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番外編 お父さんと弟子仲間

招待を受けた店の前で1つ深呼吸をする。

ポリオンやビースとは、5年以上会っていなかった。

2人の性格は知っているし、そうそう変わると思っていない。

だが、人は切っ掛けがあれば変わる事も知っている。

少し警戒した方がいいだろう。


「いらっしゃいませ」


店に入ると、年配の女性が対応してくれる。


「待ち合わせをしているのですが」


「あぁ、団長さんたちですか?」


「そうです」


「それなら、奥の個室です。もう来てますよ」


女性に頭を下げて奥へ進む。

綺麗な店で、夕飯には少し早い時間なのに既に席は埋まっていた。

どうやら人気の店のようだ。


「おっ、来たな」


「本当にドルイドだ。久しぶりだな」


「久しぶり……ビース、その傷……」


「すごいだろ?」


ビースが頭に手を乗せて、笑みを見せる。


「あぁ」


ビースのスキンヘッドの頭には、後ろから前に掛けて大きな傷跡があった。

女性に好かれる優しい顔をしていたので、どうにも違和感を覚えるな。


「さすがにこの傷を負った時は死ぬかと思ったけどな、何とか生き残れたよ」


「そうか」


5年会わないと色々あるんだな。


「座って飲もうぜ」


ポリオンの言葉に2人の前に座る。


「料理は適当に注文したが、良かったか?」


ビースの言葉に、頷いて返事をするがどうしても傷跡が気になる。

これだけ大きな傷跡だ、そうとう危なかっただろうな。


「ドルイド」


「なんだ?」


「俺の頭の傷を気にしてるが、俺はお前の片腕が気になるからな」


……そう言えば、俺もビースの事は言えなかったな。


「まぁ、魔物にやられた」


「だろうな。俺もだ」


ビースの返答に笑いがこみあげる。

何を当たり前の報告をしているのか。


「ひどい怪我はしたが、生き残れて良かったよ」


ビースが嬉しそうに笑う。


「そうだな」


「それにしても、ドルイドが子持ちか。奥さんは?」


「結婚はしていない。アイビーとは血は繋がっていないんだ」


ビースの言葉に首を横に振る。


「そうなんだ。似てないなと思ったんだよ。可愛すぎる」


ポリオンの言葉に苦笑する。


「あぁ、可愛いだろ?」


「将来が心配だろ?」


「まぁな。だが、俺より強い奴なら任せられると思っているよ」


「どんなデカい壁だよ」


俺の言葉にビースが呆れた表情を見せる。


「力はある程度必要だろ」


「ある程度? ……アイビーちゃんだっけ。これから大変だな」


ビースが肩を竦めるが、譲れない事もある。

しばらくすると料理が運ばれてくる。

机に所狭しと並べられる料理に、小さく笑ってしまう。

弟子だった当時も驚くほど食べたが、今も変わらないようだ。


「年をとっても食べる量は変わらないのか?」


「まだそんな年寄りじゃねえよ。それに団長として走り回っているんだ。食わないとやっていけない」


まぁ、そうだろうな。


「ポリオンが団長か。変われば変わるモノだな」


「俺が一番驚いてるよ。それでドルイド、剣――」


「ちょっと待て」


ポリオンが話し出そうとするとビースが慌ててマジックバッグからマジックアイテムを取り出す。

机の上に置くとボタンを押す。


「悪い。まだ用意してなかったのか?」


ポリオンがビースに小さく頭を下げる。


「料理が来るからな」


「そうか」


机の上に置かれたのは、部屋の外に会話を漏らさない機能がついた馴染みのあるアイテム。

ボタンが押されたので、既に機能は動いている。


「それで話を戻すが、剣を見せてもらえるか?」


「あぁ、どうぞ」


見せる為に持って来ていた剣をポリオンに渡す。

少し迷ったが、自分の勘が2人は大丈夫と伝えるので信じる事にした。


「すごいな、この魔石」


ビースがポリオンの隣から魔石を見て、驚いている。

まあ、近くで見るとその美しさに目を見張るからな。


「……ドルイド。旅の準備は終わっているか?」


「えっ? あぁ、とりあえずは」


なんだ、急に。


「そうか。明日にでも出発しろ」


ポリオンの言葉に唖然と彼を見る。

隣でビースも頷いている。


「なぜだ?」


「この村に寄生している奴らが、この剣の事を耳にしたようだ」


ポリオンから剣が戻ってくる。

寄生……教会の連中か?


「教会の連中か?」


「教会に守られている冒険者を名乗る屑だ」


そう言えば、下位冒険者の中に教会側の者がいるとか、聞いたな。


「俺の権限で下位冒険者に据え置いているが、色々教会がうるさくてな」


ポリオンが大きなため息を吐く。

そうとう、口を出されているようだ。


「屑どもが教会の連中に何か言えば、また騒ぐからな。巻き込まれる前に出発しろ」


「そうか。分かった」


少し警戒したが、大丈夫そうだな。

あっ、もしかして。


「魔石の出所を聞いたのはわざとか?」


「まぁな。ドルイドの持っている魔石が1つだけなのか、それとも魔石の取れる場所を知っているのか。屑どもが気にしているようだったからな。下手に隠すと馬鹿な事をするのはこれまでの経験上で分かっていたから、ドルイドに協力をしてもらう事にした」


「なるほど」


協力というか、知らない間に巻き込まれたんだが……。


「あの屑どもは、けっして仲がいいわけではない。魔石が1つなら、間違いなく足の引っ張り合いですぐにはドルイドには向かわない。もし見つけた場所が分かっているなら、合図を送るつもりだった」


「合図?」


「あぁ、昔使った合図だ。覚えてるだろ?」


「……たぶん?」


「使わなくて良かったかもしれないな」


「あぁ」


ポリオンとビースがちょっと呆れたように俺を見る。

いや、仕方ないだろ。

合図なんて何年も使ってないし……。


「本当は、何か知らせてからと思ったんだが。屑の何人かが近くで魔石を見たみたいでな、すぐに行動を起こそうとした。言い訳になるが、焦って無理やり巻き込んだ。悪い」


「大丈夫だ」


今思えば、あんな無防備なところで普通は訊かないよな。

というか、誰かが聞いていたのか?

気付かなかったが……あっ、違うか。


「店主とリア副隊長を利用したのか? 彼らに噂を流させるように」


魔石の事を気にしている者が多いなら、噂はすぐに広がるはずだ。


「リアはポリオンの思惑に気付いて、率先して噂を流してたよ。楽しそうに」


ビースが楽しそうに笑う。


「あぁ、そのお陰で今日の昼頃にはかなり思った通りの噂が流れていたな。これで魔石は1つになった。屑どもを見張っている奴の話では、誰がどうやってドルイドから魔石を奪うかで喧嘩をしているそうだ」


「さすがだな。で、今日のこのお誘いか」


「そう。剣に魔石が無かったら?」


なるほど、この店から出る剣に魔石が無かったら、持っているのは団長かギルマスだと予想する。


「大丈夫なのか」


まぁ、あまり心配はしていないが。

でも、もしもという事がある。


「あの屑どもと、どれだけ付き合ってきたと思う? 対処法はばっちり。それに、これを機にちょっとな」


ポリオンが冷ややかな表情を一瞬見せる。

これはそうとう鬱憤が溜まっているな。


「俺もちょっと暴れてみようかと。そろそろ躾をしないとな」


ビースの表情を見て、背中に冷たいモノが走る。

こいつは優しい顔して、やることが残酷な時があるからな。

その屑たちは何をしたんだか。


「それならいいが」


剣から魔石を取って、腰に下げていた小さなマジックバッグに入れる。

これで、準備は完了。


「すぐに出た方がいいのか?」


「いや、合図があるまで待ってほしい。それに少しじらした方がいいだろう」


ビースの言葉に頷く。


「屑どもは何とかするが、貴族が来ているからな。何か言われてからでは面倒になる。出発は急いでくれ」


「分かった」


「相談もせず巻き込んで悪かった」


ポリオンの言葉に首を横に振る。

馬鹿な事をすると言った。

一番考えられるのは、アイビーを人質にとることだ。

守ってくれたのだから、謝る必要はない。


「あっ、もしかして魔物について漏らしたのもわざとか?」


ポリオンを見ると、少し顔が赤い。

どうやら違うようだ。


「ドルイドに会えたのが、嬉しくて……ぽろっと。はははっ」


ビースが呆れた表情でポリオンを見ている。


「聞いていいのか分からないが、フォルガンは魔物を組み合わせて作られたのか?」


「あぁ。そうだ」


ビースがため息を吐きながら頷く。


「この村にいる上位冒険者の1つが、この問題の解決のために王都から来たチームだ」


冒険者チームが派遣されていたのか。

それってかなり大事だよな。


「王都でも重要視されているって事か?」


俺の言葉に、頷く2人。


「あまり深入りしないようにしているよ。問題は教会だけで十分だ」


ビースが苦笑を浮かべる。


「あ~、そうだな」


教会だけでも色々ありそうだしな。

俺も、関わりたいと思ったわけではない。

ただ、旅をするのにフォルガンの危険度を知りたかっただけだ。

戦い方も分かったし、フォルガンの特徴もある程度掴めた。

これ以上は、必要ないかもしれないな。


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― 新着の感想 ―
やっぱ団長クラスになると色々と食わせもんになるんだな。あれ?っと思ったら手のひらだよw
[気になる点] あの麻薬の花畑は関係ないのか?
[良い点] 団長さん良い人だった。 [気になる点] 今後は剣の魔石が誰かに見られるだけで危険?アイビーちゃんを守る力が使えなくなりますね。ソラたちが気落ちしそうで困りましたね。 というか魔石が無くて…
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