番外編 お父さんと弟子仲間2
「酒が飲みたい」
ポリオンの一言にビースが頭を叩く。
「俺だって我慢してんだから言うな」
「少しぐらい飲んでも、影響はないんじゃないか?」
俺の言葉に2人が睨みつけてくる。
いや、なんで睨むんだ?
少しぐらい飲んだって、2人だったら負けないだろう。
だいたいポリオンもビースも、そうとう飲まないと酔わないくせに。
「加減が出来なくなりそうでな」
ビースの言葉に首を傾げる。
少しの酒で加減が出来なくなるほど、魔石を狙っている奴らに怒りを抱えているのか?
今までの事があるにしても、少し違和感を覚える。
「何かあったのか?」
俺の質問に、2人の顔に苦渋が浮かぶ。
「少しずつ、教会を追い詰めるように動いてきた」
ポリオンの言葉に頷く。
権力を振り回す奴を相手にする場合、焦っては駄目だ。
ゆっくり、相手に動きを悟られないようにじわじわと追い込んでいくのが一番いい。
「教会に貴族が肩入れする理由が分からないから、どう動けばいいのか分からない状態だしな」
ビースの言葉にポリオンが苦笑を浮かべながら続ける。
「下手に動くと、貴族に消されるしな。厄介な問題だよ」
確かに貴族を敵に回すと厄介だ。
彼らは金さえ出せば、なんでもする奴らを抱え込んでいる。
そしてそんな奴らは、どんな卑怯な手でも使ってくる。
「黙ってひたすら耐えてきたわけじゃないんだろ?」
ポリオンの事だからな。
「まぁ、ぎりぎりばれない程度には。俺も王都に知り合いがいるしな、少しぐらいなら情報を手に入れられる」
ポリオンの言葉にビースが笑う。
「少しの情報をどう使えば相手に大きな痛手を与えられるか、かなり鍛えられたよな」
もしかして俺の噂だけでなく、他の噂も2人が制御しているのかもしれないな。
「ここ2年、貴族が来なくなった事で金銭的余裕がなくなった教会は、これまでならけっしてしない失敗をした。そのお陰で俺たちは確実な証拠を掴むことがようやく出来た」
ポリオンが微かに笑う。
「それまでは決め手にかける証拠だったからな」
ビースの言葉にポリオンが頷く。
「その証拠は?」
「ある人の元へ送った。あと少しで、教会をこの村から追い出せるはずだ」
教会の連中を捕まえるのは、証拠だけでは無理らしいからな。
村を守るためには、追い出す方法しかないか。
「そうか」
本当は捕まえたいんだろうな。
もしかして、その苛立ちで怒りが抑えられないのか?
「気が緩んだんだろう、全員の」
ビースが苦々しい表情をする。
「教会に入るビスに気付けなかった。見張りの者がいたにも関わらず」
ビス……教会が探している少年だったな。
「ビスという少年は何をしたんだ?」
俺の質問に2人は首を横に振る。
「それが分からない。ただ、教会の連中がかなり焦っていたのは確かだ。金を持ち逃げしたと言ったが、ビスがそんな事をするはずがない。彼はとても正義感の強い優しい少年だから」
ビースの知り合いなのかな?
「彼は今も逃げているのか? 森ではなく村にいるんだろう? なら誰かに匿ってもらっている可能性も――」
「それだったら良かったんだが、教会の手の者に見つかったんだ」
えっ?
「そうとう抵抗したのか、見つけた時はひどい有様だった」
「……亡くなったのか?」
俺の言葉にビースは首を横に振る。
それに少しほっとする。
「やった奴は?」
「4人、その場で捕まえてある場所に入れてある」
ある場所という事は、正規の牢屋ではないな。
「瀕死状態だった。一瞬、このまま静かに見送った方がいいかと迷ったほどだ。だが、ビスが俺の手を握ったんだ。だから助けた。なのに何をされたのか、ビスの魔力が体の中で暴れていてポーションの効きが悪いんだ。今もまだ魔力が安定しない。そのせいでわずかに残っていた体力まで削られて、今ではポーションもほとんど効かない状態になってしまった」
「苦しい時間を伸ばしただけになったんだよ」
ポリオンがビースの肩を叩く。
「あいつらビスから何か聞き出すために拷問しやがった」
ビースが拳で机を打ち付ける。
「落ち着け」
何かを聞き出す必要があったから生きていた。
だが、本人にしたらいい事ではないな。
ポーションが効かないほど体力が落ちているなら、もう手の施しようがない。
だが……、
「ドルイドを狙っている奴らは、ビスを探していた奴らと同じだ。実行犯は既に確保してあるからな。まぁ、教会に手を貸した奴らだ。これまでの鬱憤も晴らさせてもらう」
怒り狂うのは当たり前だな。
ビスに手を出した奴らは、既に生きていないかもしれないな。
いや、こいつらの事だ。
生きてはいるな。
どんな状態であれ。
「そろそろ時間か?」
ポリオンの言葉にビースが、部屋の扉から出ていく。
しばらくして戻ってくると、俺に向かって頷く。
どうやら、俺を襲う準備は終わったようだ。
「もしかしたら、ドルイドの方にも行くかもしれない。その、どれくらい戦えるんだ?」
ビースが腕があった場所を見る。
そして、悲しそうな表情を見せる。
「普通に戦えるから気にするな。ただ、戦い方が少し変わったな」
片腕での戦いにも慣れてきたが、敵が多い場合や戦い方によってはまだ不安がある。
そのため、先手必勝とこちらから仕掛けて相手を確実に倒す戦い方に変わった。
相手の力量を見る前に攻撃を仕掛けるので、昔に比べると……戦い方が強引になったかもしれないな。
「そうか」
ポリオンもどこか腕を見てぎこちない返事をする。
「知ってるか?」
「なにがだ?」
俺の言葉に、ポリオンもビースも不思議そうに俺を見る。
「この腕だと、何も出来ないと勝手に思って加減してくれるんだ。意外と役に立つんだぞ」
「……ふっ、そうか」
ポリオンが笑うとビースも一瞬、唖然としたが苦笑を浮かべた。
何を利用したとしても無傷で勝つ。
俺が傷つくとアイビーが悲しそうにするからな。
「なんだ、片腕でも大丈夫だったのか。だったら冒険者に戻らないか?」
ビースがニヤニヤと笑いながら誘ってくる。
「それは断る」
こいつはまた……。
「残念。こき使ってやろうと思ったのに」
ビースの言葉に、ため息を吐く。
「お前は本当にしそうだよな」
「当然。ギルドの隠し玉、次はハタル村で活躍!」
ビースの言葉に、再度ため息を吐く。
そう言えば、一緒にいた時からこいつと話すとため息が多くなるんだよな。
本当に相変わらずだ。
「いつ頃、出発する?」
ビースの質問に少し考える。
準備はしてきたが、万全ではない。
捨て場でポーションの確保も必要だ。
「明日の……」
急げば、お昼までには準備が終わるか?
「時間までは決められないが、明日中には出発する」
「分かった。ポリオン」
「分かっている。それまで貴族の動きをしっかり把握しておくし、動きがあれば俺が対処する。数日は足止めが出来るから、急いで怪我なんてするなよ」
「了解。ありがとう」
椅子から立ち上がり、剣を肩から下げる。
マジックバッグに入れた魔石を確認し、中に入っているポーションを掴む。
ソラのポーション。
何かあった時のために、小さな瓶に入れて持ち歩いている。
普通のポーションではすぐに劣化するが、ソラのポーションはそれがない。
アイビーに相談する前に渡して良いものかどうか……。
「どうした?」
ビースが首を傾げながら俺を見る。
ビースにビスか、きっとこの村周辺で昔人気のあった冒険者から貰った名前だろうな。
確か、ビリースだったかな?
「ビース、彼はまだ生きているんだな?」
「えっ? あぁ、ここに来る前に見てきた時は生きていた。明日まで持たないと言われている」
「明日までか。……何も聞くな。俺も何も言わない」
「ん?」
マジックバッグから取り出した小瓶をビースに押し付ける。
「これは? 随分綺麗な……なんだ?」
「青のポーションだ」
俺の言葉にポリオンとビースが小瓶を見つめる。
「ドルイド、これ――」
「ありがとう」
ポリオンの言葉を遮りビースはお礼を言うと、小瓶をマジックバッグに仕舞った。
「あっ……はいはい。よしっ、それならとっととビスの所に行かないとな。時間を無駄には出来ないぞ」
「当たり前だ。とっとと終わらせる」
3人で店を出る。
「悪いな、昔のよしみで貰っちまって」
ポリオンの言葉に、一瞬言葉が詰まる。
やるなら、言っといてくれ!
「いや、この村が大変そうだったからな。あの魔石が役立つなら嬉しいよ」
ただ、こんな馬鹿な芝居に引っかかるのか?
不安になり、ビースを見るとにこやかに頷かれた。
どうやら引っかかるらしい。
「頑張れよ」
「ドルイドも、落ち着いたらまた遊びに来てくれ。今度はゆっくり出来るようにしておく」
2人と別れると、少し急ぎ足で宿に向かう。
途中で殺気を感じたが、どうやらこちらには来なかったようだ。
しかし、あんな殺気を駄々洩れにして襲うのか?
ここにいるとわざわざ主張してから襲っているようなモノなんだが……。
「心配したが。あれだったらそれほど時間を掛けずにビスの元へ行けそうだな」
さて、帰ったらアイビーを起こして説明して、出発だな。
それにしても、ハタカ村からなんだか慌ただしいな。
次の村ではゆっくりしたい。




