484話 占い師に必要なスキル
「体を拭くお湯をどうぞ」
「はい。ありがとうございます」
お父さん用の服の中でマリャさんが着ても大丈夫な服を、マリャさんの大きさに合わせて縫っていく。
後ろで体を拭く音を聞きながら、急ぐ。
「すみません」
「いえ、大丈夫です。前までは自分の服を縫っていたので」
破れたところを他の服の布切れで埋めたり、丈が短いのを他の服で長くしたり。
今思えば色々頑張ったな。
「次の村に行ったら、まずは服を買いましょうね」
「でも、私……」
「どうしました?」
「お金を持っていないので」
大丈夫と言っても気を遣うよね。
私だったら、気になる。
「旅をしながら出来る事はしてください。料理をしたり、荷物を持ったり」
「料理ですか? 作った事ないですけど……」
「一緒に作りましょう」
「はいっ。楽しみです」
あぁ、急いで縫っているから雑だな。
とりあえずの服だからいいよね。
「出来た!」
ズボンの丈を短くして腰の部分をかなり詰めて……大丈夫かな?
マリャさんすごく細いから、詰められるだけ詰めたけど絶対におかしくなってるよね。
ん~、これは仕方ない。
上の服は両脇の所で少しずつ詰めたけど、絶対にまだ大きいよね。
これは、諦めるか。
あと上下1枚ずつ貰ったから、そっちはマリャさんにしっかり合わせてゆっくり縫っていこう。
「どうぞ」
「はい」
着替え終わるまでに、裁縫道具を片付ける。
そう言えば、これも捨て場で拾ったものだな。
折れ曲がった針をまっすぐにするのに苦労したなぁ。
まぁ、今もちょっと曲がっているけど、それに慣れてしまった。
「あの……」
後ろを振り向いて着替え終わったマリャさんを見る。
……うん、見事に似合わない。
やっぱり詰めるだけだと、服に変な皺が寄るから駄目だな。
と言っても、修道服よりまし……だと思いたい。
「えっと」
「すみません。次の村に行ったら、絶対に服を買いに行きましょう」
うん、それが一番。
そうしよう。
「そろそろ出発できそうか?」
「出来たけど」
岩穴から出るとお父さんが首を傾げる。
私の後から出てきたマリャさんを見て、ちょっと口元が動いた。
あっ、笑うの我慢してる。
お父さんを睨むと、視線が逸れた。
「次の村に行ったら、服を買いに行こうな」
「えっ」
「ぷっ」
マリャさんの驚いた声と、私の噴き出した笑い声。
お父さんが私たちを見て、不思議そうな表情をする。
「私と同じ事を言った」
「そうなんだ。まぁ、それも仕方ないだろう」
お父さんがマリャさんを見る。
「おかしいですか?」
「おかしいというか、服が大きすぎるんだよ。詰め過ぎで変な皺が出来ているし」
「そうですか」
不思議そうに自分の体を見下ろしているマリャさん。
着心地もよくないだろうな。
「それより、少しでも次の村に近付くために出発しようか」
「うん。皆行くよ。大丈夫?」
マジックバッグを順番に肩から下げて、最後にトロンの入ったカゴを肩から下げる。
「にゃうん」
「ぷっぷぷ~」
「ぺふっ」
「てっりゅりゅ~」
「よろしくお願いします」
「ぎゃっ!」
えっ、マリャさん?
……まぁいいか。
それぞれ荷物を持って歩き始める。
「あの、私も何か持ちますけど」
マリャさんの言葉にお父さんが首を横に振る。
「当分は何も持たずに歩いて体力を温存した方がいい。俺たちは慣れているから大丈夫だし」
お父さんの言葉に、マリャさんが戸惑いながらも頷く。
歩き出すと、少ししてマリャさんの息が上がってきているのに気付いた。
想像以上に体力がないように感じる。
「お父さん、少しゆっくり歩く?」
歩く速さを変えるかお父さんに訊くと、マリャさんを見て首を横に振る。
「気にするだろうから、もうしばらくこのままで」
「分かった」
確かに荷物の事も気にしてたのに、そこに歩く速さまでゆっくりになったら気に病むよね。
「でも、すぐに休憩になるだろうな。まぁ、のんびり行こう」
「うん。そうだ、スキルの話の事なんだけど」
「どうした?」
「占い師が持つスキルが気になって。数字が出るとか言ってたし」
未来視と何が違うんだろう?
「あれか。占い師になるには絶対に必要なスキルが2つある。1つが確率視のスキルで、もう1つは過去視のスキルだ。稀に1つしか持っていない占い師もいるようだが、だいたいがこの2つを持っている者が多い」
確率視のスキル?
過去視のスキル?
「過去視は過去を見られるスキル?」
これは分かりやすいな。
「あぁ、そうだ。星が多ければ、占い師が見たい過去を覗く事が出来るそうだ。ただ昔過ぎると無理だと聞いたな」
それでも、すごいスキルだな。
「主に犯罪者を探すのに役立っている」
なるほど。
過去視が過去なら、確率視は未来?
確率?
起こりやすい割合だよね?
「確率視の見せる未来は絶対ではないんだ。未来視とはおそらくここが違うと思う。確率視はその未来になるのが何割なのか数字も一緒に見えるそうだ。星が多いほど、確率の精度が上がって占いが外れなくなるらしい。俺は当初、マリャのスキルが確率視だと思ったんだよ」
「そうなの?」
「あぁ、さっきも言ったが未来視なんてスキルは夢物語だからな」
そうか。
ないと思っていたスキルを予想する人は居ないよね。
「だが、確率視だと隠す必要があるのか疑問があった。教会は星が5つの確率視がいると既に公表している。だからマリャを隠す理由がない。それなのになぜハタル村の教会がマリャを隠しているのかと考えた。だが、貴族の出入りがある以上隠し通せるものでもない。そこでふっと思い浮かんだのが未来視だ。ありえないと思ったんだがな」
「だから数字を聞いたんだ。というか星5つの占い師がいるんだ」
すごい事だよね。
「あぁ。教会が言うにはまだ生きているはずだ」
何だろう、全く興味がなさそう。
「マリャに数字を聞いた時は半信半疑……いや、未来視のスキルを持っている者がいるなんて、思いもよらなかったよ。だが、マリャは数字はないというだろ? 色々スキルを考えてみたけど、どれも違う。消去法で残ったのは未来視なんだ」
なるほど。
お父さんが戸惑って見えたのは、ありえないと思ったスキルだったからか。
「少し休憩にするか」
「えっ?」
後ろを見ると肩で息をするマリャさん。
歩き始めて1時間ちょっと。
「マリャ、少し休憩をしようか」
「えっ、はぁ、はぁ、はぁ、はい」
大丈夫かな?
すごく心配になってきた。
「座りましょう」
私の言葉にマリャさんが近くの大木に座り込む。
全身で呼吸していてかなりつらそうだ。
「大丈夫ですか?」
「はぁ、はぁ、はい。はぁ。大丈夫です」
全く大丈夫に見えないけどな。
マジックバッグからお茶の入ったコップを出してマリャさんに渡す。
お礼を言って受け取ったマリャさん。
「すみません。まだ少ししか、はぁ、歩いていないのに」
「私たちの旅は、のんびりしたものなので大丈夫ですよ」
「そうそう。気になるところがあったら、すぐに逸れるしな」
森の奥の奥とか洞窟の中とか。
「うん。ねぇ、シエル」
「にゃうん?」
「今回は歩きやすい道で、次の村までお願いね」
歩きやすいと言っておかないと、崖を登ったりするかもしれない。
あれは大変だったからな。




