457話 冒険者の気配?
「そろそろ、今日の寝床を探そうか?」
「うん。さすがに村を一周するのは大変だね」
「そうだな。もう少し簡単だと思い込んでいたな。悪い」
お父さんの言葉に首を横に振る。
「私もだから」
軽く考えていたのは、私も一緒。
人が多く住む村を一周するのだから、それなりに時間が掛かるのは少し考えればわかることなのに……。
「ソラ、寝床を探してもらってもいいか?」
「ぷっぷぷ~」
ぷるぷると震えたソラは、森を見回す。
そして、村から離れるように森の中に向かって行く。
「あっちみたいだな」
「そうだね」
ソラに付いて行き数分。
大きな岩と大きな木が重なっている場所に出た。
「すごいな、2つに割れている岩の間から木が生えているのか」
「こんなの初めて見た。木が岩にギュッとつかまっているみたいだね」
「なるほど。アイビーにはそう見えるのか」
近付くと、岩に大きな穴が開いているのが分かった。
ソラはその中に突進していく。
「ソラ、危ないよ」
と言いつつも、ソラの態度から安全だとわかるんだけど。
とりあえず、気配を探って穴の中にソラ……とフレムしかいない事を確かめる。
いつの間にフレムは入り込んだんだろう?
気付かなかったな。
「さて、水はどこに……音がするな。この音は、近くに川があるな。そっちでご飯にしようか」
「うん」
川の近くだと汚れた物を綺麗に洗えるから好き。
「今日は、作り置きのご飯にしないか?」
「えっ? 作り置きのご飯?」
「あぁ。村の周辺を回るのは想像より疲れたし、夕飯を食べるいつもの時間も越えているからさ」
確かに、ちょっと疲れているな。
予定では、今頃村の中でゆっくり休憩しているはずだもんね。
それに暗くなり始めているので、今からご飯を作るのはちょっと大変かもしれない。
「うん。じゃあ、今日は楽しよう」
水の音を頼りに川を探しだす。
思っていたより大きな川があった。
川辺を少し歩いて、平らになっている場所にゴザを敷く。
「何が残っているかな? 結構食っただろ?」
調理済みの料理を入れているマジックバッグの中を、確かめる。
「今マジックバッグの中にあるのは……野菜スープと、ピリ辛スープ、牛丼もどきがあって野菜炒めもあるよ。あとは、タレ漬けしたお肉と、それを丼にした物もあるな。あっ、サンドイッチもあった。でも見事に全て一人前しかないや」
見事にバラバラで一貫性がない残り方だな。
しかも、二人前は無いみたいだ。
「好き勝手食べてたからな。サンドイッチは明日の朝に食べようか。あとは……」
「とりあえず、全部出していくね」
ゴザの上にテーブルを出して、マジックバッグから料理を出していく。
その間にお父さんがお茶の用意をしてくれた。
「ぎょっ」
ん?
声に視線を向けると、カゴからのそのそと出てくるトロン。
あっ、トロンのご飯を用意してない。
「トロンが起きたみたいだな。あれから結構な時間がたったけど、葉っぱは元気そうだな」
そう言えば、紫のポーションが足りなかったはずなのに葉っぱはまだ瑞々しいままだ。
「良かった。カリョの花の栄養がトロンを強くしてくれたみたいだね」
「そうだな、これで少し安心だな」
「うん」
ポーションをあげる時間が少し遅くなっても葉っぱが萎れないなら、少し余裕が出来る。
どうしても、時間通りにあげられない時があるだろうし。
「トロンのポーションは、ソラたちのポーションと一緒のマジックバッグか?」
「うん、そう」
お父さんがマジックバッグから紫のポーションを取り出している間に、小ぶりのコップを用意する。
そのコップに少量の紫のポーションを入れると、歩いて傍まで来たトロンをコップの中に入れる。
「ぎょ~」
紫のポーションが根っこから、トロンに浸み込んでいく。
「ゆっくり食べてね」
「ぎゃっ」
トロンの様子を見ながら、マジックバッグに残っていた料理を全て取り出す。
「おっ、六の実を乗せたサラダまであるな。これ、好きなんだよ」
お父さんが、野菜の上に乗っている六の実を崩して野菜に絡める。
最後にチーズを粉にして乗せれば完成。
「よしっ。食うか」
「「いただきます」」
捨て場で思う存分食べてきたソラたちは、少し離れたところで休憩している。
昼間にずっと騒いでいたのでさすがに疲れたのだろう。
「アイビー。スープは飲むか?」
「うん、貰おうかな」
「どっちがいい?」
「どっちでもいいよ。お父さんは?」
「アイビーの料理はどれも美味しいから迷うな。……ピリ辛の方を貰っていいか?」
「いいよ、もちろん」
テーブルの上の料理がどんどんお腹に収まっていく。
いつも思うけどお父さんの食べる量が多い。
あっ、そうでもなかったな。
もっと食べる人たちがいたな。
「どうした? それよりもっと食べないと」
「もう、お腹いっぱいだよ」
「なかなか食べる量が増えないな」
お父さんに心配そうに見られるけど、もう十分だと思うんだよね。
一人前は食べているわけだし。
でも、冒険者の人たちって私の感覚からいくと皆大食いだよね。
もしかして一人前の量が少ないのかな?
「はぁ~、やっぱり美味いな。ごちそうさま」
ほぼ三人前を食べたお父さんに新しいお茶を出す。
食後のお茶ってほっこりして美味しい。
ん?
何だろう……何かが……。
「どうした?」
「えっと、何かが引っかかって」
「引っかかる?」
あっ、これかなり抑えられているけど人の気配だ。
かなり薄くて掴みにくいな。
「上位冒険者だと思うんだけど、森の中に気配があって……」
「グルッ」
シエルの喉が鳴った音が聞こえた。
視線を向けると、シエルが森の中を凝視している。
「こちらに来ているのか?」
「えっと……ううん。来てたけど、止まったみたい」
首を横に振る。
こちらを窺っているような気がしたが、今はしない。
気のせいだったかな?
「大丈夫みたい。あれ? 他にも冒険者たちがいる」
周りの気配を警戒しながら探っていく。
掴めたのは3つの気配の塊。
恐らくチームとして動いているのだろう。
「たぶん3チームの上位冒険者が村の周辺にいるみたい」
「村に帰る途中か?」
帰る途中?
気配の位置から考えると、違和感がある。
「違うと思う」
私の言葉にお父さんの眉間に皴が寄る。
「ソラ、フレム、ソルはこっちへ。シエル、悪いがスライムに変化してくれ。トロンはカゴの中へ」
「うん。でもまだ気配は遠いから」
それに今は、こちらには向かってきていない。
「分かった。だが、何か怪しいと感じるんだろ?」
「……うん」
そう、何か違和感を覚える。
それが何かは分からないけど。
「なら、もしもの事を考えて、行動しておこう」
「分かった」
何かあってから後悔しても遅いからね。
シエルがスライムに変化し、ソラたちが私たちが座っているゴザの下まで来る。
お父さんがコップの中でのんびりしているトロンを、カゴの中に戻す。
「とりあえず片付けるね」
汚れたお皿などを川で簡単にきれいにして、マジックバッグに入れていく。
村に入ったら、マジックバッグに入っている全てのお皿を綺麗に洗い直そう。
「ソラが見つけてくれた寝床まで行くか。アイビー気配は?」
「3つとも動いていないみたい」
「分かった」
マジックバッグを肩から下げ、敷いていたゴザを折り畳むと、寝床まで戻る。
気配を探るが、移動していない。
何だか嫌な予感。
当たらなければいいな。