475話 まずは捨て場へ
店主さんとケミアさんに挨拶をし、フォーの肉とフォルガンの肉を分けてもらいお昼前には『チェチェ』を出発した。
村から出る前に、商業ギルドで『ふぁっくす』の確認をするとおじいちゃんから届いていたので受け取る。
確認しに来て良かった。
商業ギルド職員にお父さんが、カリョの花畑を森の中で見つけた事を話すと慌てていた。
「ここ数年で中毒患者が増えていたらしい」
「そうなんだ。解決するといいね」
「そうだな」
商業ギルドを出て門へ向かう。
途中、立ち話をしている村の人の横を通る。
「聞いた?」
「なに?」
「昨日の夜に、団長とギルマスが襲われたらしいわよ」
もう、噂になってるんだ。
「そうなの? でっ?」
「あの団長とギルマスよ? あっという間に返り討ちにしたそうだけど、どうも教会に手を貸していた冒険者たちみたいなの」
そんなことまで噂になってるの?
この村の人たちってすごいな。
「え~、馬鹿なの? あの2人に手を出すなんて」
「本当よね? 団長たちに手を出すなんて、この村の救世主なのに。教会は本当に余計な事しかしないわよね」
救世主なんだ。
今度会った時に、詳しく訊きたいな。
「追い出したいわね」
ん?
「えっ? 教会を? そんな事が出来るの?」
「どうなんだろう。分からないけど、私たちを蔑ろにする教会なんてこの村にいると思う?」
「いらないわよね。そうよ、教会なんて追い出したいわ。そうしたら子供たちだって自由に遊べるんだから」
「今は、貴族だってほとんど来てないし。今なら追い出せるかもよ」
何だか、すごい会話だな。
まぁ、追い出す予定みたいだから村の人たちが後押ししたら順調に追い出せるかもしれないな。
「こんにちは、何の話?」
「教会をこの村から追い出したいねって話よ」
「えっ、何それ?」
あれ?
団長さんたちの話では無く、教会の話になるんだ。
首を傾げると、隣のお父さんが微かに笑っている事に気付く。
「どうしたの?」
「いや。……後で話すよ。あっ」
お父さんの視線を追うと、この村に来た時に対応してくれた隊長さんの姿。
「門を出るのに、時間かかったりしないよな?」
「許可証を返して出るだけだから、大丈夫だと思うけど……」
この村に来た時の様子を思い出して、少し不安になる。
「あれ? あの時の。おはよう。今日は森ですか?」
「おはようございます。出発することになりまして」
お父さんの言葉に、隊長さんが残念そうな表情に変わる。
「そうなんですか。あ~ま~……この村、色々ありますからね。仕方ないのかな?」
許可証を出すと、隊長さんが受け取ってくれる。
良かった。
すぐに出発ができそう。
「また、寄ってくださいね。今度は、もっと綺麗な村になっているはずなので」
「はい。ありがとうございます」
「ありがとう」
門を出ると捨て場へ向かう。
「あるかな? 紫のポーション」
「無いと困るな。トロンも正規品のポーションが駄目だからな」
「うん」
紫のポーションは、呪いを解くポーション。
洞窟内では呪いの石や呪いの宝箱があり被害にあう人もいるが、それほど多くはない。
また人を呪う呪詛だが、簡単な呪詛の場合は掛けた相手が病気で弱っていない限り跳ね返されてしまう。
高度な呪詛は、とても難しく修行しないとそもそも扱えないと本に載っていた。
そのため呪い自体が珍しく、紫のポーションが作られる本数は少ない。
なので、捨て場に紫のポーションが沢山捨てられる事は、ほとんどない。
捨て場で必要な分だけ拾えなかった時の事を考えて、正規品の紫のポーションを試しに1本購入しトロンに与えた事がある。
が、トロンは見向きもしない。
まさかと思い、劣化版を与えると普通に食べた。
正規品と並べてみても、トロンが選ぶのは劣化版の紫のポーション。
そのため、捨て場で十分に紫のポーションがないと、とても困る。
「アイビーは、ポーションを頼むな、俺はマジックアイテムを集めるよ。マジックバッグがいっぱいになったらポーションを手伝うから」
「分かった」
周りを見回して人の気配を探る。
そろそろ、ソラたちをバッグから出そうと思ったのだ。
「誰かこっちに来る」
気配はまだ遠く村の門の辺りだが、明らかにこちらに向かってくる人がいる。
気配が近付いて来ると、知っている気配だと気付く。
「リア副隊長さんがこっちに来てるみたい」
「彼女が?」
「うん」
何か忘れものでもしたかな?
思い当たることは無いけどな。
「いた~、隊長がこっちだというから、怪しいと思ったけど本当だった」
目の前まで来たリア副隊長さん。
「こんにちは、何かありましたか?」
「団長から伝言があって門の所で待っていたんですが、隊長に余分な仕事を任されて、少し離れたところで出発されちゃったようなんです」
何というか、すごく運が悪いよね。
「伝言とは?」
お父さんが訊くとリア副隊長さんが呼吸を整える。
「私は分からないのでそのまま伝えます。『かんち。また来い』という事です」
かんち?
それって完治の事かな?
リア副隊長さんの言い方で一瞬分からなかった。
「そうか。伝言をありがとう」
ビスさんは助かったんだ。
良かった。
「いえ、何か伝える事はありますか?」
「あ~。次来た時には、アイビーと俺に飯を奢れと伝えてくれ」
「ふふっ、分かりました。それより何か捨てに行くなら捨てておきましょうか?」
リア副隊長さんの言葉に首を傾げる。
あっ、捨て場に向かっているからゴミでも捨てに行くと思われたのかな?
いつも拾いに行っているから違和感があるな。
「いや、大丈夫。それより隊長を1人にして大丈夫か?」
お父さんの言葉に、リア副隊長さんの視線が彷徨う。
「……少しぐらいなら」
そんな心配そうな表情で言われても……。
隊長さん、いったい何をしてきたらこんな心配をされるんだろう。
「隊長が何かしでかす前に、戻った方がいいと思うぞ」
「ですが……」
リア副隊長さんが困った表情をする。
「私たちの時のような事があったら、大変なので」
切れやすい冒険者だったら大変。
「は~、そうですよね。目を離したら、いつも余計な事をするんだから」
リア副隊長さんは大きくため息を吐くと、私たちに頭を下げてから踵を返す。
律儀な人だな。
「またこの村に来てくださいね。お待ちしてます」
「ありがとう。きっと来ますね」
リア副隊長さんが戻って行く姿を見送ってから、捨て場へ行く。
「捨て場についてから、ソラたちはバッグから出そうか?」
「うん。そうする。それにしても、リア副隊長さんは大変そうだったね」
「そうだな。あれは大変そうだ」
お父さんの言葉に、笑みがこぼれる。
しばらく歩き続けると捨て場が見えてくる。
「やっぱり、この村の捨て場は少し広いね」
この村の捨て場は初めてではないけれど、改めて見ても広いと感じる。
「そうだな。拾う俺たちからしたら嬉しいが、村からしたら大問題だろうな」
広い捨て場に積みあがっている、大量のゴミ。
早くテイマーたちの認識が変わって、テイムした子たちと心を通わせられればいいのに。
そうすれば、ゴミの問題は改善されていくのだけどな。




