表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
507/1159

471話 嫌な予感

コンコン。


「誰だろう?」


お父さんはまだ寝ているんだけど。


「誰ですか?」


扉に近付き、外に向かって小声で話す。


「ごめんなさい。今、大丈夫ですか?」


この声はリア副隊長さん?


「はい。ただ、お父さんがまだ寝ているので」


「あっ、ごめんなさい。ドルイドさんに少し話があったのだけど、起きたら私に声を掛けてもらっていいかな?」


話?


「どんな話ですか?」


「団長が、昨日の事でお礼が言いたいから会いたいと言ってまして」


あ~、昨日の事か。

どうしよう。

お父さんの様子から、あんまり関わりたくなさそうだったし……。

でも、これって断ってもいいのかな?

どうしよう。


「あっ、会いたくなかったら断ってくれていいので。えっと、ドルイドさんが起きたら『自警団の団長が会いたがっている』と言ってもらえるかな? 会うか会わないかは2人で相談して決めてもらえればいいので」


断ってもいいんだ。


「それだったら、分かりました。起きたら伝えます」


「ありがとう。今日は私休みでチェチェにいるから、いつでも声を掛けてくださいね」


「分かりました」


「朝早くからごめんね。ゆっくり休んで」


扉から離れる足音を確認してから、扉から離れる。

そっとお父さんを窺うと、まだよく寝ている。


「よかった」


「ぷ~」


ソラが心配そうに私を見ている。

よく見ると、シエルも起きているのが分かった。


「大丈夫。ちょっと話があっただけだから」


私の言葉に、ソラが寝直すのが分かった。

シエルは私が椅子に座ると、膝に飛び乗ってきた。


「おはよう。よく寝れた?」


「にゃっ」


静かに話しながら、窓から外を見る。

昨日のフォルガンの襲撃が嘘のように普通の朝。


「慣れているんだね」


何だかそれに違和感を覚えるな。

まぁ、慣れるしかないんだろうけど。


「大変だよね。他の村では魔物除けが効いて村の中は安全なのに。ここでは違うんだから」


それにしてもいいお天気だな。

窓から入ってくる光がぽかぽかして気持ちいい。


…………


「アイビー、アイビー。ここで寝ると体が痛くなるぞ」


あれ?

パッと目を開けると、目の前にお父さん。

膝の上にはシエル。


「あっ、寝てた?」


「あぁ、寝られなかったのか? どこか体調でも悪いのか?」


「ふふっ、大丈夫。外を見てたら寝ちゃったみたい」


シエルを机の上にのせて、立ち上がって体を動かす。

椅子の上で寝たせいか、ギシギシいっている。

あ~、首が痛いかも。


「あっ、そうだ。リア副隊長さんが待ってるんだった」


「待ってる?」


私の言葉に不思議そうな表情のお父さん。


「団長さんが、昨日のお礼を言うために会いたいんだって。リア副隊長さん曰く、断ってもいいそうだよ」


「団長が? お礼のために会う?」


「昨日、フォルガンの襲撃を防いだからじゃないの?」


「それだけでわざわざ団長が会いに来るのか? 他に何かありそうだな」


「他に? お礼のために会う事は珍しい事なの?」


「お礼を言われる事はあるだろうけど、わざわざ会いに来るのは珍しいだろうな。何かあった時に、冒険者が手助けするのは決まりなんだし」


「お父さんが冒険者じゃないから?」


「いや、それぐらいでは団長自ら会いには来ないだろう」


言われてみれば、団長が出てくるのは少しおかしいかな?

何かありそうとお父さんは思っているけど、なんだろう?


「会いたくなかったら、断ってもいいってリア副隊長さんが言ってたけど」


「お礼を言いたいと言っているだけなのに、断るのはおかしいよな」


そうなんだよね。

お礼だと言っているから、断りづらいんだよね。


「断れないように、言葉を選んでいるよね。この村の団長さんも、いい性格してるのかも。もしかして既に下に居たりして。ふふっ」


「「…………」」


あれ?

なんだかすごく嫌な予感がする。


「まさかね?」


「俺もそう思いたいが。団長という立場に就く奴は、食えない奴が多いからな」


苦虫を噛み潰したような表情でお父さんが言う。

何か色々過去がありそうだな。


「はぁ、仕方ないか。まぁ、もしもの時はフォロンダ領主の名前を出すか」


「名前出しちゃって、いいのかな?」


「何かあれば、名前を出していいと言われていただろ?」


「そうだけど」


何だかいいように使うみたいで、嫌だな。

悪い事をしているみたいな気分になる。


「もし使ったら、『ふぁっくす』で使った事を伝えて謝ろう。使いましたごめんなさいって」


「うん。そうする」


「話は変わるけど、もう昼前なんだよ。屋台で何か買ってこようか?」


「屋台か……。私は、おにぎりがいいや」


起きたばかりだから、そんなに食べたいと思わないし。


「そうか? だったら俺もおにぎりにしようかな。あの小さい肉が入ったおにぎりが気になっていたんだよ」


「じゃ、準備するね」


「俺がしておくから、顔洗っておいで」


「分かった。よろしく。あっ、ソラたちのご飯!」


「大丈夫、終わってるから」


「ありがとう」


顔を洗って着替えて部屋に戻ると、机の上にはお茶と大量のおにぎり。

その中から塩だけを使った、塩おにぎりを取って食べる。


「塩だけのおにぎりをよく食べてるよな」


「お父さんには薄い味なんだろうけど、私はこの味が好きなんだ。それにしても、お父さんは朝からガッツリだね」


お父さんが好きなのは、肉がゴロっと入った焼肉おにぎりか、肉を細かく切ってご飯に混ぜてから握った混ぜご飯おにぎり。

どちらも肉にしっかりと味をつけている。


「美味いよな。これだったらいくらでも入りそう」


もう少し作っておいた方が良かったかな。

確か100個は作ったはずだけど……。


「ごちそうさま」


私から少し遅れてお父さんも食べ終わる。


「は~、食った。ごちそうさま」


朝からおにぎりを12個も食べたお父さん。

やっぱり、もう少し作っておけば良かったな。

次は200個にしよう。


「さて、リア副隊長に会いに行こうか」


「うん」


「ちょっと1階に行ってくるな。何かあったら隠れてくれ」


「ぷっぷぷ~」


「てっりゅりゅ~」


「にゃうん」


「ぺふっ」


「ぎゃっ」


皆の元気な声を聞くと、元気になるね。


「「行ってきます」」


部屋を出て鍵をしっかりと閉めると1階へ降りる。


「だ~か~ら~。ちゃんと説明するから、今は帰れと言っているんです! この分からず屋!」


階段を下りていると、食堂からリア副隊長さんの怒鳴り声が聞こえてくる。

お父さんと視線が合うと肩を竦めた。


「嫌な予感しかしないな」


「そうだね」


食堂に向かうと、声はどんどん大きくなる。


「会うと許可をもらってないうちから来てどうするんですか! 馬鹿なんですか?」


やっぱり団長さんか。


「リア、俺は一応君の上司なんだけど」


自分で一応というのは駄目だよね。


「それが何か?」


うわっ、リア副隊長さんの声が一段と低くなった。


「入りづらいね」


「そうだな。とはいえ、ここにいるのもな」


「うん」


コンコン。


「失礼。おはようございます。リア副隊長」


お父さんを見たリア副隊長さんが、椅子に座っている男性の前の机をバンと両手で叩く。


「あ~、ほら来ちゃったじゃないですか! クソ団長」


「リア、どんどん口が悪くなるな。誰のせいなんだろう?」


「胸に手を当てて考えたらどうですか? 団長?」


「はいはい……特には何も?」


この団長さん、かなり曲者だ。

リア副隊長さんと話しているのに、食堂に入った私たちをしっかり確認してる。


「かなりやり手だな」


無事に出発出来るかな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
7歳(本当は9歳)の小さな手で握ったおにぎりは、ピンポン玉くらいなんだろうな。 お父さんペロリといけちゃう
[一言] 魔物退治に手を貸した時点で引き返す事が出来ないほど関わってしまっているのだからもう覚悟決めるしか無いよなあ、二人ともガンバレ~。
[気になる点] なんで二人は言い争ってる厄介ごとに突っ込んだのか 普通に一回部屋に戻って相談してもいいだろうに… こう、「どうせ何とかなる」って致命的な怠慢を感じる [一言] 表向き魔石についてか、臨…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ