453話 トロンの居場所
「これぐらいかな? まだ大きいかな?」
森の不法な捨て場で、トロンが入るカゴを探すがなかなかいい大きさが見つからない。
産まれたばかりで小さいトロンには、どれも大きすぎるのだ。
トロンの大きさは、だいたい私の掌の大きさ。
ただ、ひょろっとしている姿なので、力を込めて掴むと折れてしまいそうで怖い。
「もう少し小さいカゴが欲しいな」
お父さんの言葉に頷くと、丁度いい大きさのカゴが無いか探す。
「あ~、腰が!」
ずっと中腰で探していたため腰が痛い。
背をぐっと伸ばして筋肉を解すと、気持ちがよく「ん~」と自然と口から声が出た。
周りを見るとソラたちが、ポーションを食べながらカゴを探してくれているのが分かる。
いい子たちだな。
今トロンは、不法な捨て場の外、シエルの頭の上にいる。
根っこでしっかりとシエルの毛を掴み、落ちないように踏ん張っているはずだ。
「まさか、4回もトロンを探す事になるとは思わなかったもんね」
最初は洞窟内で、手に持っていたトロンを躓いた拍子に飛ばしてしまったため。
ただ、この時はトロンの飛んで行った方向をシエルがしっかり見ていてくれたのですぐに発見することが出来た。
あれには、本当に安堵した。
次が、手に持って移動するのは危険だとバッグに入れようとしたが、トロンが拒否。
蓋が閉まるのが駄目なのかと、小さめの蓋の無いバッグを大きなバッグに括り付けてその中へ。
その時は、問題なく収まってくれたので安心していたが、気付いたらいなかった。
慌てて来た道を引き返しながらトロンを探す事30分。
ふらふらになっているトロンを発見。
急いで紫のポーションを与えて様子を見る事になった。
すぐに復活してくれたが、小さいバッグに入る事を拒否。
仕方ないので大きなカゴの中に布を敷いてトロンを入れ、お父さんが持って移動することに。
しばらくするとまたトロンがふらふらになっている事に気付き、紫のポーションで復活。
その時にトロンが入っていたカゴの中の布が湿っている事に気付いた。
トロンが入っていたバッグも、カゴに敷いていた布も、どちらも布製。
布製の物とトロンの相性が悪いのではという事になったので、布を取り除きカゴの中へ。
ただ、布を取り除くとカゴが大きすぎたためトロンがカゴの中であっちにころころ、こっちにころころ。
知らない間に落ちてしまっていた。
すぐにお父さんが気付いたので発見までに5分だったが、大きすぎるカゴは駄目だとわかった。
ここまでは洞窟内だったため、比較的探しやすかったと知ったのは、カゴに入っていたトロンが風で飛ばされて森の中を探す事になった時。
トロンの双葉は小さかったが、洞窟内ではある程度目印になっていた。
が、森の中ではその双葉が役に立たない。
しかも小さい。
見つけるまでに2時間以上。
フレムが、木に絡まっている蔓に引っかかって身動きが出来ないトロンを発見した。
かなり暴れたのか、双葉の一部が破れていた。
どうしようかと話していると、シエルが私の前に頭を差し出した。
意味が分からず、差し出された頭を撫でるとトロンが急にシエルの頭の上に乗った。
そして、一生懸命に毛に根っこを絡めるとシエルが満足そうな表情を見せた。
「大丈夫?」とシエルに確かめると、頷いたので様子を見ることに。
それからは、何とか見失う事も無く森を歩く事が出来た。
そして見つけた不法な捨て場。
トロンのご飯、紫ポーションの補充もしたかったので捨て場で必要な物を拾う事にした。
「見つからないな」
お父さんが腰を叩きながら、傍に来る。
手には、少し小さめのカゴを持っているが、トロンにはどれも大きく見える。
「そうだね」
ソラとフレム、ソルはポーションやマジックアイテムを食べながらゴミの間を行ったり来たり。
小さめのカゴを見つけると、持って来てくれる。
ただ、「これ!」という大きさが無い。
「ソルが持って来てくれたカゴが今は一番小さくていいかな」
足元に置いていたカゴをお父さんに渡す。
カゴの状態を確かめたお父さんが頷く。
「確かにこれだと、カゴの中で転がってトロンが目を回すことは無いな」
「うん。ただ、このまま使うとカゴからトロンが落ちるよね」
大きさは一番適しているのだが、高さが少し他のカゴより低い。
そのため、使用するなら少し手を加える必要がある。
「そうだな。風や歩いている振動で落ちてしまうからな」
「カゴの底に、トロンが根っこでしっかりつかめる棒を入れてみようと思うけど、どう思う?」
近くに落ちていた少し細めの棒をカゴの底に入れて見せる。
「いい考えだな。シエルの上で落ちないように踏ん張っているのを見ると、根には体を支える力がありそうだからな」
「うん。あとは棒の太さが問題かな? トロンがつかまりやすい太さを探さないと。それにカゴに紐をつけて、肩から提げられるようにして」
色々やることがあるな。
「とりあえず、今言った物を拾っていくか」
「そうしよっか」
太さが色々な棒と、肩からカゴを下げる為に必要な紐。
カゴを補強するための、強度がありそうなカゴも数個拾う。
「ソラ、フレム、ソル。そろそろ行くぞ。紫のポーションはあったか?」
「それが4個しか見つけられなくて」
「あ~、呪いを解くポーションは出番が少ないからな」
呪いよりも圧倒的に怪我や病気が多いので、紫のポーションは他のポーションより作られる数が少ない。
そのため捨てられる数も他のポーションに比べると少なくなってしまう。
「まぁ、あっただけ良かったと考えるべきかな?」
「そうだね。とりあえず全部拾っておいた」
トロンがまだ子供なので、紫のポーションも少なくて済む。
これが大きくなると、ちょっと大変かもしれないな。
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ、ぺふっ」
満足できたのか、3匹が満足そうに私たちのもとへ来る。
「そろそろ移動しようか」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ、ぺふっ」
捨て場を出て、シエルの元へ行く。
すぐに頭の上を確認してトロンがいる事を確かめる。
「シエル、ありがとう」
私の言葉に尻尾をバタバタと振るシエル。
トロンに当たらないようにシエルを撫でる。
「トロンのカゴは、ここで手を加えていくか?」
「うん。補強と紐をつけるぐらいならすぐに出来るから」
拾ってきたカゴなどを目の前に並べる。
トロンが直接入るカゴを、濡らした布で綺麗に拭いていく。
拭いても布が汚れない状態になるまで綺麗にすると、補強するために拾ってきたカゴを必要な大きさに切る。
カゴの外側に切ったカゴを合わせて細めの縄で括り付け補強すると、ついでに肩から下げるための紐もカゴに結び付ける。
最後に、お父さんがトロンと一緒に探した掴まりやすい太さの棒をカゴの外側から中に向かって差し込む。
この時、カゴより大きな棒を用意すると上手くいく。
棒が移動しないように紐で括り付けたら完成。
「低かったカゴの高さもある程度高く出来たし、肩から下げる紐も結んだし……これで、大丈夫なはず!」
広がっていた道具を片付ける。
「上手に作るよな」
お父さんがカゴの強度を確かめるために、カゴを軽く引っ張る。
何度か試すと頷いた。
「よし。はい、トロンの場所だぞ」
シエルの頭の上にいるトロンに、お父さんがカゴを見せる。
トロンは少しの間カゴを見ると、ちょこちょことカゴに移動した。
良かった。
見た目は補強したあとがあったりして、カッコ良くないが旅で必要な強度はある。
上手くいっていれば、次の村まではこのカゴで十分のはず。
「さて、遅くなったがハタル村へ行こうか」