463話 やっぱり不便
信頼できる人?
でも、冒険者たちを使って少年を捜しているんだよね?
私の様子を見たリア副隊長さんが苦笑した。
「確かに、教会から依頼が来てしまったので仕方なく捜索隊を作ってますけど、それを予測して前日の夜に上位冒険者たちに少年を捜すように指示してました。まぁ、これは門番たちしか知りませんが」
そうだったんだ。
「なるほど。だから上位冒険者が3チームも動いたのか」
「はい。中位冒険者たちは問題ないのですが、下位冒険者たちの中には教会側につく者もいるので、捜索隊が出る前に少年を保護しようとしたんです」
リア副隊長さんの表情が曇る。
それを見たお父さんが、小さく息を吐く。
「見つからなかったのか?」
「はい。少年、ビスというのですが彼は冒険者ではなく、商家の次男で森に詳しくはありません。そんな彼が、上位冒険者たちから身を隠すのは難しいはずなんです。なのに見つからなくて……」
おかしいな。
森の中を移動すれば、上位冒険者でも完全に痕跡を隠すのは難しいとシファルさんが言っていた。
ビスという少年が森に詳しくないなら、絶対に痕跡は残るはず。
それが無いという事は……森にいない?
「森にいない可能性は無いのですか?」
そう言えば、どうして森だと思ったんだろ?
森に出るには門を越えなければならない。
門で、止められると思うんだけどな。
「あ~それは……実はビスと仲のいい門番がいまして、ビスからお菓子を貰ったらしく、休憩時に食べたらそのまま眠ってしまったようで。どうやら薬を使われたみたいです」
なるほど、眠らせて森へ……本当に森へ行ったのかな?
そう見せかけただけとか?
「森に痕跡がないのは、森へ行ったように見せかけただけだからでは?」
リア副隊長さんが神妙に頷く。
「ドルイドさんは、商人ギルドのカードでしたけど、元冒険者ですか? 鋭いから驚きました」
「いや、これぐらいなら少し考えれば気付くだろう。上位冒険者やギルマスも気付いたんだろ?」
「まぁ、そうですが。話を聞いただけなのに、すごいですよ」
リア副隊長さんの言葉に、お父さんが苦笑を漏らす。
「アイビーも気付いたと思うが。気付いた?」
「えっと、はい。見せかけかな?っと……」
これまでの話を聞けば、普通は気付くよね?
私の返答に、少し目を見開いたリア副隊長さん。
「あっ、もしかして噂を広げたのはギルマスか?」
噂?
今日洗濯場で聞いた、あれの事かな?
「えっと……はい。そうです。この村の男性陣は当てになりませんが――」
「おい」
店主が不服そうに声を出すが、リア副隊長さんは綺麗に無視。
「女性たちは力になります。彼女たちが睨みを利かせていれば、ビスに無体な事は出来ないだろうという事で、噂が早く広まるようにしました」
なるほどね。
確かにこの村の女性たちは、すごい見張り役になりそう。
というか、守るためなら少しの攻撃ぐらいしちゃいそう。
「そうか。この話は秘密だったりするのか?」
「そうです。すみませんが誰にも言わないで下さい」
「分かった」
お父さんの返事に安心した表情のリア副隊長さん。
「訊きたいことがあるんだけど、いいか?」
「はい。協力していただけるみたいなので、答えられる事であれば答えます」
「なぜ貴族がこの村の教会に来るのか。理由は分かっているのか?」
確かに気になる。
どうも、色々やってそうな貴族が集まっているような雰囲気だし。
そういう貴族の場合は、利益が無いときっと来ない。
「それが、分からないのです。昔は、態度が悪くてもそれなりに村と関わっていました。でも、20年ぐらい前から、村と距離を置きだして、態度もどんどん悪化して。気付いたら貴族がお忍びで教会に来てました。20年前に何があったのか、調べても何も出てこなくて」
リア副隊長さんが悔しそうな表情をする。
それに首を傾げる。
彼女は、20代後半に見えるので直接かかわってはいないと思うのだけど、関係者のような印象を受ける。
「あの時、私にもう少し勇気があれば、尻尾を掴めたかもしれないのに」
あれ?
見た目より年上?
「リア副隊長さんって、何歳ですか?」
訊いては駄目かなって思うけど、気になる!
「年ですか? 私は45歳ですよ」
「「えっ!」」
うそ。
全く見えない。
「20代後半かと思ってました」
私の言葉に嬉しそうに笑うリア副隊長さん。
笑うともう少し若く見えた。
「あっ、こんなことを話したいのではなくて……えっと? どこまで話しましたっけ?」
凡その事が分かったので、もう十分だけどな。
「あっ、そうでした。お忍びで来た貴族が子供好きの可能性があるので、数日アイビーを外には出さないようにしてください。貴族が権力を盾に何かしてくる可能性があるので」
うん、そうだと思った。
村の女性たちが私を心配そうに見ていたのは、貴族が関わっているからだろうな。
「分かりました。やることもあるので、宿から出ません」
宿に籠っている間に、マジックバッグに蓄えておく料理を作ってしまおう。
やることがあるし、ちょうどいい。
「すみません。教会の力はやっかいで……」
リア副隊長さんは、仕事の合間を縫ってきてくれていたようで、話が終わるとすぐに仕事に戻って行った。
私のために、忙しい思いをさせてしまったな。
「ドルイドさん。情報が遅くなってしまい申し訳ありません」
店主さんが、お父さんに頭を下げる。
「問題ないので、頭を上げてください。それより、調理場を貸してもらえませんか?」
お父さんの言葉に首を傾げる店主さん。
「旅の道中で食べる料理を作って、マジックバッグに蓄えていたんですが、この村に来るまでにすべて食べてしまったので、また作り置きをして蓄えておきたいんです。少し多めに作りたいので、調理場の空いている時間に貸してもらいたいんですが」
「あぁ、なるほど。えっと……今からなら大丈夫ですが」
今からとなると、材料が無いな。
「明日でも大丈夫ですか? 材料を買いに行きたいので」
材料の買い出しはお父さん1人にお願いすることになってしまうな。
村も色々見てみたかったのに、残念。
「あの、明日でいいなら材料は一緒に買いますけど」
一緒に買う?
「宿に卸してもらっている野菜でよければ、今から注文を掛けるので」
それは嬉しいかも。
卸しの値段で買えるって事だし。
「いいんですか? ご迷惑では?」
「それは無いです。多く注文すると、こちらにも得があるので」
そうなんだ。
「では、お願いします。あ、こめも注文できますか?」
「こめ? こめってあのこめ?」
「……たぶん、そのこめです」
すごい会話だな。
これでまったく予想と違うこめがきたら面白いな。
焦るけど。
「アイビー、必要な野菜を書き出してほしい」
「分かった」
やることがあって良かった。
それにしても、宿に籠る事になるなら、作り置きが完成したら出発した方がいいかな?
長居すると、教会との関わりが出来ちゃいそうだし。
「えっとまずは、丼の具に必要な物から、後はサラダとスープ。お父さん、何か作って欲しいものある? なんでも頑張って作るよ」
「おっ、嬉しいな。……前に食べた、肉を小さく切って薄くして焼いた物をパンに挟んだ……なんだったかな? 名前が思い出せないけど。」
もしかしてハンバーガー?
サンドイッチとの違いがよく分からなかったけど、丸い白パンを見つけて挑戦したんだよね。
お肉を小さく小さく切って、捏ねて、薄く伸ばして焼いて白パンに挟んで食べたっけ。
「ハンバーガー?」
「確か、そんな名前だったかな?」
ん~、パン屋に行って丸い白パンがあれば出来るけど、あまりないんだよね。
お店に見に行って……駄目だ。
宿から出ないほうがいいんだった。
やっぱりちょっと不便かな。
申し訳ありません。
明日は更新をお休みいたします。