表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
520/1157

482話 マリャさんの過去

「落ち着いたか?」


「はい。ありがとうございます」


「どうぞ。目を冷やしてください」


マリャさんに、水で濡らした布を渡す。

泣き過ぎて真っ赤になってしまった目。

でも、表情が少し明るくなった。


「ありがとうございます」


まだ少し戸惑っているけれど、最初の頃のような怯えはない。

緊張感はまだあるようだけど、少し歩み寄れた気がする。


「後片付けしちゃうね」


朝ごはんの片付けをしておこう。

話を聞いた後、すぐ移動するかもしれないからね。


「あぁ、手伝うよ。何をすればいい?」


「すぐ済むからお茶の用意と、お菓子を食べよう?」


何かした訳じゃないけど、ちょっと疲れた。

甘いものが欲しい。


「そうだな。昨日から色々あったからな」


「うん」


お父さんがお茶の用意をしてくれるので、その間に朝ごはんの後片付けをする。

マリャさんがどうしようかちょっとうろうろして、お父さんに座っているように言われていた。

それにしても、マリャさんは痩せている。

あれでは旅は大変だろうな。


「洗い物は終わりっと。拭いてマジックバッグに全部入れたよね。あとは……ゴミも大丈夫。よしっ」


終わった。

作りながら片付けているからそれほど多くないし、簡単。


「お疲れ様。お菓子はチョーバーにしたけどよかったか?」


ハタル村で買った小麦のお菓子。

ほんのり甘くてサクサク。

中に入っているチョーが甘くておいしいんだよね。

フォロンダ領主に貰って食べてから、お気に入り。


「うん。チョーバーってなかなか売ってないから久しぶり。楽しみ!」


チョーが入ってないバーだけや乾燥した果物が入っている物はあるけど。

私は、黒いチョー入りが好き。


「前に食べた物と味が一緒とは限らないけどな」


「見た目は似てるけどね」


マリャさんはチョーバーを眺めて不思議そうな表情をしている。


「どうぞ。甘くてサクサクして美味しいですよ」


「はい。ありがとうございます」


マリャさんが食べるのを確認してから、自分の分を食べる。

うん。

フォロンダ領主に貰ったチョーバーよりちょっと甘味が強いけど、美味しい。

サクサク。

サクサク。


「ふぅ。久々に美味いな」


「うん」


お父さんがマリャさんをそっと窺う。

いつ話を始めようか考えているんだろうな。

マリャさんを見ると、チョーバーを食べきりお茶を飲んでいた。


「そろそろ、話をしていいか?」


「……はい。話、します」


「話したくない事は話さなくていいからな」


「はい。えっと……私、ハタル村にきたのは7才です。お母さんがスキルしらべる。だからあそこに……」


マリャさんの表情が曇る。

教会にはスキルを調べる為に行ったのか。


「スキル調べて。周りがうるさくなって……お母さんがどこかに行ってしまった。暗い部屋に入れられて、それからずっと一人。泣いても誰もこない。お母さん、お父さんいなくなった」


えっ?

マリャさんの姿を見る。

30歳ぐらいだと思うけど、7歳から今まで監禁されてたの?


「部屋から出た事はないのか?」


「ある」


完全に監禁されていたわけではないのか。


「部屋から出る時、人に会う。手を握ってきて。見えた事を言う。それ以外はずっと部屋。あっ、掃除の人いた。でも話せない」


人に会う?

教会……貴族?

貴族が来た時だけ部屋から出されて、何かさせられていたんだ。

それ以外は暗い部屋に閉じ込められて。

唯一会えたのは掃除をしに来る人だけ。

でも、話せないなら意味がない。


「奴隷印をつけられたのがいつか分かるか?」


「わからない。お母さんを探しに部屋から出た後、殴られて気付いたらあった。話せなくなってた」


ひどい!

あれ? 

さっき「見えた事を言う」と言ったよね?

どういう事だろう?


「マリャ、話せなかったんだよな? どうやって見えた事を伝えたんだ?」


「チャスリスの前、話す。ほか駄目」


話せる人を残して、他の人に話せなくさせた?


「そんな事が出来るの?」


お父さんを見ると頷く。


「あぁ、出来る。……主人となった者に、従順にするために使われる手法の1つだ」


お父さんが、私に近付き小声で教えてくれた内容に目をむく。

従順って!


「ひどいっ」


少し大きな声で叫んだ私に、不思議そうな表情を向けるマリャさん。


「マリャ、チャスリスという者はどんな人なんだ?」


お父さんの質問に、マリャさんの表情がふっと綻ぶ。


「チャスリス、優しい。会えた時は幸せ」


教会の用いた手法は成功している。

マリャさんがチャスリスという人の事を話す時は、表情が優しくなる。

すごい孤独に追いやって、たった1人に縋らせる。

最悪! 最低! ムカムカする!


「マリャ。自分のスキルが何かわかってるか?」


お父さんの質問に、顔色を悪くしたマリャさんが首を横に振る。


「そうか」


お父さんの表情が少し険しくなる。


「さっき『見えた事を言う』と言っていたが、何が見えた?」


「手を握ってきた人の事。皆いやな事ばかり」


マリャさんがブルリと震える。

何か嫌な事でも思い出したのかもしれない。

でも、今の話って……まさか、未来でも見たのかな?


「あと時々、体に黒い塊。それを消す」


体に黒い塊?

ん?


「その黒い塊はどこにあるの?」


私の質問に、マリャさんが少し考える。

それにしても何だろう?

スキルの話を始めてから、マリャさんの様子が少しおかしい。

怖がっている?


「一番多いのここ」


そう言うと、マリャさんが自分の心臓の部分を指す。

次に「ここ」と言って、胃の部分。

最後に「ここ」と言って、頭を指した。


「黒い塊は今のところの中にある」


中……体内にある黒い塊?

病気の事?

でも病気ならポーションである程度は対応できるよね?

すごく悪化させて体力がなくなっていたら、ポーションでも助けられないけど。

ハタル村まで移動が出来るなら、きっと体力は大丈夫。


「……黒い塊って何?」


お父さんを見ると苦笑した。


「おそらく呪いだろう」


「呪い?」


でも、呪いも紫のポーションで治せるけど……。


「貴族として、呪われてると周りに知られるわけにはいかないんだよ。『誰かに恨みを買っているのか?』とか『何かひどい事をして呪われたんじゃないか』と、憶測が飛び交うからな。真実だとしても、噂になる事は貴族としての矜持が許さない。だから秘密裏に呪いを解く必要がある」


分からない。

それでも紫のポーションで治せると思う。


「紫のポーションを秘密裏に使えばいいんじゃないの?」


「貴族に呪いを掛けるのは、ほとんどが貴族だ」


「うん」


「貴族が使う呪いは高度な呪いなんだ。だから紫のポーションを、多く使う必要な場合がある。急に数十本の紫のポーションを買ったなんて噂がたったら?」


あっ、バレちゃうのか。

それにしても修行が必要なのに、高度な呪いを使う人がいるんだ。

どれだけ人を呪いたかったんだろう?


「マリャ、その黒い塊は1回で消す事が出来たのか?」


「出来た」


「そうか。呪いを1回で解く事が出来る彼女はかなり貴重だな。だから奴隷印か」


お父さんが大きなため息を吐く。


「マリャ。スキルなん――」


「使えない!」


「「えっ?」」


お父さんがスキルの事で何か言おうとすると、マリャさんが立ち上がって叫んだ。


「マリャ、お――」


「いらない、祈った。毎日、毎日。だから無くなった。私使わない! 使いたくない!」


お父さんの言葉にかぶせるように叫ぶマリャさん。

その表情は恐怖に歪んでいる。

マリャさんにとってスキルは恐怖なんだ。


「マリャさん、落ち着いて。使わなくていいから」


立ち上がって震えているマリャさんの手を、そっと握る。

ビクッと震えるけれど、私の手をギュッと握り返してくれた。


「いらない。祈った、消えた」


「そうか。マリャが必要ないなら、いらないスキルだな。無くなってよかったよ」


「……ほんとう? チャスリス、怒った。すごく怒って……怖かった」


チャスリスという人に天罰がくだらないかな?


「いらないって……ゴミだけど売れるって……」


地獄に落ちればいいのに!


「俺もアイビーも、マリャのスキルを使おうとは思っていない。ただ、正しい情報を知る必要がある。ただ、それだけなんだ。だから使わなくていい。なっ、アイビー?」


「うん。使わなくていいよ」


私が力強く頷いて言うと、マリャさんがホッとした表情を見せてくれた。

良かった、信じてくれたかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
やっぱスキル…悪だな
[一言] ドルイドさんが増減させられるのはスキルじゃなくて星なんだけど、ここまで関わってこないから忘れるか この先の話で何か関わってくるかな~
[気になる点] マリャさんは見た目30歳の知識と精神年齢7歳ということですね。かなり難儀な、そして外道教会に天罰を。 [一言] トロンが紫ポーション食べているから、トロンが呪いを解くと思ったのですが違…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ