452話 新しい仲間
手の中で動く双葉の木の魔物を見る。
3本ある細い根っこで、必死に起き上がろうとしている。
じっと見ていると、プルプルしながらも立ち上がった。
「お父さん、立ったよ」
「みたいだな」
何だか可愛いな。
まだぷるぷるしてる。
そう言えば、襲われた後で調べた本には親の情報しか載ってなかったな。
子供が産まれた場合は、最初に何が必要なんだろう?
木の魔物は植物だよね?
「土に水に栄養?」
「最初にそれが気になるのか?」
お父さんの言葉に首を傾げる。
ん?
他に気にしないと駄目な事なんてあったかな?
「ぎゃ?」
木の魔物が不思議そうに私とお父さんを見る。
お父さんが小さく笑って首を横に振る。
何だろう?
「なんでもない。それより、子供には水は必要か?」
お父さんの言葉に、木の魔物が体をプルプルと左右に揺らす。
いらないって事だろうか?
それとも意味が伝わらなかった?
「ぎゃ!」
木の魔物が根を私たちの前に持ってくるとパタパタと動かす。
すると根っこに水滴がついていた。
「すごいな、空気中から水分を集められるのか」
「ぎゃ!」
「この子も自分で集められるの?」
手の中の木の魔物の子供をちょっと上にしながら訊く。
「ぎゃ!」
大丈夫そう。
「すごいね。あとは栄養……ごはんは何だろうね?」
「木の魔物は、魔力を吸収して大きくなる魔物だから、魔力じゃないか?」
魔力?
「ソルみたいに、マジックアイテムから取ったりできるかな?」
「無理だったら、俺から与えればいいのかな?」
お父さんから?
「ぎゃぎゃ」
私とお父さんの会話を聞いていた木の魔物が、ぶるぶるとちょっと激しく左右に揺れる。
どうやら違うらしい。
「違うのか。何が必要なのか教えてくれないか?」
木の魔物を見ると、私が肩から下げているバッグを根で指した。
そのバッグには、旅に必要な物が入っている。
バッグの蓋を開けると、するすると根っこがバッグの中に入って何かを取り出す。
「紫のポーション?」
「呪いを解くポーションは少し特殊な魔力が込められていたな」
そうなの?
知らなかった。
紫のポーションを目の高さまで持ち上げる。
少し濁ってきているポーション。
ソラたちと一緒で劣化版のポーションで大丈夫なのかな?
木の魔物を見ると、じっと紫のポーションを見つめている。
「欲しいの?」
私の言葉にくねくねする木の魔物。
瓶ごと木の魔物に渡すと、根を器用に使って瓶の蓋を開けると中身を自分の体に掛けた。
「器用だな」
「器用だね」
紫のポーションが掛けられた場所を見ると、ポーションがスーッと木に浸み込んでいくところだった。
消化したというより吸い込まれた印象だ。
バッグから紫のポーションを取り出すと、蓋を開けて手の中にいる木の魔物の子供にかける。
「あっ、多かったみたい」
手の中で、紫のポーションに木の魔物の子供が浸かってしまった。
お父さんに見せると、木の魔物の子供だけをちょんと持ち上げてくれたので、残った紫のポーションを目の前にいる木の魔物にかけた。
「お父さん、大丈夫だった?」
「あぁ、特にポーションに浸かっても大丈夫そうだ」
手の中にいる木の魔物の子供を見せてくれる。
元気に、くねくねしている。
小さいと、このくねくねがすごく可愛い。
母親と言っていいのか不明だけど、目の前の大きな木の魔物がくねくねしても可愛いけど、子供と比べると迫力がありすぎる。
「ところでアイビー、この子どうするんだ?」
「えっ? さぁ?」
どうするってどうすればいいんだろう?
というか、なんで木の魔物はこの子を渡してきたんだろう?
木の魔物を見ると、激しくくねくねしていた。
「え~……ごめん。何?」
私の言葉にぴたりと動きを止める木の魔物。
じっと私を見ると、お父さんから子供を受け取って私に渡してきた。
「どうぞって事?」
私の言葉に上下に揺れる木の魔物。
またピシリと洞窟が鳴る。
手を差し出して受け取るが、これって私が育ててねって事かな?
「お父さん、木の魔物の育て方ってわかる?」
「まったく分からん。紫のポーションをあげておけばいいんじゃないか?」
「それだけでいいのかな?」
というか、なんで木の魔物はこの子を私に渡したんだろうか?
木の魔物とは、以前襲われた時のあの魔物以外では2匹目のはずなんだけど。
「……連れて行くのか?」
「えっ? せっかくだし。可愛く踊っているし」
手の中の木の魔物は小さい根っこを器用に使ってぴょんぴょん飛び跳ねている。
「こんなに小さいのに、色々な動きが出来るんだね。お父さん、すごくない?」
手の中の木の魔物を見ながら、お父さんが首を傾げる。
「どうしたの?」
「木の魔物は、木に魔力が溜まる事で産まれると言われていたから、子供がいるのを見るとちょっと不思議な気がしてな」
そう言えば、そう本にも書いてあったな。
でも、実際に子供が産まれたわけだし……。
「いろいろな方法で産まれるんじゃないかな? 何も1つの方法だけとは限らないし」
「まぁ、そうかもしれないが」
「ぎゃっぎゃっ!」
「ぷっぷぷ~」
「にゃうん」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
皆の声が聞こえたので視線を向けると、洞窟の岩の間に木の魔物が帰っていくところだった。
「「えっ?」」
今まで傍にいたのに、いつの間に移動したんだろう。
本当に音がしないな。
木の魔物は、すすっと隙間に入って、ちらりとこちらを見ると根を左右に振って見えなくなった。
「帰って行ったな」
「うん」
お父さんも私も、ちょっと唖然として去っていく木の魔物を見送ってしまった。
だってまさか、帰ってしまうとは思わなかったから。
「置いて行ったな」
お父さんが私の手の中の木の魔物の子供を見る。
「そうだね」
私も手の中を見ると、こちらの様子を見上げているように見える木の魔物の子供。
「自由だな」
「ふふっ、確かに」
手の中の木の魔物の子供は、親がいなくなっても気にした様子を見せない。
木の魔物の間ではこれが普通なんだろうか?
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「にゃうん」
遊び相手がいなくなったからか、ソラたちが私の下へ来る。
「楽しかった? 遊んでもらえてよかったね」
「ぷっぷぷ~」
「てっりゅりゅ~」
「ぺふっ」
「シエル、見守っていてくれてありがとう」
「にゃうん」
順番に空いている手で頭を撫でていく。
「にゃ!」
シエルが私の手の中を見て、一声鳴く。
ソラたちも興味があるようで、ちらちら私の手の中を窺っている。
「アイビー、名前を付けてあげないとな」
そうだよね。
一緒に旅をするなら、名前がないと不便だよね。
名前……木の魔物か~。
「あっ、トロン! トロンってどう?」
木の魔物の子供はじっと私を見つめていたが、名前を聞くと手の中でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「気に入ったみたいだな」
「うん」
良かった。
それにしても小さいな。
これは気を付けないと、踏みつぶしてしまうかもしれない。
「お父さん、この小ささが心配なんだけど」
「俺もだ。次の捨て場で何か探そう」
「うん、それまで……どうしよう」