503話 久々の再会
門を通るのにこんなにドキドキしたのは久しぶりかもしれない。
挙動不審な態度は駄目だと分かっているんだけど、どうしても緊張してしまう。
「2人とも、そんなに緊張しなくても大丈夫だって」
「そうなんだけど……」
お姉ちゃんを見ると、顔色が悪い。
2人も態度がおかしかったら目立ってしまう。
よしっ、意地でも落ち着こう。
小さく深呼吸して門番さんの下へ行く。
「こんにちは」
お父さんが門番さんに小さく頭を下げる。
「おや? 体調が悪いんですか?」
お姉ちゃんを見た門番さんが、1歩お姉ちゃんに近付くとお姉ちゃんがブルリと震える。
「この村に着く少し前に魔物に襲われまして。マリャは今回が初めての旅だったので、まだ怖いみたいです。もう大丈夫と言ってはいるんですが」
お父さんが答えると、門番さんが慌てて2歩後ろに下がる。
怖がらせたと思ったのか、申し訳なさそうな表情で門番さんがお姉ちゃんに頭を下げる。
「申し訳ない。この村の中は安全だからゆっくり休養してくれ」
親切な門番さんなのだろう。
すぐに村に入る手続きをしてくれた。
「災難でしたね。襲ってきた魔物にバッグを取られるなんて。ちょっと待ってくださいね。えっと、これだ。この村の安いけど質がいい店の一覧なんです。揃えるとなると大変でしょう。これをどうぞ」
荷物を持っていない説明にそういう事にしたけど、ちょっと心が痛い。
この門番さんいい人過ぎる。
「ありがとうございます」
お姉ちゃんが少し笑顔を見せてお礼を言うと、目じりに皺を寄せて笑みを見せる門番さん。
この人が門番になっている時に来れてよかった。
無事に村に入り、まずは商業ギルドで魔石を売ることにする。
お姉ちゃんのカードは、まだこれからの事を決めていないので今は作らない。
「活気があるね」
冒険者の数は少ないけど、村の人たちは笑顔で仕事をしている。
「これから稼げるからな。笑顔にもなるだろう」
お父さんの言葉に首を傾げる。
稼げる?
「地下洞窟が見つかったから?」
「そう。国中の冒険者が集まってくるだろうから。これからこの村は賑わうぞ」
なるほど、だからどの人も笑顔なんだ。
そう言えば、お店を改造している人も他の村に比べて多いな。
でもまた見つかって2日目なのに。
「商業ギルドには俺だけで行くよ」
「えっ?」
一緒に行ったらいいと思うけど?
「買収されている職員がいないとも限らないからな」
「いる可能性があるの?」
「無いとは言い切れないんだよ。アイビーたちは……」
商業ギルドの建物が見えたあたりで一度立ち止まり、周りを見る。
冒険者ギルドも近くにあるため、冒険者の姿もあるがやはり少ない。
もしかして、地下洞窟に行っているんだろうか?
「服や靴を見に行く前に、何か食べるか。適当に買ってきてもらえないか?」
「いいよ。何がいいの?」
屋台の方を見ると、お昼をちょっと過ぎたあたりなので、人が並んでいる屋台もある。
「肉かな」
いつも肉だよね。
「分かった。野菜も食べてね」
私の言葉に苦笑を浮かべるお父さん。
お父さんが商業ギルドに向かうのを見送ってから、お姉ちゃんと屋台を見て回る。
ダリュの屋台が多いが、次に多いのがガルガ肉の串焼き。
味付けの種類が多く、どれも美味しそう。
「お父さんにガルガ肉の串焼きを買って行こうと思うけど、お姉ちゃんは何本食べられそう?」
私の質問に、お姉ちゃんはガルガ肉の串焼きを見る。
肉の塊が美味しそうに焼かれている。
「1本でお腹いっぱいになると思う」
確かにガルガ肉の串焼きは肉が大きめ。
私も1本でかなりお腹がいっぱいになると思う。
「お姉ちゃん。2人で1本食べて、他の物も食べようか?」
「そうだね。そうしよう」
ガルガ肉の串焼きの屋台を見て回る。
「肉の大きさが自慢の店は止めようね」
お姉ちゃんが私の言葉に頷く。
2人で食べても1本でお腹がいっぱいになりそう。
少し小ぶりのガルガ肉の串焼きの店を見つけ、お父さんと自分達用に11本注文する。
ちょうど隣には野菜がごろごろ入ったスープのお店があったので、それも購入。
「美味しそう」
お姉ちゃんがガルガ肉の串焼きを見て、嬉しそうに笑う。
門の所で感じた恐怖心は、薄れたみたいでよかった。
商業ギルドのある通りまで戻ると、ちょうどお父さんが出てきた。
「あれ? 誰かと一緒だ」
お父さんを見ると、冒険者風の男性2人と一緒だった。
近付いていいのか分からないので、少し離れたところからお父さんを見る。
「知ってる人?」
お姉ちゃんの質問に首を横に振る。
見た事ない人だ。
そう言えば、お父さんの交友関係は気にしたことがない。
あまり昔の事を話してくれないしね。
「親しそうだね」
「うん」
お父さんが不意にこちらを向く。
どう反応していいか迷っている間に、こちらに向かってくるのが見えた。
男性2人も一緒だ。
お父さんが大丈夫と判断したのなら、大丈夫だろう。
「アイビー、待たせたか? ちょっと混んでいたからさ」
「大丈夫。えっと……」
自己紹介してもいいのだろうか?
不安になってお父さんを見る。
「ランジ、さっき話した俺の娘でアイビーだ。可愛いだろ? この2人はランジとエガ。昔からの知り合いなんだ」
お父さん、紹介に一言多いです。
ちょっと頬が熱くなるのが分かるが、小さくランジさんとエガさんに向かって頭を下げる。
「初めまして、アイビーです」
近くで見るとお父さんより年上だと分かる。
ランジさんもエガさんも、50代後半ぐらいだろうか?
「で、こっちがここからの旅に合流したマリャだ」
「初めまして」
「あぁ、よろしく」
お姉ちゃんのちょっと小さな声に、笑顔で応えるランジさん。
何だか穏やかな雰囲気の人だな。
「エガだ。会えてうれしいよ」
優しいけどちょっと厳しさも感じる人だな。
「商業ギルドの中で久しぶりに会ったんだよ」
お父さんの言葉にランジさんとエガさんが頷く。
「そうなんだよ。久しぶりだったから嬉しくて声を掛けたら、ものすごく睨まれてさ」
ランジさんがちょっと悲しそうな表情を作る。
「悪かったよ。誰なのか一瞬気付かなかったんだ」
お父さんとはかなり親しい間柄みたい。
気を許しているのがお父さんの態度から分かる。
「しかしあのドルイドに娘ができるなんてな。アイビー、ドルイドは優しいかい?」
「はい。とても優しいですよ」
ランジさんの質問に笑顔で答えると、すごく嬉しそうな表情になった。
心配されていたのかな。
「そう。モンズも安心だね。あっ、モンズは知っているのかな?」
モンズさん?
何処かで聞いた事があるような……無いような?
「アイビー、モンズは師匠の名前だ」
あっ、そうだった。
「師匠さんにもよくしてもらって、感謝しているんです」
私の言葉にエガさんが、少し驚いた表情をしたあと嬉しそうに笑った。
「そうか、モンズとも知り合いか」
「はい」
師匠さんの名前を、親し気に言う人は初めてだな。
「お昼これからなんだろう?」
ランジさんが私とお姉ちゃんの持っている荷物を見る。
「あぁ、落ち着いて食べられる場所を知ってるか?」
お父さんの言葉にエガさんが、少しだけ歩くけど落ち着ける公園を教えてくれた。
ランジさんとエガさんは、まだギルドですることがあるらしく、ここでお別れらしい。
「また、時間があったら話がしたいな」
ランジさんの言葉にお父さんが頷く。
お父さんの雰囲気が、師匠さんと一緒にいる時の雰囲気に似ている気がする。
ランジさんもエガさんも師匠さんを知っていたし、気安い関係なんだろうな。




