているのか?」


服と靴を買ったから、特に必要な物はないはず。


「終わっているよね?」


「そうだな。…………いや、マリャのマジックバッグが欲しいな」


あっ、お姉ちゃん用のマジックバッグか。

予備は1個しかないから足りないよね。

その1個も容量が少ないし。


「マジックバッグか。宿に行く途中にアイテム屋があるけど、寄って行くか?」


ジナルさんの言葉に、寄り道をしてから宿に向かう事が決定した。


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― 新着の感想 ―
[一言] マリャさんは27歳だけれども、中身は7歳だからドルイドさんと同室でもアイビーちゃんもいるし問題ないよね。まあ、知らない人が見たらいろんな噂されそうですけれどもね。
[気になる点] >「でも、部屋は開いているかな?」 >「朝確認した時は開いていたから、問題ないだろう」 ×開いて ○空いて ではないでしょうか [一言] 今さらですが、地下洞窟発見報告に対する報償と…
[良い点] ちょくちょく誰が保護者か分からなくなるのが可愛いですね。 [気になる点] > 冒険者ガードの調査が入る事になりそうなんだ。 > 冒険者ガードの調査?初めて聞くな。 > 偽造された冒険者ガー…
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