501話 巨大だった
「お父さん、これ薬実だ!」
休憩の後で周りの森を探索していて見つけた、青い実。
以前採った薬実とは別の物だけど、本で見た事がある。
「ほんとだ。珍しい物を見つけたな」
「やくみ?」
お姉ちゃんは知らないようで、青い実を手に取って首を傾げる。
「薬になる実の事だ」
お父さんの説明はそのままだけど、それ以外の説明のしようがないからね。
お姉ちゃんは、分かったようで何度か頷いた。
「収穫して行こうか。お金になるし」
「うん。お姉ちゃんも手伝って」
「もちろん。任せて」
確かこの実は、熟していないと薬実として役に立たないんだよね。
3人で熟した実を選びながら収穫していく。
地下洞窟の事があるので、少し広範囲で気配を探る。
魔物が少し離れたところにいて、こちらの様子を窺っているのが分かる。
近付いて来るかもしれないので、少し警戒しておこう。
「採れたな」
3人で合計46個。
実はいっぱい生っているけど、熟している実が少なかった。
「これでも多いと思うぞ」
「そうなの?」
「あぁ、薬実が一ヶ所で大量に生ることは少ないから」
そうだっけ?
以前収穫した薬実の状態を思い出す。
確か、2本の木から収穫したかな。
その前は1本の木からだった気がする。
「確かに、薬実の木がこんなに集まっているのは珍しいかも」
「そうなんだよ。土がこの木に合っているのかもな。この実はジナルたちに頼んで売ってもらうか」
村へは入らないほうがいいだろうから仕方ないけど、ジナルさんたちに色々とお願いしちゃっているなぁ。
今度、美味しい物でもごちそうしよう。
あっ、こちらの様子を窺っていた魔物が遠ざかっていくみたい。
こっちには来なかったか、よかった。
「さて、もう少し奥に行ってみるか? シエルたちは大丈夫か?」
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「ぎゃっ」
「あっ、トロンも参加した」
トロンも歩きたそうだったが、さすがに周りに同化し過ぎて見失うので、お願いしてシエルの頭に乗ってもらった。
最初はちょっと不服そうにしていたが、居心地がよかったのか寝てしまった。
「シエル。頭の上は問題ない?」
トロンの根っこの足が毛に絡みついているように見える。
痛くないかな?
「にゃうん」
普通に答えるシエルの様子から、痛くはないみたい。
「あれ? この穴……」
お父さんが木の根の下に穴を見つけて、覗きこむ。
何か見つけたんだろうか?
「どうしたの?」
お姉ちゃんが心配そうに、穴を見る。
「どうも、地下洞窟に繋がっているみたいだ。穴から感じる風に独特の魔力を感じる」
えっ? 地下洞窟?
見つけた地下洞窟に入れる穴からは、かなり距離があるんだけど。
それに独特の魔力とは何だろう。
さっきの穴から感じた湿った感じの魔力の事かな?
「湿ったような魔力の事?」
私の言葉にお父さんが首を横に振る。
「湿ったような魔力は地下洞窟が持つ特徴の1つだな。それとは別に微かにだが、変わった魔力を感じられるはずだ。さっきは説明し忘れたな、悪い」
穴に近付き、穴の中から風を感じる。
微かって事は本当に少ないんだろうな。
目を閉じて魔力に集中する。
ん?
何か掴めそう…………。
「はぁ、駄目みたい。何か感じたと思ったんだけど」
掴もうとすると無くなってしまう。
「わずかな魔力だから難しいかもな」
「さっき見つけた地下洞窟と同じ魔力なら繋がっているって事だよね?」
「あぁ、それは間違いないだろう」
地図を思い出す。
正確な距離は分からないけど、かなり大きな地下洞窟という事だよね。
「これは本格的な調査チームが組まれるかもしれないな」
お父さんの言葉に頷く。
ジナルさんたち、大丈夫かな?
…………
捨て場へ行くと、既にジナルさんたちが待っていた。
「おはよう。少し暑いな」
もうすぐ夏本番。
そろそろ暑さが増していく時期だ。
歩くと汗びっしょりになるから、大変なんだよね。
「おはよう。どうだった?」
お父さんの質問に、1つの魔石を見せるガリットさん。
ガリットさんの手の上には、透明な魔石に真っ赤な線が3本入っている。
今まで見た事が無い魔石だ。
「珍しい魔石だな。何が出来るんだ?」
「それがさっぱり分からないんだよ。調べてもらったんだけど、ひゅーまんこぴーだって」
……ヒューマンコピー?
人間複写?
……えっと、前の私の知識かな?
それにしても人間複写?
「なんだそれ」
お父さんの質問にジナルさんたちが首を横に振る。
「あの地下洞窟は魔石が採れるのか? マジックアイテムではなく?」
そう言えば、地下洞窟はレアなマジックアイテムが採れると言っていたのに、魔石?
「いや、マジックアイテムが多いよ。魔石は、聞いた話では俺が持っている物も含めて3個だ」
「それと、かなり巨大な事が分かった」
ジナルさんの言葉に神妙に頷くお父さん。
その反応に首を傾げるジナルさん。
「知っていたのか?」
「昨日森の奥で、木の下にある穴を見つけたんだ。その穴から吹いていた風に、ジナルたちが入った地下洞窟と同じ魔力を感じたから」
お父さんの言葉に私とお姉ちゃんが頷く。
「森の奥? 地図でだいたいの場所は分かるか?」
ガリットさんが地図を広げて、お父さんに場所を訊く。
大まかな場所を昨日確かめておいたので、お父さんが地図を見ながら説明する。
それをジナルさんたちが見ている。
「かなり広いな。もしかしたら最大級の地下洞窟じゃないか?」
フィーシェさんが嬉しそうに言うと、ガリットさんがため息を吐く。
「大掛かりな調査隊が組まれたら面倒だろうが」
フィーシェさんはガリットさんに肩を竦めて見せる。
何が面倒なんだろう。
調査隊にジナルさんたちが組み込まれたりするのかな?
それは、面倒くさいかも。
「調査隊が組まれるとしても、時間が掛かるから俺たちの邪魔にはならない。それに調査隊が組まれると分かったら、調査が始まる前にマジックアイテムを得ようと動く冒険者が多くなる。しかも巨大なら、隠れる場所も豊富だ。餌にもいい感じに食いついたから、きっと今日あたりから動くはずだ。俺たちも今日からだな」
なんの話をしているのかさっぱり分からない。
これは訊いてもいい事なのか、無視した方がいい事なのか……。
ただ、調査隊に組み込まれる心配をしているわけではない事は分かった。
「アイビー、あの魔石が何か分かるか?」
お父さんが隣に来て小声で聞いてくる。
「人間複写だって」
これは分かったと言えるのかな?
人間を複写……複写は同じものを写すでいいのかな?
「人間複写?」
話が聞こえたのかジナルさんが首を傾げる。
これはジナルさんたちも巻き込んだ方が、意味が分かるかも。
「さっきの魔石の事です」
私の言葉に驚いた表情のジナルさんたち。
ガリットさんが、慌ててバッグから魔石を取り出す。
「これの力が何かわかったのか?」
ガリットさんの言葉に首を横に振る。
分かったような、分かっていないような。
「ヒューマンは人間でコピーは複写を意味するみたいです」
頭の中で変換されたけど、間違えてないよね。
……大丈夫。
「えっと……。アイビーがそう言うならそうなんだろうな」
あっ、追及してこない。
どうして?
私の表情を見たジナルさんが苦笑する。
「詳しく聞くと、後悔しそうだからいい」
ジナルさんの言葉にお父さんが笑う。
後悔しそうって……。
「それより人間複写? 人間を写す?」
ジナルさんたちの眉間に深いしわが刻まれる。
もう少し何か分からないかな?
コピー、複写……。
んっ、コップが1つ?
……同じコップが2つになったけど……なにこれ?
500話でした!
感想ありがとうございます。
これからも、よろしくお願いいたします。
 




