454話 カリョの花畑
「お父さん、紫のポーションが無くなりそう」
「あと2日でハタル村に着く予定だが、足りないか?」
瓶に残っている紫のポーションを見る。
ぎりぎり何とかなるかならないかぐらいの微妙な量しか残っていない。
お父さんも残っている量を見て、少し難しい表情をした。
肩から下げたカゴからは、紫のポーションをじっと見つめるトロンの姿。
「少し急いでハタル村へ向かうか」
お父さんの言葉に頷く。
トロンは1日3回、少量の紫のポーションをあげないと双葉が萎れてしまう。
萎れた後どうなるのかは、怖くて確かめていない。
「シエル、明日中にハタル村へ着きたいから速度を少し速めてくれ」
お父さんの言葉に少し首を傾げたシエルは、しばらくすると頷いた。
シエルが頷いたので、明日にはきっとハタル村に着いているはず。
「アイビー、大丈夫か?」
お父さんの言葉に頷く。
ハタカ村を出た時は少し体力が落ちていたけど、今は元に戻っている。
なので問題なし。
「よしっ。休憩を終えてハタル村へ向かうぞ」
使用したコップなどを、簡単に洗ってマジックバッグへと仕舞っていく。
全て仕舞い終わると、周辺を見渡し忘れ物が無いか確かめる。
「忘れ物はなし! よしっ。皆、行こう!」
私の言葉に、シエルが先頭を歩き出す。
ソラたちはシエルの横を大人しく飛び跳ねていたが、すぐに3匹で遊びだしてしまった。
その光景につい笑みがこぼれる。
「ん? 何かいい事でもあったのか?」
お父さんの言葉に、ソラたち3匹を指す。
視線を向けたお父さんは、枝から枝へ飛び移っている3匹を見て「おお~」と声を出した。
最初の頃は寝っぱなしだったフレムも、ハタカ村を出たあたりから急に体力がつき移動中はバッグで寝なくなった。
ソラはそれが嬉しいようで、フレムによく絡みに行っている。
最近はそこにソルが加わり、以前より賑やかになっている。
「そう言えば、アイビーとテイム関係を築いてからソルは変わったな」
確かに、テイムの印が刻まれてからソルは変わった。
以前のソルは、皆でいる時間より1匹でいる時間の方が長かった。
だから1匹の方が好きなのかと思っていたがそうでもなかったようで、今では皆と一緒にいる時間の方がはるかに長くなった。
そしてもう1つ大きな変化は、私やお父さんに甘えてくれるようになった事。
以前のソルには、どこか遠慮をしている印象を受けたが、今はソラやフレムと競って甘えてくれるようになった。
4匹に一気に甘えられると大変だけど、皆が可愛い過ぎる。
「それにしても、器用だな~」
太い枝や細い枝を気にせずぴょんぴょん飛び移っていくソラたち。
前はハラハラしたけど、今では笑って見ていられる。
まぁ、時々落ちてくるけど……。
しかも不意に落ちてくるから、結構驚く。
「お父さん」
3匹で楽しそうにしている姿にはほっこりするけど、ちょっと不安な事がある。
「ん。どうした?」
「スライムって……枝を器用に飛び移ったりする魔物だったっけ?」
スライムの勉強をした時に、そんな記述は全く無かった事だけは覚えている。
「……まぁ、レアだから。スライムらしくない事が今更1つ増えたところでさ」
そうなんだけど。
やっぱり、スライムらしくないのか。
最近はスライムらしいところを探す方が難しくなってきている気がするんだよね。
「うちの子、皆個性的すぎる」
「あはははっ、それは言えてるな」
歩く速度を緩めず、3匹を見る。
「ぷっぷ~」
「てっりゅ~」
「ぺふっ!」
森に響く3匹の鳴き声。
さすがにこれは駄目だ。
「魔物を呼び寄せるから静かにね~」
ちょっとだけ注意をしておく。
シエルがいるため、魔物は来ないけど。
もしかしたら、問題のある魔物が来てしまうかもしれない。
「ぷっ」
「りゅ」
「ぺっ」
ソラたちから、小さな鳴き声で短い返事をもらった。
「あいつら、楽しんでいるな」
お父さんがソラたちを見つめながら肩を竦める。
「グルル」
少し前を歩いていたシエルが、不意に喉を鳴らして立ち止まった。
「どうしたの?」
シエルを見ると、前方を少し険しい表情で睨みつけている。
「にゃうん」
低くシエルが鳴くと、木の上で遊んでいたソラたちがすぐに私の周りに集まってきた。
「何かあるみたいだな」
お父さんが剣に手をかける。
シエルも威嚇をしながら、先へ進む。
しばらくすると、甘い香りがしてきた。
濃厚な甘い香り。
「なんの香りなんだろう。ちょっとここまで濃いとくさいね」
お父さんは布を取り出すと、口と鼻を覆った。
「アイビーも」
お父さんの言葉に、バッグから布を取り出すと口と鼻を覆った。
「シエルは大丈夫?」
「にゃうん」
嫌そうに鳴くが大丈夫そうだ。
ソラたちを見ると、ソラたちもなんだか嫌そうな表情をしている。
「あっ、この香り!」
お父さんが立ち止まると、驚いた表情をした。
「お父さん、この香り何か分かったの?」
「あぁ、多分。カリョという麻薬だ」
えっ! 麻薬!
「香りを吸い込んでるけど、問題ない?」
シエルたちも心配だ。
慌ててお父さんを見ると、ポンと頭を撫でられた。
「落ち着け、大丈夫だから。カリョは根っこが麻薬なんだ。花の香りには問題ない。ただ濃厚で吸い過ぎると気分が悪くなるが」
確かに濃厚過ぎて、気分が悪くなるというより苦しくなる。
「おかしいな」
「何が?」
「カリョは自然に生える植物だが、密集して生えることは絶対に無いんだ。でもこの香りの強さから、かなりの量のカリョが集まって咲いている気がする」
どれくらいのカリョがあるのか予想できないけど、とりあえず自然ではありえない状態なのか。
という事は、誰かが植えた?
麻薬成分がある植物を、つまり。
「麻薬のために、誰かが育てている可能性もあるのかな」
「あるだろうな。もしそうなら大量にカリョがあるかもしれない。どうしようか?」
どうしようかって、麻薬と分かっていて放置するわけにもいかないよね。
でも、これってまた何かに巻き込まれる事になるのかな?
だったら見ないふり?
でも、……気になるよね、絶対に。
お父さんを見る。
「放置すると後々気になるよな」
「うん、私はきっと気にすると思う」
損な性格だとは思うんだけど、こればっかりは仕方ない。
「時間が掛かるが対処していくか」
「どうするの?」
「森の中で一輪でも咲いているのを見つけたら、根を掘り出して燃やすんだ」
「そこまでするの?」
自然に生えたカリョならそのままでもいいような気がするけど。
「カリョの麻薬は依存性が強く、一輪でも多くの者たちを依存症にする事が出来るんだ。だからたとえ一輪でも見つけたら、麻薬成分がある根っこも含めて燃やすことになっている」
そうなんだ。
依存性が強い麻薬。
ちょっと怖いな。
周りの気配を探る。
濃厚な香りが集中力を邪魔するので少し時間が掛かってしまったが、何とか探る事が出来た。
「お父さん、周りに人の気配は無いよ」
「分かった。香りが強くなってきたな」
「うん、気持ち悪い」
口と鼻を布で覆っているが、かなりすごい。
何とか気分の悪さを抑えて進むと、一気に森の一部が開けた。
「「あっ」」
そして一面に広がるカリョの花。
「すごい」
「完全に人の手が加わっているな」
お父さんがため息を吐く。
「大仕事だぞ、これは」
確かに一面に広がるカリョの花畑。
根っこを掘り起こして燃やすらしいけど、間違いなく大事だ。
時間が無いのに……。




