465話 本当に屑だ!
食事が終ったので、部屋に戻りお茶を入れる。
「お父さん、野菜は問題なかった?」
「あぁ、書いてあった野菜は全て手に入ったよ。こめも大丈夫だ」
良かった。
これで作り置き予定の料理が全て作れる。
「今日のハンバーガーの肉だけど、前と違ったな」
「あ~……量が多くて、途中で挫折したの。前の方が良かった?」
大量の端肉に頑張ったんだけど、腕がつら過ぎて途中から少し大きく切ってしまった。
それでも頑張って小さく切ったんだけどな。
「いや、前のより肉感があって俺はこっちも好きかな」
「本当?」
「あぁ、それに前の時より肉に厚みがあったよな」
「うん。ケミアさんにもっと厚くしてほしいって言われて」
薄くお肉を伸ばすと、すごく悲しそうな表情をして訴えられた。
お肉はもっと厚みがあった方が美味しいと、あまりの懇願に希望通り厚くしてしまった。
それでも前の時の2倍ぐらいに抑えたけど。
ケミアさんが作ったら、もっと厚くなるんだろうな。
「そうか。ガッツリ食べたい時はあれぐらい厚みがあってもいいな。でも旅の途中で食べるなら、前の薄い方が体が重くならなくていいだろうな」
確かに旅のお昼として食べるのなら、薄いお肉に野菜を多めにした方が体が動きやすいかな。
塊りの肉じゃなくても、肉の量が多くなると体が重く感じて疲れやすくなるもんね。
でも、ガッツリ食べたいときもあるだろうし……、
「ハンバーガーは2種類作っておこうかな」
私の言葉に嬉しそうにするお父さん。
本当にハンバーガーが好きらしい。
ここまでいい反応するのは牛丼もどき以来かな?
……少し多めに作っておこう。
「あっ、そうだ。店主に頼まれたんだけど、牛丼を作って欲しいらしい」
「牛丼?」
「こめを買っただろ?」
「うん」
「何に使うのか聞かれたから、食べるんだって言ったら興味をひかれたみたいだ。ほら、こめって安いから」
それってケミアさんに掛かる食費でだろうか?
まぁ、こめが食べられるなら今より少し食費を抑えられるとは思う。
「料理の説明をしながら話したら、牛丼が気になるみたいで」
「分かった。作り置きの分を作る時に一緒に作ったら手間が無くていいんだけど、それでいいかな?」
「あぁ、それで十分だろう。あと、調理場は明日の朝食後なら自由に使っていいそうだ。野菜は今日の夕方には全て揃うから」
なら明日は1日中、料理三昧だね。
久々に思う存分料理が出来る。
旅の道中では無理だからね。
「分かった。楽しみだな」
「俺も出来る事はするから、なんでも言ってくれ」
「ありがとう」
作る順番を考えておこう。
大量に作る時は、時間を無駄に出来ないからね。
「あと、森に捜索隊として出ていた冒険者たちが戻ってきたのを見たよ。成果は無かったらしい」
やはりビスさんは、森にはいないと考えた方がいいだろうな。
「教会の奴らも村に居る可能性に気付いたみたいで、冒険者ギルドに村の中の捜索を依頼したらしいが、揉めて最終的に断ったそうだ」
「断った?」
「教会の奴らが、村の捜索など意味がない、家の中を片っ端から調べろと言ったらしい。無理だと断ったら、冒険者ギルドの権力を使えとか、まぁ、色々言ったらしい」
「うわ~、すごい人達だね」
「あぁ、さすがのギルマスも切れて村の捜索もしないと断言したそうだ」
「教会の方たちは大人しく帰ったの?」
そうは思えないけど。
「いや、犯罪者を匿うのかと冒険者ギルドで大騒ぎだったらしい」
予想を裏切らない人たちだな。
「大騒ぎしたのは司祭と司教?」
ハタカ村で知った事もあるから教会には良い印象はないけど、それにしてもひどい。
何というか、最低の場所に集まった最低な人たち?
「この村には司祭が2人いるそうなんだが、そいつらだそうだ」
「この村には、司祭が2人も居るんだね」
この村の教会は、やっぱりちょっと変わってるな。
大きな町や村以外は、教会には1人の司教と1人の司祭が普通なのに。
この村の規模から考えると、司祭は1人で十分のはず。
貴族が来るから2人なのかな?
「あまりの騒ぎように、ギルマスは少年が犯人だとする証拠を持ってきたら、村の捜索を行うと譲歩したらしい」
証拠か。
というか、証拠を持ってきたらって……ビスさんが犯人にされたのはどうしてなんだろう?
「どうしてビスさんが犯人だとされたんだろうね」
「教会の奴らが逃げる人影を見たらしい」
目撃証言か。
「他には?」
「無いそうだ」
「ん? 目撃証言だけ? しかも教会関係者の?」
「そう。自警団が調べても、少年が犯人だという証拠は一切見つける事が出来なかったので、『自警団は協力しない』と、団長たちが言っているらしいと噂になっていたな」
何だか、噂にしては違和感を覚えるな。
なんでだろう?
「まぁ、この噂は恐らく自警団が意図的に流したんだろうな。村の人たちに向かって」
村の人たちに意図的に?
「それって、ビス少年を匿っても罪にならないという事なのかな?」
「そうかもしれないが、ただの噂だから」
「噂」
「そう、噂。だから『彼が犯罪者だという証拠はない』と自警団が判断しているかもしれないのも噂。噂は真実じゃない事もあるし、真実の可能性もある」
教会には貴族が訪れているから、目立って何かすれば貴族がしゃしゃり出てくる事が予想される。
それを回避しながら、ビス少年を守る方法が噂なのかな。
「そうだ。教会について少し調べてきた」
「大丈夫? 関わらないほうがいいのに」
「まぁ、そうだけど。何も知らないというのも恐ろしいからな。危険が及ばない程度にしか調べてないから大丈夫だし」
そうだけど、危険な事はしないで欲しいな。
そう言えば、お父さんってどれくらいの冒険者だったんだろう?
……あれ? 聞いた事あったよね?
たしか、中位冒険者だったはず……違ったかな?
お父さんの今までの行動を思い出す限りでは、上位冒険者のような気もするけど。
「どうした?」
今訊く事でもないかな。
「なんでもない。それで教会について何か分かったの?」
「かなり横暴な連中みたいだな。リア副隊長の言う通り20年前から悪化している。その頃から貴族の出入りが頻繁になってるらしいがその理由は村の連中は知らないみたいだ。ギルマスや自警団の団長なら知っている可能性もあるが。訊くのは止めておくよ」
「うん。あまり深入りしないほうがいいと思う」
「あぁ。それと教会に出入りしていた貴族だが、全員ではないが4名の名前は分かった。冒険者の間で有名な屑連中だ。暴力に脅迫、それが明るみに出たら権力と金でもみ消し。まぁ、本当の屑だな」
村の人たちの判断は正しいのか。
それにしても、そういう貴族は金にも汚いはず。
あの教会の装飾はどう見ても、かなりお金をかけているはず。
貴族からお金が出ているって事だよね。
「貴族が大金を出してもいいと思う事って何だろうね」
「ん?」
「教会を維持していたのは、寄付金では無くて貴族からの寄付でしょ? 貴族がお金を出す時ってどんな時かなって思って」
「そうだな、貴族が金を出す時は、自分たちの利益につながる時だろうな」
利益。
あの教会で貴族が利益を得る何かがあった。
何だろう?
「教会が持つ物で、貴族が得をする……何も思いつかないけど、お父さんは?」
「さっぱり分からない。また、魔法陣じゃないだろうな。もう勘弁してほしい」
私も魔法陣は嫌だ。
サーペントさんの所で記憶を消されて、未だに戻っていない記憶があるみたいだし。
忘れた記憶が何かも分からないのが怖い。
ハタカ村では知らない間に、思考をいいように変えられて……。
「本当に魔法陣だけは嫌だね」
「あぁ。旅の準備ができたならすぐに出発するか」
「そうだね。それがいいと思う」
巻き込まれてしまう前に、この村から出よう。
500話達成コメントありがとうございます。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。