495話 追っ手はしつこそう
「それにしても、ハタハ村にこんなに早く着くとはな」
ガリットさんが青い岩を見ながら感心したように言う。
彼の予想では、洞窟からハタハ村まで8日ほどかかると言っていたのに、実際には8時間ほどだった。
「洞窟の中を通ってきたからだろうな」
フィーシェさんが、サーペントさんから降りて頭を撫でる。
それにすりっと顔をこすり付けるサーペントさん。
サーペントさんに乗って移動する事になった時は、かなり緊張をしていたけど今は大丈夫みたい。
「マリャ、手をこっちへ」
ジナルさんを見ると、サーペントさんからお姉ちゃんを降ろしていた。
「ありがとうございます」
降ろしてもらったお姉ちゃんは、少しふらついたが歩いている時よりも元気そうだ。
2日間ゆっくり休憩できたのもいいのだろう。
顔色もいい。
お父さんがサーペントさんから降りると、私をさっと抱えて降ろしてくれた。
自分で降りられるけどね。
「ありがとう」
「……悪い。アイビーは自分で降りられたな」
「ふふっ、楽が出来たからいいよ」
サーペントさんから滑り降りるのも楽しいけどね。
それは、洞窟で存分に楽しんだので満足してます。
サーペントさんの鼻の部分をゆっくりと撫でる。
気持ちいいのか、うっとりとしているサーペントさんが可愛い。
「また会おうね。この近くに来た時は、会いに行くね」
シエルにお世話になるだろうけど、お願いしよう。
サーペントさんたちが、森の奥へゆっくりと帰っていく。
少し離れたところで振り返ったサーペントさんたちに手を振って見送る。
やっぱり可愛いな。
「はぁ、すごい経験だったな」
ジナルさんの言葉にフィーシェさんが頷く。
「あぁ。それに想像以上の乗り心地だったよな」
確かに、揺れも少ないしふわっと浮いてすーという感じで移動した。
すごく快適だったな。
「この場所はここだな」
ガリットさんが地図を広げて、ハタハ村と青い岩の場所を教えてくれた。
地図上では、ほんの少し歩くだけでハタハ村へ着けそうだ。
「このまま全員で村に行くのは止めた方がいいんだけど、どうする?」
ジナルさんの言葉に、首を傾げる。
「どうしてですか?」
村に行って情報を集めるのだと思っていた。
あと、お姉ちゃんの物をいろいろと買いたい。
「追っ手が手ぐすねを引いて待っている可能性が高いからだ」
フィーシェさんの言葉に首を傾げる。
追っ手が?
「マリャは、旅の準備をせずに逃げたんだろう?」
ジナルさんの質問にお姉ちゃんが頷く。
「その情報は、おそらく貴族どもに流れているはずだ。だからまず追っ手は、ハタル村周辺を捜索したはずだ。マリャの死体を探すために」
ジナルさんの死体という言葉に、お姉ちゃんが一瞬体を揺らす。
でも確かに、ずっと監禁に近い状態だったお姉ちゃんが森に詳しいわけないので、既に死んでいると思われても仕方ないのだろう。
「死体が無く、死んだ痕跡も見つからない。そうなると、協力者がいた可能性を考えるだろうな」
フィーシェさんの言葉に頷く。
教会から逃げる時も、ビスさんが協力している。
他にも協力者がいて、森の外で待機していたと考えることは当然かもしれない。
「追っ手は、マリャが逃げる前後に村から出ていった者がいるか調べるだろう」
協力者が誰なのか特定するためだよね。
あれ?
お父さんと私も調べられてる可能性があるのかな?
「だが、マリャに協力者はいない。もし、それらしい者を見つけたとしても調べればすぐに無関係だと分かるはずだ。次に追っ手が考えるのは、たまたま冒険者に保護された可能性」
ジナルさんの言葉に、お姉ちゃんが私とお父さんを見る。
今回がそうだからね。
それはそうと、追っ手はそこまで考えを巡らせるんだ。
これから気を付けないとな。
「保護した側から考えると、森を歩く装備が整っていないマリャの存在はかなり危険だ」
ジナルさんの言葉に、お姉ちゃんが自分の姿を見下ろして首を傾げている。
「森の中ではゆっくり歩くだけで、弱っていると思われて魔物に襲われやすくなるからな」
お父さんの言葉に、お姉ちゃんが驚いた表情をしてジナルさんたちは頷いた。
「今のマリャが長く歩けない原因は体力の事もあるが、靴も原因の1つだろう。それは、逃げた時に履いていた靴か?」
ジナルさんの言葉に頷くお姉ちゃん。
今お姉ちゃんが履いている靴は、底がとっても薄い。
底の薄い靴は森の凸凹した衝撃などを受け止められず、疲れやすく足を痛めてしまう事も多い。
「保護した者たちが、旅の危険を減らすために靴だけでも買おうとするのは当然だ。だが追っ手もそう考えるだろうから、ハタル村の隣の村。ハタカ村とハタハ村には追っ手が確実にいる」
そうなると、ハタハ村でお姉ちゃんの準備を整えるのは無理かな?
ジナルさんが言う通り、靴だけでも森を歩ける靴に変えたかったんだけど。
靴屋には、追っ手が待ち構えていそうだな。
「ドルイドは、どうする予定だったんだ?」
ジナルさんがお父さんに訊く。
「俺だけで、村へ行くつもりにしていた。マリャの旅の準備は、追っ手と思われる者たちの様子を窺ってから考えるつもりだった」
そうだったんだ。
「まぁ、そうなるか。マリャは絶対に連れていけないし、だからといってマリャだけを森に置いておけないしな」
お姉ちゃんが1人で森にいたら、襲ってくださいと言っているようなものだよね。
ハタル村から逃げた時は、ビスさんが魔物除けを大量に持たせたようだけど、私たちが見つけた時は既に使い切っていたし。
大体、ハタル村にはその魔物除けが効かない魔物がいた。
「マリャを1人にしないためには、俺たちかドルイドたちが森に残ることになる。この場合は、俺たちだけの方が目立たないだろう。お前たちは、間違いなくハタル村で名前と容姿が追っ手たちに知られているはずだ」
お姉ちゃんが逃げた後に村を出発したもんね。
「そうだな。頼めるか?」
お父さんの言葉にジナルさんたちが頷く。
「もちろんだ」
迷惑を掛ける事になっちゃったな。
「とりあえずこれからの予定だが、俺たちは村での噂と冒険者が持っている情報を聞き出してくる。飲み屋でも回れば王都の噂も拾えるだろう。まぁ、これは運が必要になるが」
ジナルさんの言葉にフィーシェさんが、ちょっと嬉しそうな表情になる。
きっとお酒が飲めるからだろうな。
ガリットさんには、呆れた表情を向けられているけれど。
「明日には一度森に出てくるが、どこかで待ち合わせをしようか。ガリット、何処かいい場所はあるか?」
ジナルさんがガリットさんを見ると、ガリットさんが地図を広げてある場所を指した。
「この洞窟は、レベルの低い魔石しか取れないから不人気なんだ。ここでどうだ?」
地図で確認すると、村からそれほど離れていない洞窟のようだ。
不人気なら人目にもつかないだろう。
「問題なさそうだな」
お父さんの言葉に、頷く。
「そうと決まれば、すぐにハタハ村に行くか」
ジナルさんの言葉にガリットさんが慌てて止める。
「もしもの時にドルイドたちの居場所が分からなかったら、助けられないだろう。どの辺りに今日はいる事になりそうだ?」
ガリットさんの質問にお父さんが地図を見るが、眉間に皺が寄る。
「悪いが地図を見ただけでは判断できない」
それはそうだろうな。
ソラにお願いしてみようかな。
「お父さん、ソラにお願いしてみる?」
ソラだったら、今の私たちに一番最適な場所に案内してくれそうだし。
「そうだな、お願いしてみるか」




