476話 ポーション確保
「紫のポーションは集まりそうか? はい、これ」
お父さんが、3本の紫のポーションを渡しながら訊く。
「ありがとう」
ポーションを受け取り足元に置くと、線がいっぱい書かれた紙を見る。
ポーションは10本集まるとマジックバッグに入れるようにし、その時に紙に1本の線を引く。
こうしておけば、マジックバッグの中のポーションを数えなくても、集めた数が分かる。
今集まっているのは……青のポーションが252本、赤のポーションが269本、紫のポーションが85本か。
紫のポーションが一番少ないが、思ったよりも多く捨てられていたので助かった。
「今のところ85本を確保したから、目標まであと少しだね」
目標は100本。
この数でも、次の村まで足りるか足りないかギリギリとなる。
120本拾えればかなり助かるのだが、あまり期待しないほうがいい。
「85本か。あと20本は欲しいな」
「うん。それだと安心かな。ただ、トロンの食べる量が変わったら、足りなくなると思う」
「そうだよな。今のところは、変わってないんだよな?」
「うん」
トロンが紫のポーションを食べる量は、最初の頃から変わっていない。
カリョの花畑を枯らした後に少し成長をしたけれど、その時も食べる量は変わらなかった。
でもいつか、食べる量も増えるだろう。
それがいつからなのかが分からないので、もう少し多く紫のポーションを確保したい。
「ソラやフレムみたいに、ポーション以外にも食べられる物が見つかればいいんだけどな」
お父さんの言葉に頷く。
でも、色々試したが全て駄目だった。
1つだけ、代わりの食事が思いつくけれど……あれは駄目だろう。
「1つだけあるよな? あえて考えないようにしているけど」
お父さんもやっぱり気になるよね。
「うん。でも、あれは駄目でしょ?」
「そうなんだが……。最悪の場合を考えて、はっきりさせておいた方がいいと思うんだ」
「それは、そう思うけど……」
カリョの花畑を枯らしたあの時、トロンは少し成長した。
間違いなく、花から栄養を摂ったんだと思う。
だからもしもの時は、森にある木から栄養を貰う事が出来るかもしれない。
ただ、そのせいで木が枯れてしまうかもしれないが……。
「食事の問題は大きいからな。しっかり把握しておいた方がいいだろう」
確かにお父さんの言う通り。
トロンに何が必要なのか、しっかり知っておいた方がいいよね。
「木が枯れても、森は大丈夫かな?」
カリョの花畑の風景を思い出す。
一面の花畑が一瞬で枯れた時は、風景が様変わりしていた。
あれが森の中で起きたら?
……やっぱり駄目だと思う。
「さすがに花畑一面みたいに、森中を枯れさせるのは問題だけど、数本程度なら大丈夫じゃないか?」
「数本?」
「あぁ、トロンに加減をしてもらってさ」
それなら大丈夫かな?
でも、トロンは力加減が出来るのかな?
そもそも、お父さんと私が予想しているのは合っているんだろうか?
これはトロンに訊いた方がよさそうだな。
「トロンに色々確かめないと駄目だね。えっと……トロンはどこだろう?」
カリョの花畑が一瞬で枯れた時、確かめておけば良かったな。
あの時は、枯らしたのがトロンで間違いないという確認しかとらなかったもんね。
トロンのしたことに驚いてしまって。
「トロン。何処にいるんだ?」
「ぎゃっ」
お父さんが少し大きな声で呼びかけると、少し離れたところからトロンの声が聞こえた。
声が聞こえた方へ歩いて行くと、捨てられていた空き瓶の中にいた。
「トロン……」
お父さんが苦笑を浮かべる。
「えっと、瓶の中に落ちたの?」
私の質問に3枚の葉っぱが横に揺れる。
横という事は、落ちたのではないって事だよね。
つまり、自ら入ったって事?
「楽しいの?」
「ぎゃっ」
葉っぱが縦に揺れて、声もいつもよりちょっと高くなっている。
と言っても、瓶の中で鳴くのでその影響の可能性もあるけれど。
どちらにせよ、トロンは空き瓶の中で満足そうだ。
「何が楽しいんだろうな?」
お父さんの質問に肩を竦める。
「さぁ、ちょっと理解出来ない。でも、本人が楽しいと言ってるんだから」
「それもそうか」
お父さんの言葉に頷く。
トロン自身が楽しいならそれが一番。
ただ、気になる事が出来てしまった。
トロンの入っている瓶は、細長い形をしている。
なので、瓶から出ているのは葉っぱの部分だけなのだ。
「ねぇ、トロン。そこから自力で出られるの?」
私の言葉に、嬉しそうに揺れていた葉っぱがぴたりと止まる。
「……ぎゃ?」
慌ててトロンが瓶の中でもぞもぞと動くが、それほど太くない空き瓶だったので体を十分に動かす余裕はない。
「……出られないみたいだな」
お父さんが瓶の中のトロンを見て苦笑を浮かべる。
それが気に入らないのか、ぷいっと体を瓶の中で反転させてしまった。
「ふふふっ。細長い瓶だから、トロンの体がすっぽり嵌っちゃったみたい」
「そうだな」
トロンはしばらく瓶と格闘したが無理だと思ったのか、じっと私を見つめている。
「出たいの?」
「ぎゃっ」
苦笑を浮かべて、トロンの入っている瓶を持ち上げる。
さて、どうしようかな?
瓶をひっくり返してトロンを出すべきか。
葉っぱを掴んで引っ張り出すか……。
「瓶を横に倒したら、自力で出てこれるんじゃないか?」
お父さんの助言を受けて、瓶を地面に横にしてみる。
しばらくするともぞもぞと這い出てくるトロン。
「ふ~」
あれ? 今、トロンため息吐かなかった?
トロンを見ると視線が合う。
「ぎゃっ、ぎゃっ」
これはお礼かな?
「これからは気をつけてね」
「ぎゃ~」
「まぁ、可愛かったけどな」
お父さんの言葉に、葉っぱが少しおかしな動きをする。
いつもだったら3枚の葉っぱは同じ動きをするのに、今は3枚がバラバラに動いている。
もしかして恥ずかしがっているのだろうか?
「あっ、トロンに訊きたい事があったんだった」
「ぎゃっ?」
トロンがお父さんの言葉に体を傾げる。
「少し前に、大量のカリョの花が枯れた時があったけど、あれはトロンがカリョから栄養を吸い取ったからなのか?」
「ぎゃっ」
鳴きながら頷くトロン。
やっぱりだね。
「そうか。それって、他の花や木々からも栄養を吸い取れるのか?」
お父さんが訊くと、トロンは迷いなく頷く。
「紫のポーションが無くなってしまっても、大丈夫そうだな」
確かにそうだけど、森を枯らしていくのは駄目だと思う。
「森が枯れたら困るよ」
魔物は森の変化に敏感だと、冒険者たちが話しているのを聞いた事がある。
トロンの食事のせいで広い範囲の木々が枯れたら、魔物にどんな影響を及ぼすのか考えるだけでも怖い。
「数本ぐらいなら大丈夫だと思うんだけどな。虫に食われて倒れる木だってあるんだし」
「それもそうか。とりあえずトロンに、力加減が出来るか確かめないとね」
「あぁ。そうだな」
そう言えば、カリョの花畑を枯らした時、他の木々は枯れてなかったな。
花畑の横に有ったのに。
あれは偶然? それともトロンがわざと?
「トロン?」
「ぎゃっ?」
お父さんが声を掛けると、嬉しそうに返事を返すトロン。
「トロンは、吸い取る力を加減出来たりするの?」
私の質問に体を傾げるトロン。
これは、意味が伝わっていないな。
「えっと、カリョの花畑みたいに一面の花から栄養を吸い取るんじゃなくて、森の中にある1本の木だけから栄養を吸い取ることは出来る?」
「ぎゃっ」
迷いなく頷くトロン。
出来るんだ。
「すごいね、トロン」
ゆっくり葉っぱを撫でると、嬉しそうに揺れるトロン。
1本だけなら森に影響もあまりないかな。
「まぁ、森に頼るのは最終手段だけどな」
「うん、もちろん。そうならないためにもポーションを確保しないとね」
「そうだな」
ポーションが切れてトロンの体に影響が出そうになったら仕方ないけど、そうならないためにまずは紫のポーションを集めないとね。
「さて、少し休憩も出来たし頑張るか」
お父さんの言葉に、もう一度捨て場を見て回りながらポーションを集めていく。
お父さんもマジックアイテムを集め終えると手伝ってくれた。
「終わった~、マジックバッグがいっぱいになったよ。腰がいた~い」
中腰はつらい。
両手を上にあげて、固まった腰を伸ばす。
「痛いけど気持ちいい」
「あっ、今ぐぎって言った気がする」
隣で一緒に腰を伸ばしていたお父さんが、腰をポンポンと叩く。
「大丈夫?」
「あぁ、大丈夫。それより紫のポーションはどうだった?」
「えっと、待ってね。線が13本あるから、130本を集められたみたい」
「すごいな」
「うん。ただ、かなり劣化している物もあって、トロンに確認した方がいいかもしれない」
ソラたちはかなり劣化したポーションでも平気だけど、トロンが大丈夫とは限らないからな。
後で、一番劣化している紫のポーションを見せて訊いてみよう。




