494話 噂の調査
3日目に雨が止み、洞窟から脱出。
「せっかくシエルに場所を訊いたんだが……」
ガリットさんのちょっと残念そうな声が聞こえる。
まぁ、仕方ないよね。
だって、今はサーペントさんの上に乗って移動中だから。
雨が止んで、ハタハ村に出発しようとしたら、サーペントさんがほぼ同じ大きさのサーペントさん2匹を紹介してくれて、ハタハ村まで乗せてくれる事になったのだ。
ジナルさんたちは、今までで一番面白い表情をしてくれた。
お姉ちゃんはこの2日間でサーペントさんとかなり仲良くなっていたので、乗れると聞いて喜んでいた。
「お父さん、これがまた噂になったりして」
私の後ろに乗っているお父さんに笑って聞くと、苦笑される。
「ありえるな。今度は何だろうな?」
前の時はなぜか新種の魔物が現れたとか噂になったよね。
でも前の時よりサーペントさんの数は少ないし……それほど噂にはならないかな。
「なんの話だ?」
右隣にいるガリットさんの後ろに乗っているフィーシェさんが、不思議そうに訊いてくる。
もしかしたら、彼らもあの噂を知っているかもしれないな。
「以前ですが、今回のようにサーペントさんたちと森を移動した事があるんです。そうしたらサーペントの大移動という噂になっちゃって……」
私が説明すると、なぜかジナルさんたちが黙ってしまった。
どうしたんだろうと、左右を見る。
右隣にガリットさんとフィーシェさんを乗せたサーペントさんが移動し、左隣をお姉ちゃんとジナルさんを乗せたサーペントさんが移動している。
「あの?」
「ぷっ、あはははっ。あの噂、あはははっ」
いきなり笑い出したガリットさんに、びくりと体が震える。
その声が少し大きかったので、森の小動物が驚いて走って逃げていくのが見えた。
「ガリットさん?」
「ぷぷぷっ。あの噂の真相を調べる任務に、俺たちが指名されたんだよ」
「「えっ!」」
お父さんと私の驚いた声が重なる。
確か調査が入ったような事は聞いたけど、ジナルさんたちが調べたの?
「あの噂の原因がお前たち?」
疲れた表情で、ジナルさんがお父さんと私を指さす。
「指をさしては駄目ですよ」
ジナルさんの前に座るお姉ちゃんが、ジナルさんの指をそっと降ろさせる。
それにちょっと困った表情をしたジナルさん。
「悪い。ははっ、本当にあの噂の原因はドルイドたちなのか?」
「まぁ、そうなるな」
お父さんが苦笑しながら認めると、ジナルさんたちがため息を吐いた。
なんだか、すごく迷惑を掛けてしまったようで申し訳ないです。
「サーペントの大移動なんて聞いた事は無かったから、王都でもかなり噂になったんだよ。それで、何かの予兆の可能性もあるとして、俺たちに指名依頼がきたってわけ。それが調べても原因が分からないし、でも確かにサーペントたちが大量に移動した痕跡は見つかるし……まさか、ただの……」
ジナルさんが恨みがましい表情でお父さんと私を見る。
「あ~、ただの俺たちの手伝いだな。確か送ってくれたあと、元の場所に戻ったはずだ」
「あぁ。その通り、それも何か意味があるのかと時間を掛けて調べた。全て原因不明。継続調査中だ」
うわ~。
まだ調査が継続されているんだ。
「あっ、今回の移動は3匹だけどこれが冒険者に見られたら、前の事と関連づけて調べる事になったりして」
私の言葉に、ジナルさんたちの表情が引きつる。
あっ、本当にある話なのかも。
周りの気配はずっと探っているが、とりあえず人の気配は無い……はず。
前の時も注意していたのに、見られていたからあてにならないんだよね。
「まぁ、調べてもどうせまた原因不明だから……まさか」
フィーシェさんが、唖然とした表情で私と私が肩から下げているバッグを見る。
そして、私の乗っているサーペントさんの隣を気持ちよさそうに走っているシエルを見る。
何?
ちょっと不安に思ってフィーシェさんを見つめる。
「もう1つ、王都で警戒している噂があるんだ」
フィーシェさんがお父さんを見る。
お父さんが首を傾げる。
「『森の奥から王都に向かって巨大な魔力が近づいているらしい』と。俺たちではないが調べた上位冒険者の話では、確かに王都に向かって森の奥、調査が出来ない場所で移動をしていると」
え~っと。
確かに移動中は、シエルに案内されて森の奥、それもかなり奥に入っている事が多いかな。
その時は、魔物に襲われないようにシエルが魔力を解放しているね。
シエルが魔力を解放しておかないと、魔物が押し寄せてくるから。
「くくくっ。それはきっと俺たちだな。悪い、くくくっ」
お父さんが、口を押さえながら答えるが肩が震えている。
「この噂を調べたの、俺たちの弟子なんだよ」
ジナルさんの言葉にお父さんの肩が激しく揺れる。
私もちょっと笑ってしまった。
申し訳ないです。
不意にサーペントさんが、おかしな動きをした。
それも3匹同時。
ジナルさんたちが周りを警戒するが、特に何もない。
「なんだ?」
ガリットさんが、乗っているサーペントさんの頭を撫でる。
「もしかして笑ってたりして」
私の言葉に、サーペントさんがまたおかしな動きをする。
あれ?
本当に笑ったの?
「サーペントたちにも面白い話だったみたいだな」
お父さんの言葉に反応したのか、乗っているサーペントさんの顔があがり少し後ろに乗っている私たちを見る。
それでも移動する速さが変わらないので、前も思ったけど少し怖い。
サーペントさんは、私の両隣のジナルさんたちを見てくっと口を動かした。
「サーペントに笑われた」
ガリットさんがなんとも言えない表情をした。
3匹がまた笑ったのか、体が少し左右に揺れる。
「サーペントは、俺たちが勉強したよりはるかに頭がいいな」
ジナルさんが感心したように3匹を見ている。
確かに本に載っていた情報より、はるかに人の言葉を理解している。
そしてしっかりと対応してくれる。
「可愛いですよね」
私の言葉にジナルさんたちの眉間に皺が寄る。
なんでだろう。
この考えにだけは誰も賛同してくれない。
可愛いのに。
「うん。最初は怖いけど、可愛いよね」
「そうだよね!」
お姉ちゃんがいた!
良かった。
これで私だけの感性じゃないと、お父さんも分かったはず。
「俺には分からん」
お父さんが、首を横に振っている。
なんでわからないかな?
「あれは村道か?」
お父さんの言葉にサーペントさんたちが少しゆっくりな移動になる。
ジナルさんが、お父さんが指した方をじっと見る。
「そうだな。もう少しゆっくり走れるか?」
ジナルさんの言葉に、サーペントさんたちはぐっと速度を抑えてくれた。
「ありがとう。どの辺りになるのかな?」
私の言葉にガリットさんが首を横に振る。
「移動が速かったから、スキルが全く役に立たなかった」
ガリットさんが苦笑を漏らすと、シエルがそっとガリットさんに近付く。
どうやら心配しているようだ。
「ん? もう大丈夫だ。上には上がいると分かったからな。もっと鍛えるよ」
ガリットさんは努力家なんだな。
「あの岩があるって事は……あと少しでハタハ村だ」
フィーシェさんが、ある大きな岩を指す。
その方向には、青い色をした大きな岩。
「すごい珍しい岩ですね。色が付いてる」
サーペントさんがその岩に近付いてくれる。
間近で見ても、かなり不思議な色。
「この色の岩は、ここにあるこの岩だけらしい」
後ろからお父さんが説明してくれる。
「そうなんだ。青色でソラみたいだよね」
「ソラはもっと綺麗な色だと思うけどな」
お父さんの言葉に笑みが浮かぶ。
確かに、ソラは綺麗だからね。




