469話 危ないから駄目!
「お父さん、大丈夫かな?」
「にゃうん」
シエルを見ると、ベッドで寝そべっている。
その、のんびりした態度を見ていると大丈夫な気がしてくるけれど、最初の爆発音から20分。
壁での攻防が続いているのか、爆発音がずっと鳴り響いている。
「音を聞いていると緊迫しているのに……ソラたちはなんでそんなに寛いでるの?」
大丈夫だと思っているのかな?
あっ、音が止んだ?
「音が止まったね。終わったのかな?」
お父さんは無事かな?
窓から壁がある方角を見ると、煙があちらこちらから上がっているのが見えた。
「リア副隊長さんやケミアさんも討伐に参加したのかな? 怪我をしてないといいな」
貴族の事があるから、外へは行かないほうがいいのは分かる。
ただ待つというのは、結構苦痛だな。
これだったら、一緒に行った方が……いや、私は戦えなかったんだ。
間違いなく足手まといだ。
「う~ん。何度か挑戦して剣を練習しても、皆が口をそろえて止めた方がいいって言うし……」
まぁ、その原因は私なんだけど。
体に合わない大きさの剣を持っている時は剣のせいだと思っていたんだけど、体に合う大きさの剣を持って練習したのに、自分の足に剣を刺しそうになったんだよね。
それを見たお父さんに、一瞬で剣は取り上げられてしまった。
そのあと用意してくれたのは短剣で、何かあった時に身を守るための剣だって何度も言われた。
つまり、自ら戦おうとするなって事だよね。
剣とは相性が悪いんだろうな。
「あっ、違う武器ならどうだろう?」
「ぷっ?」
「ぎゃっ?」
私の声に反応して、ソラとトロンが私を見る。
ソラの頭を撫でると嬉しそうにプルプルと体を震わせる。
トロンは……そっと葉っぱを撫でると、3枚の葉っぱがプルプルと揺れた。
「戦うのにね、剣は相性が悪いから他の武器に挑戦してみようかと思って」
「にゃ~」
シエルの声に視線を向けると、首を横に振られた。
頷いたり、首を横に振ったり、意思がはっきりと伝わるようになった。
それは嬉しいけど、今のって……。
「私ではどんな武器も駄目って事?」
「ぷ~」
……ソラに頷かれた。
「弓ならいけそうじゃない?」
どうして皆で首を横に振るかな。
魔物に近付かないようにすれば、安全だし。
「あっ、もしかして……戦っているお父さんに刺さるかもしれないって考えてるの?」
「てりゅ」
「……フレム、嬉しそうに頷かないで」
でも確かに、そんな事が起こる可能性を捨てきれないよね。
他には思いつく武器は盾かな。
でも盾は絶対に無理。
筋肉もついてない私が扱える武器じゃない。
魔法は魔力が無いので、考えるまでもないし。
えっと他の武器は何があったかな。
「槍に斧だ。そう言えば、手に巨大な爪みたいな物をつけて戦っている人もいたな」
あれは、なんだったんだろう?
まぁ、今はそれが問題ではないんだけど。
どの武器を思い出しても、私が上手く使いこなせる想像が出来ない。
「武器は諦めた方がいいのかな? 体力はあるのにな」
食事量が少なかった時から、1日中歩く体力はあった。
お父さんには驚かれたけど、休憩を入れながらなら問題なく1日歩けた。
今は食事量も増えたので、休憩の回数を減らしても大丈夫になった。
「あっ、冒険者たちが戻ってきてる」
窓から冒険者たちの姿がちらほら見えだした。
ここから見る限り、大きな怪我をしている様子は無い。
お父さんを探すが、なかなか見つからない。
「あっ、いた!」
「ぷっぷぷ~」
私の言葉に、ソラが窓から外を見て嬉しそうに鳴いた。
「良かった。怪我はしてないみたい」
防具に少し汚れが見えたけど、パッと見た感じでは血は出ていない。
「お茶の準備でもしておこうかな。熱いのでいいかな?」
でも、いっぱい動いたなら冷たいお茶の方が良いかもしれないな。
下で貰ってこようかな。
コンコン。
あっ、帰ってきちゃった。
「はい」
「アイビー、ただいま」
「おかえり」
扉の鍵を開けると、少し疲れた表情のお父さんが部屋に入ってくる。
「あっ、シエル」
小型版のアダンダラになっていた事を思い出して、シエルを見る。
が、既にスライムになっていた。
「いつの間に……」
「どうした?」
「シエルが元の姿に戻って守ってくれていたから」
「そうか。シエル、ありがとうな」
「にゃ~」
シエルが嬉しそうに体を揺らすと、ソラとフレムがお父さんの足に体当たりする。
「こら。疲れているから駄目だよ」
私の言葉に、ソラとフレムが心配そうにお父さんを見つめる。
「心配してくれるのか?」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ありがとう」
お父さんがソラとフレムを撫でていると、すっとフレムの隣に並ぶソル。
気付いたお父さんがソルを撫でると、満足そうな表情をした。
「お父さん、冷たいお茶を貰って来るね」
お父さんを見ると、かなり汗をかいているのが分かった。
今も暑そうな表情をしている。
「わざわざ悪いな。あっ、店主が風呂を準備してくれたらしいんだ。入ってくるよ」
「分かった。ゆっくり入ってきて。その間にお茶は貰っておくね」
「ありがとう」
お風呂の準備をして部屋を出るお父さんに付いて、一緒に一階に降りる。
「なんだろう? ちょっと騒がしいね」
一階に降りると、お昼にフォーを食べた場所に人が集まっているのが分かった。
そして、そこには巨大な魔物。
「もしかしてあれがフォルガン?」
「あぁ、まさか貰って来たのか?」
フォルガンの近くには嬉しそうに笑うケミアさん。
「ケミアさん嬉しそう。今日の夕飯には間に合わないだろうから、明日かな?」
ちょっと筋っぽいと言っていたよね。
やっぱり煮込み料理に使うのかな?
「今から楽しみ」
「そうだな。そう言えば、ケミアはあの見た目からは想像が出来ない戦いぶりだったぞ」
「そうなの?」
「あぁ、戦い方がとにかく派手だった」
お父さんがケミアさんを見て苦笑を浮かべる。
戦い方が派手って何だろう?
……想像がつかないな。
「あっ。ドルイド、お疲れ様。強いから驚いちゃったわ」
「俺は、フォルガンに単身で突っ込んでいくケミアに驚いたけどな」
えっ、フォルガンに単身で突っ込んだの?
うわっ、豪快だな。
「ふふふっ、あの戦い方が一番好きなの。そんな事より、あんな強力な魔石の力を操る剣を見たのは初めてだったわ。フォルガンのあの厄介な攻撃をどんどん爆発させていくし」
爆発?
「あれは俺も驚いたよ。まさか爆発を起こすとは思わなかったから」
もしかして、あの爆発音を引き起こしたのはお父さんが持っている剣の魔石?
「でも、あの魔石すごいわよね。よく途中で魔力切れを起こさなかったと思うわ。普通、あれほどの攻撃をしのいでいたら、途中で使い物にならなくなるのに」
「あ~、まぁ運よく見つけた魔石で、まだよく分かっていないんだ」
「そうなの? でも、貴族には気を付けてね。あいつらは人の物も自分の物だと妄言を吐くから」
「あぁ、分かってる」
肩を竦めるお父さんにケミアさんが苦笑を浮かべる。
この村ではそうとう貴族が嫌われているな。
まぁ、仕方ない事だけど。
ケミアさんと別れて、お父さんはお風呂に行き私は調理場にお茶を貰いに行く。
「店主さん、冷たいお茶を頂けますか?」
「構わないぞ。そっちのマジックボックスに冷やしてあるから」
「ありがとうございます」
店主さんが指したマジックボックスを開けて、冷えたお茶を出すと部屋に戻る。
途中でケミアさんの解体をちょっと見たけど、大剣を振り回していたのには驚いた。
あの大剣を持ってフォルガンに単身で突っ込むとは、お父さんの言う通り派手かもしれない。
というか、細いのにすごいな。