456話 強くなった?
「お父さん、紫のポーションが無くなっちゃった……」
空の瓶をお父さんに見せる。
「足りなかったか。トロン、少し我慢できるか?」
お父さんの言葉に、空の瓶をじっと見ていたトロン。
視線をお父さんに向けると葉っぱが右に傾く。
「ごめんな、トロンのポーションを切らしてしまったんだ。もう少しでハタル村に着くはずなんだが、大丈夫か?」
「ぎゃっ」
トロンはお父さんの言葉に頷くような仕草をした後、ソラたちの方へちょこちょこと歩いて行った。
「大丈夫かな? 今は、葉っぱの状態も問題ないようだが……」
「前は確か、1時間ぐらいポーションをあげるのが遅かったんだよね」
「あぁ、寝床になる場所を探していたら遅くなったんだ」
お父さんの言葉に頷く。
「そうそう。で、気付いたらトロンの葉っぱが萎れてて」
「あの時は、焦ったよな。トロンもちょっとしんどそうだったし」
根っこもだらんとして、慌てて紫のポーションをあげたっけ。
今は、前の時より葉っぱの状態は良いと思う。
カリョの花畑で栄養を貰ってから、力強さが増したような気がする。
全体的に太くなったし。
でも、やっぱり不安だな。
「とりあえず、変化が無いかこまめに見ておこう」
「分かった」
「ぎゃっ、ぎゃっ」
トロンの声に、視線を向けるとソラの上に乗ってご機嫌のトロンの姿が見えた。
ソラも怒る事なく、楽しそうにぷるぷると揺れている。
その周りをソルとフレムが飛び跳ねて、シエルは近くでその様子を見つめている。
「なんだか、すごく仲がいいよね」
「そうだな。スライムにアダンダラに木の魔物か。不思議な組み合わせだけどな」
確かに不思議だな。
「あの、少し前からなんだけど……シエルがソラたちのお母さんに見えてしまって……」
「確かにな。あの眼差しはそう見えるよな」
遊んでいる子供たちを見守るお母さん。
シエルもまだまだ若いはずなんだけど、無理してないかな?
「あっ」
フレムが何かしたのか、シエルの前足で抑え込まれていた。
「子を叱る母だな」
お父さんの言葉に、すごく納得してしまう。
「さて、そろそろ行くか。あっ、その前に場所の確認をしないとな。え~っと、あの岩があるという事は、ここだよな。なら、あと4時間弱ぐらいでハタル村に着くはずだ」
お父さんが見ている地図を覗くと、指でさしている場所に岩の絵が描かれている。
その絵と、近くにある岩を見比べる。
うん、間違いなくあの岩だ。
あと4時間弱か。
ハタル村がどんな街なのか、楽しみだな。
「皆、行くよ~。トロンはカゴに戻ろうか」
「ぎゃっ」
ソラから離れちょこちょこ歩くトロン。
何度見ても可愛い。
ただ、遅い。
「ぎゃっ?」
「ごめんね」
そっと抱き上げてカゴに入れる。
「ソラたちは、まだまだ余裕がありそう」
「そうだな。最近はバッグの外にずっといるけど、元気だよな」
「うん」
ハタル村へ向かって歩きだすと、目の前をぴょんぴょんと飛び跳ねるソラたち。
ハタカ村を出てから、ずっとこの状態が続いている。
そんなにテントや家の中だけで過ごすのが嫌だったんだろうか?
次の村では、なるべく森の中で遊べるようにしてあげよう。
「そろそろ、ハタル村だな」
立ち止まったお父さんが、地図を見ながら周りを見る。
「村道へ戻った方がいいよね?」
私の言葉に、少し考えると首を横に振った。
「いや。村道へは戻らずに、このまま森の中を歩いて村ではなく捨て場に行こう。足りない物も多くなってるし、紫のポーションは在庫が無いだろ? それから村を一周して、魔法陣が刻まれた石が無いか確認しないと駄目だろう」
その問題もあったな。
そうそう、魔法陣が仕掛けられているとは思わないけど、確認は大切だからね。
「うん、そうしよう」
「悪い、シエル。ハタル村ではなく、捨て場に行きたいんだけど案内をお願いしてもいいか?」
「にゃうん!」
シエルは尻尾を振り振り、森を見回して少し方向を変えた。
捨て場の位置が分かったのだろう。
「トロンは大丈夫か?」
お父さんの言葉にカゴを見る。
元気にトロンが顔を出している。
葉っぱの状態も瑞々しくてとってもいい。
「大丈夫みたい。カリョの花畑で貰った栄養で強くなったのかな?」
「まぁ、あそこで変化したからな。あっ、トロン。村へ入る時は、カゴの中へ姿を隠してもらっていいか?」
「ぎゃ!」
コクコク頷くトロン。
ソラたちのように頭を撫でる事が出来ないので、葉っぱをそっと撫でた。
しばらく森を歩くと、捨て場に到着。
想像以上の大きさにちょっと驚いた。
「村の大きさを考えたら、捨て場がちょっと大きすぎるな。何かあるのか?」
もう、巻き込まれるのは嫌だな。
のんびり旅をしたい。
「さて、人が来る前に始めるか」
「うん。えっとポーションは3種類で、マジックアイテムは……あれ? 空っぽだ」
ソルのご飯用マジックアイテムが入っているバッグを覗き、首を傾げる。
「昨日までは、まだあったよな?」
お父さんの言葉に頷く。
まだ2日分ぐらいは、あったはずなんだけど……。
「見間違いだったのか?」
「そうかな?」
お父さんの言葉に首を傾げながら捨て場へ向かう。
その間に、人の気配が近くに無いか探っておく。
捨て場周辺にはいない様だ。
少し遠くに感じる気配は数個。
気配が薄いので上位冒険者かもしれない。
少し注意しておこう。
捨て場に入ると、ソラたちが嬉しそうにゴミの中に突進していく。
「気を付けてね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
捨て場の外を見ると、カゴを守るように寝そべっているシエル。
トロンも安心しているのか、カゴの中でじっとしている。
「さて、拾うか!」
まずはトロンの紫のポーション。
それにしても、ソラとフレムが空き瓶を食べてくれてたすかった。
そうでないと、バッグの中に空き瓶だけが溜まるところだった。
あれ?
そうなると、ソラとフレムのご飯って空き瓶でも良かったって事?
ん~?
ソラには空き瓶を食べるか試した事があるような気がするんだけど……どうだったかな?
それにしても、
「紫のポーションは少ないな」
「こっちに10本あったけど、アイビーの方はどうだ?」
「こっちは7本。場所を移動して探してみるね」
「頼む。俺は他の物を拾っていくよ」
「お願い」
気配を探りながら、紫のポーションを拾っていく。
元々出回る数が少ないだけあって、捨てられている数も少ない。
ソラたちのポーションを拾いながら、紫のポーションを探す。
「どうだ?」
「お父さん。紫のポーションは50本だけだった」
「こっちは21本だ。少ないな」
「うん。どうしよう? 足りなくなるよね」
「1回の量が少ないから、すぐにはなくならないだろうが。これから成長していく事を考えたら、確実に足りないな」
他のポーションでは代用できないし。
どうしよう、困ったな。
「とりあえず、今はこれで終わろう。ソラとフレムのポーションは十分に確保できたし、ソルのマジックアイテムも大丈夫だ」
あっ、ほとんどお父さんに任せてしまったな。
「ありがとう」
ん?
遠くにいた冒険者の気配がこちらに来てる。
「お父さん、まだ遠いけどこちらに来てる冒険者がいるみたい」
「そうか。皆、集合」
お父さんの声にソラたちが、傍に寄ってくる。
「人がこちらに来る可能性があるから、もう行こうか」
お父さんの言葉に、ソラたちが頷く。
「よしっ。村を一周するのも結構時間が掛かるだろうから、急ぐか」
確かに、かなりの距離になるだろうな。
「面倒くさいね。もうさ、数mの距離に1つも無かったら問題ないってなればいいのにね」
「そうなれば、よかったんだけど。たった1個でも、魔法陣が発動してしまったからな。面倒くさいが仕方ない」